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文武訓 / 文訓下之末

一詩を多く作りても、學問に益なし。詩をよく作る人も、心をくるしめ、思案せざれば出來ず。かくの如くせざれば、杜子美といへどもよき詩を作らず。いはんや此國今俗の詩をや。拙きことむべなり。日本人、唐詩を作るは、詞も心もかなはず、志をのべがたし。わが國の風土に合はざる故なり。和歌を詠ずるには甚及ばず。しかれば詩は作らず、只和歌を詠ずるは、是風俗土宜にかなひて宜しかるべし。

新字:一詩を多く作りても、学問に益なし。詩をよく作る人も、心をくるしめ、思案せざれば出来ず。かくの如くせざれば、杜子美といへどもよき詩を作らず。いはんや此国今俗の詩をや。拙きことむべなり。日本人、唐詩を作るは、詞も心もかなはず、志をのべがたし。わが国の風土に合はざる故なり。和歌を詠ずるには甚及ばず。しかれば詩は作らず、只和歌を詠ずるは、是風俗土宜にかなひて宜しかるべし。

書き下し

一詩を多く作りても、学問に益なし。詩をよく作る人も、心をくるしめ、思案せざれば出来ず。かくの如くせざれば、杜子美といへどもよき詩を作らず。いはんや此国今俗の詩をや。拙きことむべなり。日本人、唐詩を作るは、詞も心もかなはず、志をのべがたし。わが国の風土に合はざる故なり。和歌を詠ずるには甚及ばず。しかれば詩は作らず、只和歌を詠ずるは、是風俗土宜にかなひて宜しかるべし。

現代語訳

詩を多く作っても、学問には益がありません。詩をよく作る人でも、心を苦しめ、思案しなければできません。そのようにしなければ、杜甫であっても良い詩は作れません。ましてこの国の今の世俗の詩はなおさらです。拙いのはもっともなことです。日本人が唐の詩を作るのは、言葉も心も合わず、志を述べにくいのです。わが国の風土に合わないからです。和歌を詠むのには、はるかに及びません。それならば詩は作らず、ただ和歌を詠むのが、風俗と土地柄にかなってよいでしょう。

解説

文訓で繰り返される益軒の持論で、漢詩作りは学問の益にならず、日本人には和歌の方がふさわしいと説きます。杜甫でさえ苦心して詩を作ったのだから、日本人の漢詩が拙いのは当然だという言い方には、率直さと謙虚さが混じります。益軒自身は漢詩も作れた人ですが、学問の時間を詩作に費やすことには批判的でした。自分に合った表現手段を選び、限られた時間を本当に大切なことに使うという考えは、趣味や仕事の選び方にも通じます。

この章句が説くこと

和歌漢詩風土学問表現

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