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文武訓 / 文訓下之末

一いとまある人、詩歌のおありて、詠作を好みて、心を樂ましむるはよし。家業いとまなき人の、心をくるしめてつたなき詩歌を多くつくるは益なし。天地の道、人倫の敎、萬物の理、數千年の人、數千年のこと、まことに天地古今人物、極なき廣大の理、廣大の事なり。しかるに書をよみ學問する力を以て坐ながらよく知る、其樂大なるかな。豈つとめて書をよみ學ばざるべけんや。是を以て見れば、書を讀まざる人は、富貴なりといへども不幸なり。書を多くよむ人は、貧賤なりといへども幸大なり。

新字:一いとまある人、詩歌のおありて、詠作を好みて、心を楽ましむるはよし。家業いとまなき人の、心をくるしめてつたなき詩歌を多くつくるは益なし。天地の道、人倫の教、万物の理、数千年の人、数千年のこと、まことに天地古今人物、極なき広大の理、広大の事なり。しかるに書をよみ学問する力を以て坐ながらよく知る、其楽大なるかな。豈つとめて書をよみ学ばざるべけんや。是を以て見れば、書を読まざる人は、富貴なりといへども不幸なり。書を多くよむ人は、貧賤なりといへども幸大なり。

書き下し

一いとまある人、詩歌のおありて、詠作を好みて、心を楽ましむるはよし。家業いとまなき人の、心をくるしめてつたなき詩歌を多くつくるは益なし。天地の道、人倫の教、万物の理、数千年の人、数千年のこと、まことに天地古今人物、極なき広大の理、広大の事なり。しかるに書をよみ学問する力を以て坐ながらよく知る、其楽大なるかな。豈つとめて書をよみ学ばざるべけんや。是を以て見れば、書を読まざる人は、富貴なりといへども不幸なり。書を多くよむ人は、貧賤なりといへども幸大なり。

現代語訳

暇のある人が詩歌の才能があって、詠作を好んで心を楽しませるのはよいことです。家業に暇のない人が、心を苦しめて拙い詩歌を多く作るのは益がありません。天地の道、人倫の教え、万物の理、数千年の人、数千年のこと、まことに天地古今の人物は、果てしなく広大な理、広大な事です。それなのに、書を読み学問する力によって、坐ったままよく知ることができる、その楽しみは大きいことです。どうして努めて書を読み学ばずにいられましょうか。これからみれば、書を読まない人は、富貴であっても不幸です。書を多く読む人は、貧賤であっても幸いは大きいのです。

解説

前半は、暇と才能のある人が詩歌を楽しむのはよいが、忙しい人が無理に作るのは無益だという益軒の持論です。後半は、天地の道理や数千年の歴史という果てしなく広い世界を、書物によって坐ったまま知ることができる、その楽しみの大きさを語ります。だから本を読まない人は富んでいても不幸で、よく読む人は貧しくても幸いだと言います。旅に出なくても、ページをめくれば遠い時代や土地に行ける。幸せの尺度をお金ではなく学びに置く考え方です。

この章句が説くこと

読書楽しみ幸福学問富貴

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