文武訓 / 武訓下
一敵に對し勝負を爭ふ時、はやり過ぎて勇むを貴ばず、しづまりてこらふるを貴ぶ。是敵にかつ道なり。只忍ぶをかたしとす。忍はこらふるなり。敵に對して、しづまりてよくこらへ、はやく手を出してまづうごくべからず。勇み過ぎてこらへず、はやり過ぎてまづ動けば、敵わが非を見てうつゆゑに、わが負となる。兩人相戰うて、勝負いまだわかれず、敵の動きを見て、其すきまを打てば勝ちやすし。此故に、先動く者は負け、後起るものは勝つ。忍はまことに一字千金の兵法なり、おろそかにおもふべからず、是古人の說なり。三略にも、變動は常なし、敵によつて轉化す。事の先とならず、動きて則したがふといへるが如し。はやり過ぎて、こなたより早く動けば負けやすし。よくこらへてうごかざるはかたし。故によく忍ぶをたつとぶ。かろがろしく動くべからず。利を見ずして妄に動けば、敗れやすし。君子は重をもつて輕を制し、靜を以て動を待つ。神全く氣定りて、心うごかざるを貴ぶ。
新字:一敵に対し勝負を争ふ時、はやり過ぎて勇むを貴ばず、しづまりてこらふるを貴ぶ。是敵にかつ道なり。只忍ぶをかたしとす。忍はこらふるなり。敵に対して、しづまりてよくこらへ、はやく手を出してまづうごくべからず。勇み過ぎてこらへず、はやり過ぎてまづ動けば、敵わが非を見てうつゆゑに、わが負となる。両人相戦うて、勝負いまだわかれず、敵の動きを見て、其すきまを打てば勝ちやすし。此故に、先動く者は負け、後起るものは勝つ。忍はまことに一字千金の兵法なり、おろそかにおもふべからず、是古人の説なり。三略にも、変動は常なし、敵によつて転化す。事の先とならず、動きて則したがふといへるが如し。はやり過ぎて、こなたより早く動けば負けやすし。よくこらへてうごかざるはかたし。故によく忍ぶをたつとぶ。かろがろしく動くべからず。利を見ずして妄に動けば、敗れやすし。君子は重をもつて軽を制し、静を以て動を待つ。神全く気定りて、心うごかざるを貴ぶ。
書き下し
一敵に対し勝負を争ふ時、はやり過ぎて勇むを貴ばず、しづまりてこらふるを貴ぶ。是敵にかつ道なり。只忍ぶをかたしとす。忍はこらふるなり。敵に対して、しづまりてよくこらへ、はやく手を出してまづうごくべからず。勇み過ぎてこらへず、はやり過ぎてまづ動けば、敵わが非を見てうつゆゑに、わが負となる。両人相戦うて、勝負いまだわかれず、敵の動きを見て、其すきまを打てば勝ちやすし。此故に、先動く者は負け、後起るものは勝つ。忍はまことに一字千金の兵法なり、おろそかにおもふべからず、是古人の説なり。三略にも、変動は常なし、敵によつて転化す。事の先とならず、動きて則したがふといへるが如し。はやり過ぎて、こなたより早く動けば負けやすし。よくこらへてうごかざるはかたし。故によく忍ぶをたつとぶ。かろがろしく動くべからず。利を見ずして妄に動けば、敗れやすし。君子は重をもつて軽を制し、静を以て動を待つ。神全く気定りて、心うごかざるを貴ぶ。
現代語訳
敵と勝負を争うとき、はやりすぎて勇むことを貴ばず、落ち着いて堪えることを貴びます。これが敵に勝つ道です。ただ忍ぶことが難しいのです。忍とは堪えることです。敵に対して落ち着いてよく堪え、早く手を出して先に動いてはいけません。勇みすぎて堪えず、はやりすぎて先に動けば、敵がこちらの隙を見て打つので、こちらの負けになります。二人が戦って勝負がまだつかないとき、敵の動きを見てその隙を打てば勝ちやすい。だから先に動く者は負け、後から起こる者は勝つのです。忍はまことに一字千金の兵法であり、おろそかに思ってはいけません。これは古人の説です。『三略』にも「変化には定まった形がなく、敵によって転じ変わる。事の先に立たず、動いたらそれに従う」とあるとおりです。はやりすぎてこちらから早く動けば負けやすい。よく堪えて動かないことは難しい。だからよく忍ぶことを尊ぶのです。軽々しく動いてはいけません。利を見ないのにむやみに動けば敗れやすい。君子は重をもって軽を制し、静をもって動を待ちます。精神が満ち気が定まって、心が動じないことを尊ぶのです。
解説
この章句が説くこと
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