武士道 / 第十六章 武士道の命脈・伊藤大隈板垣の回顧談
又た伊藤、大隈、板垣等現存せる數氏の回顧談に聞け、而して彼等俊傑の士は武士道の下に其思想行爲を刺戟せられたるものなるを知らん。ヘンリー、ノルマン氏は絕東問題を研究觀察したる後、日本國の他の東洋專制國と異なれる唯一の特點を擧げて、『人智の案出したるものゝ中、至正、至高且つ至嚴なる廉耻の感念の、國民に及ぼせる統治的感化なり』と云へるは、即ち能く新日本の今日を興し、又た之をして將來の宿命に到達せしむべき原動力に觸着したる卓見なり。日本の改造刷新は全世界に顯揚せる事實なり。此の大事業を爲すに當りてや、自から諸多の動機の混入せるあり。然りと雖、人若し其主力を擧げんには、何人も指を武士道に屈するに脚〓せざるべし。
新字:又た伊藤、大隈、板垣等現存せる数氏の回顧談に聞け、而して彼等俊傑の士は武士道の下に其思想行為を刺戟せられたるものなるを知らん。ヘンリー、ノルマン氏は絶東問題を研究観察したる後、日本国の他の東洋専制国と異なれる唯一の特点を挙げて、『人智の案出したるものゝ中、至正、至高且つ至厳なる廉耻の感念の、国民に及ぼせる統治的感化なり』と云へるは、即ち能く新日本の今日を興し、又た之をして将来の宿命に到達せしむべき原動力に触着したる卓見なり。日本の改造刷新は全世界に顕揚せる事実なり。此の大事業を為すに当りてや、自から諸多の動機の混入せるあり。然りと雖、人若し其主力を挙げんには、何人も指を武士道に屈するに脚〓せざるべし。
書き下し
又た伊藤、大隈、板垣等現存せる数氏の回顧談に聞け、而して彼等俊傑の士は、武士道の下に其思想行為を刺戟せられたるものなるを知らん。ヘンリー・ノルマン氏は極東問題を研究観察したる後、日本国の他の東洋専制国と異なれる唯一の特点を挙げて、『人智の案出したるものの中、至正、至高且つ至厳なる廉恥の感念の、国民に及ぼせる統治的感化なり』と云へるは、即ち能く新日本の今日を興し、又た之をして将来の宿命に到達せしむべき原動力に触着したる卓見なり。日本の改造刷新は全世界に顕揚せる事実なり。此の大事業を為すに当りてや、自から諸多の動機の混入せるあり。然りと雖、人若し其主力を挙げんには、何人も指を武士道に屈するに(躊躇)せざるべし。
現代語訳
また伊藤(伊藤博文)、大隈(大隈重信)、板垣(板垣退助)ら、今も存命の人々の回顧談を聞いてみよ。そうすれば、これらの傑出した人物が武士道のもとで思想と行動を刺激されたことがわかるだろう。ヘンリー・ノーマン氏は極東の問題を研究し観察したのち、日本が他の東洋の専制国家と異なる唯一の特徴を挙げて、「人間の知恵が考え出したものの中で、最も正しく、最も高く、かつ最も厳しい名誉の感覚が、国民に対して及ぼしている支配的な感化である」と言った。これは、新日本の今日を興し、またこれを将来の運命に到達させるであろう原動力に触れた卓見である。日本の改革刷新は全世界に知れわたった事実である。この大事業を成し遂げるにあたっては、当然さまざまな動機が入り混じっていた。けれども、もしその主な力を挙げるとすれば、誰もが武士道を指折り数えることをためらわないだろう。
解説
この章句が説くこと
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『武士道』第十六章 武士道の命脈・廉恥の観念こそ最強の動機氏は又た問うて曰く、『何の処にか、日本を改造したる欧洲の使徒あり、碩学あり、政治家あり、はた又た煽動者ありや』と。論者は能く、日本の変造刷新を生ずるに至りたる所以の原動力の、全然日本人の中に存せるものなることを洞観したり。ただ氏にして、もし更に一歩を進めて日本民族の心理を探究したらんには、其の燃犀の観察眼は直ちに、彼の原動力の即ち武士道に外ならざる所以を確知するを得たりしならん。要するに我邦の、劣等国として他の侮蔑を蒙るに忍ぶ能はざる廉恥の観念は、これぞ即ち吾人の最強なる動機なりける。殖財又は興業を云々するが如きは、国家改新の道程に於て、ようやく近時に至りてわずかに醒起したる問題に過ぎざるのみ。武士道の感化のなおすこぶる炳然たるは、走りながらにも亦た之を読むことを得べく、日本人の生活を一瞥せば、おのづから釈然たるべし。
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『武士道』第十六章 武士道の命脈・新時代を形成する勢力たるべし氏の説たる、之を形而下の制度文物に於て云ふものなりとすれば、多く正鵠を逸せずと雖、もし之を根本的の倫理観念に適用せんとせば、多少の刪正を加へざるべからず。乃ち旧日本の創建者たり、又た其生産物たる武士道は、依然として過渡時代を指導するの主義にして、又た新時代を形成するの勢力たるべきなり。王政復古の狂瀾、維新回天の怒濤を冒して、我が国船を指揮したる大政治家の流は、皆其徳教の拠るべきもの、ただ武士道あるを知るの人なりき。近くは二三の者あり、基督教宣教師の新日本建設に与りて著大の貢献を為したることを徴証せんとす。予は固より、栄ある所に栄を帰せんことを欲す。されどここに云ふが如き名誉は、之を取りて我が賢明なる宣教師に賦与するに苦しむものなり。
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『武士道』第十六章 武士道の命脈・吾人を刺励したるは純粋簡易の武士道いわんや彼等宣教師は、互に栄を他に帰すべしとの聖書の訓戒を固守して、何等の証左も無きに自から己れに名誉を収めんとすること無からんは、更に其職に忠なるの所以なるをや。予は自から信ず、基督教宣教師は日本に対し、殊に教育、就中道徳教育の領域に於て大いに尽瘁する所ありと。されどただ、聖霊の活動は確乎たりと雖、なお玄妙不可思議にして神秘の裡に隠れて現はれざるなり。宣教師等の事業はなお悉く間接の効果を来すものに過ぎず、否、基督教伝道の事業は、新日本の特質を形成するに於て、其功の殆んど認むべきものなし。否、幸福にも患難にも吾人を刺励したるものは、実に純粋簡易の武士道なりき。新日本建設者たる佐久間、西郷、大久保、木戸諸氏の伝記を繙いて之を見よ。
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『武士道』第十六章 武士道の命脈・某は欠点無き人物なる乎忠義の一語は、凡て高尚なる感想の冷却するを再燃せしめたり。曾て某校に一団を成せる不羈粗暴の青年あり、教授某に対する不平の念より、数日の間同盟休校を敢てしたるに、其校長の彼等に向ひ、『某は欠点無き人物なる乎、然らば彼を尊重して、其留任を求むべきなり。〔300號將第一發發文學發文學會發文學學:OCRの乱れ〕〔財源廣進協定會員等に於したあとの:OCRの乱れ〕簡単なる二問を発したるが為めに、青年は直ちに同盟を解散し、彼等が紛擾の原因としたる教授其人の学力欠乏も、之を校長の諷示せる紛擾の道徳的結果に比すれば、微細にして顧慮に値ひせざるものと做すに了れり。斯くの如くに、武士道の育成したる感念を覚醒するに依りて、道徳の進善は多大の成功〔Kミリルシ불をじ:OCRの乱れ〕を期待するを得べし。〔せること초1/2.サニカテフ17は大すすう:OCRの乱れ〕我国に於て基督教伝道事業の不振なる一原因は、宣教師輩の甚だしく我国史に通ぜざるにあり。或は云ふ、『異教徒の記録は、我に於て何かあらんや』と。
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『武士道』第十六章 武士道の命脈・やむにやまれぬ大和魂『千歳の重荷に屈して』土壌を掘る一介の賤農も、其脈管に流るる百代の血液あり。彼は『牛と兄弟』なるが如くに、又た吾人の同胞なり。武士道は無意無敵の一大勢力として、国家、個人を推動したり。我が新日本建設の木鐸たる一俊傑吉田松陰が、刑に就くの前夜に当り、『かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂』と歌へるは、洵に我が民族に代りて率直なる告白をなしたるものなり。〔〇(一字不明):記号か〕武士道は形式を具せず、而して我国家を振興するの精神たり、又た動力たりき。今に於けるも尚ほ且つ然り。〔けし:OCRの乱れ〕ランソム氏曰く、『三箇殊別の日本は鼎立して現存し、旧日本は未だ全く死せず、新日本は纔に其精神に於てのみ産れ、而して過渡日本は、今や瀕死の苦悶を訴へて将に逝かんとす』と。
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