文武訓 / 文訓下之末
一和漢の人、古今書を著はせる多し。豪傑の作れる書は、まことにわが如き愚者は間然しがたし。才俊の士といへども、若其あらはす所、聖賢の學にあらず、有用の言にあらずんば、文章ことにうるはしくとも、民用の資とならず、無用の書なるべし。民用の助とならば、居家必用、農政全書、濟民要術の類といへども、有用の書とすべし。今の時、わが輩才學つたなき者の作にていはば、ぬかみそひしほの製法をしるせる書民用の助とならば有益の書なり。もし宋儒に阿り諛ひて雷同し、發明することなく同じこといはば、高く道德性命を談ずとも、無用の學なるべし。
新字:一和漢の人、古今書を著はせる多し。豪傑の作れる書は、まことにわが如き愚者は間然しがたし。才俊の士といへども、若其あらはす所、聖賢の学にあらず、有用の言にあらずんば、文章ことにうるはしくとも、民用の資とならず、無用の書なるべし。民用の助とならば、居家必用、農政全書、済民要術の類といへども、有用の書とすべし。今の時、わが輩才学つたなき者の作にていはば、ぬかみそひしほの製法をしるせる書民用の助とならば有益の書なり。もし宋儒に阿り諛ひて雷同し、発明することなく同じこといはば、高く道徳性命を談ずとも、無用の学なるべし。
書き下し
一和漢の人、古今書を著はせる多し。豪傑の作れる書は、まことにわが如き愚者は間然しがたし。才俊の士といへども、若其あらはす所、聖賢の学にあらず、有用の言にあらずんば、文章ことにうるはしくとも、民用の資とならず、無用の書なるべし。民用の助とならば、居家必用、農政全書、済民要術の類といへども、有用の書とすべし。今の時、わが輩才学つたなき者の作にていはば、ぬかみそひしほの製法をしるせる書民用の助とならば有益の書なり。もし宋儒に阿り諛ひて雷同し、発明することなく同じこといはば、高く道徳性命を談ずとも、無用の学なるべし。
現代語訳
和漢の人で、昔から今まで書を著した人は多いのです。豪傑の作った書は、まことに私のような愚か者には非の打ちどころがありません。才能ある人であっても、もしその著したものが聖賢の学でなく、役に立つ言葉でなければ、文章がことに美しくても、民の暮らしの助けにならず、無用の書でしょう。民の暮らしの助けになるなら、『居家必用』『農政全書』『斉民要術』のたぐいであっても、有用の書とすべきです。今の時代、私たちのように才学の拙い者の作でいえば、ぬか味噌や醤(ひしお)の作り方を記した書でも、民の暮らしの助けとなるなら有益な書です。もし宋の儒者におもねりへつらって雷同し、何の新しい発見もなく同じことを言うのなら、高尚に道徳や性命を論じても、無用の学でしょう。
解説
この章句が説くこと
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『都鄙問答』卷之一・武士ノ道ヲ問ノ段露塵ほども我が身を顧みざるは、臣の道なり。常に手足が口に使はるると、我が身の君に事ふると、違ふことあらば、此は不忠なりと知るべし。此を法とせば、何国にて仕ふるとも、臣の道を離るることあるべからず。扨て臣は政に従ふものなり。下を使ふは、君の道を以て治むべし。古聖人の御代には、君としては万民を子の如く思し召し、民の心を以て、御心となし玉ふ。伝に云ふ、民の好む所は之を好み、民の悪む所は之を悪む、此を之れ民の父母と謂ふ。此のゆへに、聖人は世を没し玉へども、民思ひ慕ひてわすれずと云へり。此の味を知るべし。忠義の臣は名を後世に残し、天下の人これを愛す。礼に曰く、士四十にして志強く立ち、利害に奪はれず、禍福に怵れずんば、以て出で仕ふべし、と見えたり。士の道は、先づ心を知りて志を定むべし。孟子曰く、志を尚くす。
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『正法眼蔵随聞記』巻三有る夜示して云く、唐の太宗即位の後、故殿に栖み給へり、破損せる故に、湿気あがり、風霧冷かにして、玉体おかされつべし、臣下等造作すへき由を奏しければ、帝の言く、時き農節なり、民定めて愁ひあるべし、秋を待て造るべし、湿気に侵さるは地にうけられず、風雨に侵さるは天に合はざるなり、天地に背かば身あるべからず、民を煩はさずんば自ら天地に合ふべし、天地に合はゝ身を侵すべからず、と云ふて終に新宮を作らず、故殿に栖み給へり、
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『呻吟語』外篇・治道・皆な吾が民なり天下の民は皆な朝廷の民なり、皆な天地の民なり、皆な吾が民なり。
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『君子訓』巻之中一民豊なれば奢りて法に背くといふ人あり。是政を為る道を知らざるなり。民貧しければ盗む心を生ず。民を憐みて衣食乏しからず、困究せしめざるは、盗を止むる基なり。法度を明かにして、民に分限を守らしむれば、豊なれども奢る事なし。如斯にして民其分を踰えて奢り怠り、或は盗する者あらば、罪に行ひて許すべからず。民は愚なる者なれば、まかせ置きては治るべきやうなし。衣食不足なきやうにして、其奢怠を戒め、罪に陥らしめぬは、政をするの道なり。
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