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武士訓 / 卷一・第3段

士たらんものは。特更おさなきより。まづ文學を專にすべし。學問は人の人たる道なれば。朝夕わするべからず。この故に。蒲宗孟が子孫をいましむる語にも。さむきに衣はなかるべし。飢に食はなかるべし。書をよむことは。一日も失すべからずといへり。學問といへば。ひろきことのやうなれども。つゞむるところ。忠と孝とのふたつにいでず。其他は二つの理にこもれり。いにしへの聖賢の御ことばによりて。心をおさめ。身におとなふ工夫のためなれば。四書。小學近思錄をよみ。師につきて。孝弟忠信禮義廉恥の理をたづね知べし(たゞし專ら程朱の說によりて。學ぶべし。)かくして餘力もあらば。五經にも及び。諸家にもわたるべし。たゞ一言半句にても。今日の上にひきうけて。修行とするを。學問の本意とするなり。たとひもゝとせのよはひをたもつとも。道をしらずして。空しく年月をすごすは。人の人たるにはあらざるなり。古語に腹不飽詩書謂之餒。目不接聖賢謂之瞽。耳不聞善言謂之聾。身不遠聲色謂之窄。行不脫凡俗謂之痼と有。もつともいましめとすべし。

新字:士たらんものは。特更おさなきより。まづ文学を専にすべし。学問は人の人たる道なれば。朝夕わするべからず。この故に。蒲宗孟が子孫をいましむる語にも。さむきに衣はなかるべし。飢に食はなかるべし。書をよむことは。一日も失すべからずといへり。学問といへば。ひろきことのやうなれども。つゞむるところ。忠と孝とのふたつにいでず。其他は二つの理にこもれり。いにしへの聖賢の御ことばによりて。心をおさめ。身におとなふ工夫のためなれば。四書。小学近思録をよみ。師につきて。孝弟忠信礼義廉恥の理をたづね知べし(たゞし専ら程朱の説によりて。学ぶべし。)かくして余力もあらば。五経にも及び。諸家にもわたるべし。たゞ一言半句にても。今日の上にひきうけて。修行とするを。学問の本意とするなり。たとひもゝとせのよはひをたもつとも。道をしらずして。空しく年月をすごすは。人の人たるにはあらざるなり。古語に腹不飽詩書謂之餒。目不接聖賢謂之瞽。耳不聞善言謂之聾。身不遠声色謂之窄。行不脱凡俗謂之痼と有。もつともいましめとすべし。

書き下し

士たらんものは。特更おさなきより。まづ文學を專にすべし。學問は人の人たる道なれば。朝夕わするべからず。この故に。蒲宗孟が子孫をいましむる語にも。さむきに衣はなかるべし。飢に食はなかるべし。書をよむことは。一日も失すべからずといへり。學問といへば。ひろきことのやうなれども。つゞむるところ。忠と孝とのふたつにいでず。其他は二つの理にこもれり。いにしへの聖賢の御ことばによりて。心をおさめ。身におとなふ工夫のためなれば。四書。小學近思錄をよみ。師につきて。孝弟忠信禮義廉恥の理をたづね知べし(たゞし專ら程朱の說によりて。學ぶべし。)かくして餘力もあらば。五經にも及び。諸家にもわたるべし。たゞ一言半句にても。今日の上にひきうけて。修行とするを。學問の本意とするなり。たとひもゝとせのよはひをたもつとも。道をしらずして。空しく年月をすごすは。人の人たるにはあらざるなり。古語に腹不飽詩書謂之餒。目不接聖賢謂之瞽。耳不聞善言謂之聾。身不遠聲色謂之窄。行不脫凡俗謂之痼と有。もつともいましめとすべし。

現代語訳

士たる者は、とりわけ幼いころから、まず学問を専一にすべきです。学問は人が人である道ですから、朝夕忘れてはなりません。そのため、蒲宗孟が子孫を戒めた言葉にも、「寒いときに衣がないことがあってもよい。飢えたときに食がないことがあってもよい。書を読むことは、一日も欠かしてはならない」とあります。学問というと広いことのようですが、つづめれば忠と孝の二つを出ず、その他はこの二つの理の中に含まれます。昔の聖賢の言葉によって心をおさめ、身をととのえる工夫のためですから、四書、小学、近思録を読み、師について、孝弟忠信礼義廉恥の理をたずね知るべきです(ただし、もっぱら程朱の説によって学ぶこと)。そのうえで余力があれば五経にも及び、諸家にもわたるべきです。ただ一言半句でも、今日の自分の上に引き受けて修行とすることを、学問の本意とします。たとえ百年の寿命を保っても、道を知らずに空しく年月を過ごすのは、人が人であるとは言えません。古語に「腹が詩書で満たされないことを餒(うえ)という。目が聖賢に接しないことを瞽(めしい)という。耳が善言を聞かないことを聾という。身が声色を遠ざけないことを窄(せまい)という。行いが凡俗を脱しないことを痼(なおらぬ病)という」とあります。ぜひ戒めとすべきです。

解説

武士にまず学問を、それも幼いころから求める段です。学問は忠と孝の二つにつづまると言い切り、四書・小学・近思録から入る順序まで示します。大切なのは博識より、一言半句でも今日の自分の行いに引き受けることだ、という点です。ここでいう学問は、いまの資格勉強や知識の量とは少し違い、人としての行いを整えるためのものです。仕事に引き寄せれば、読んだ本の一節を今日の会議や面談でどう使うかを決めることが、学びを本物にする第一歩になります。程朱の説に限るという但し書きは、この書の立場を示しています。

この章句が説くこと

学問忠と孝四書小学近思録一言半句修行武士訓

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