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文武訓 / 文訓下之末

一わが輩のごとき、才なく愚なる身は、老きはまりても才德を成しがたし。されども、およそ人の才德をなし、學にすゝむことは、長壽をたもたざればなし得べからず。學をつとめて長壽なる人は其幸甚し。長壽をたもつ人きはめて稀なり。長壽ならん人は、學に進んで、自得すべき計をなすべし。無益の事をなして、をしむべき月日をむなしく過すべからず。わかき時よしとすること、老いて後おもへばひがごと多し。義理の精明なることは、年わかく氣あらければなし得がたし。老いての後のことなり。わかき時は、只おほく讀んでそらんじおほゆる事をつとむべし。書を讀んでそらにおぼえ、ひろく書を見ること、年老い氣おとろへてはなりがたし。

新字:一わが輩のごとき、才なく愚なる身は、老きはまりても才徳を成しがたし。されども、およそ人の才徳をなし、学にすゝむことは、長寿をたもたざればなし得べからず。学をつとめて長寿なる人は其幸甚し。長寿をたもつ人きはめて稀なり。長寿ならん人は、学に進んで、自得すべき計をなすべし。無益の事をなして、をしむべき月日をむなしく過すべからず。わかき時よしとすること、老いて後おもへばひがごと多し。義理の精明なることは、年わかく気あらければなし得がたし。老いての後のことなり。わかき時は、只おほく読んでそらんじおほゆる事をつとむべし。書を読んでそらにおぼえ、ひろく書を見ること、年老い気おとろへてはなりがたし。

書き下し

一わが輩のごとき、才なく愚なる身は、老きはまりても才徳を成しがたし。されども、およそ人の才徳をなし、学にすすむことは、長寿をたもたざればなし得べからず。学をつとめて長寿なる人は其幸甚し。長寿をたもつ人きはめて稀なり。長寿ならん人は、学に進んで、自得すべき計をなすべし。無益の事をなして、をしむべき月日をむなしく過すべからず。わかき時よしとすること、老いて後おもへばひがごと多し。義理の精明なることは、年わかく気あらければなし得がたし。老いての後のことなり。わかき時は、只おほく読んでそらんじおほゆる事をつとむべし。書を読んでそらにおぼえ、ひろく書を見ること、年老い気おとろへてはなりがたし。

現代語訳

私たちのような才能がなく愚かな身は、老いきっても才徳を成しとげることは難しいのです。けれども、およそ人が才徳を成し、学問を進めることは、長寿を保たなければできません。学問に努めて長寿である人は、その幸いは大きいのです。長寿を保つ人はきわめてまれです。長寿の人は、学問に進んで、自得するための計画を立てるべきです。無益なことをして、惜しむべき月日を空しく過ごしてはいけません。若いときに良いと思ったことも、老いてから考えると誤りが多いものです。義理を精しく明らかにすることは、年若く気が荒いうちはできにくく、老いてからのことです。若いときは、ただ多く読んで暗記することに努めるべきです。書を読んで暗記し、広く書を見ることは、年老いて気が衰えてからでは難しいのです。

解説

学問の完成には長い年月が要るので、長生きできた人はそれを学びに生かせと益軒は言います。若いうちは多読と暗記、道理を深く味わうのは老いてから、と年齢に応じた学び方を示す点が実際的です。益軒自身、主な著作の多くを七十代、八十代で書き、八十五歳まで生きました。まさに自分の言葉を実践した人です。人生百年と言われる今、定年後の学びは大きな意味を持ちます。若い時期と円熟期で学び方を変えるという考えは、生涯学習の指針になります。

この章句が説くこと

長寿学問老い暗記生涯学習

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