文武訓 / 文訓下
一もろこしの王抑庵といひし人は、わが意にかなはざることあれば、其事に相似たる古人の詩を讀んで、わが心をなぐさめしとなり。和歌は、猶わが國の詞なれば、わが心にかなはざることあらば、古歌を吟じて、其こゝろをなぐさむべし。是亦、心を樂ましめ、うれひを去る一の術なるべし。
新字:一もろこしの王抑庵といひし人は、わが意にかなはざることあれば、其事に相似たる古人の詩を読んで、わが心をなぐさめしとなり。和歌は、猶わが国の詞なれば、わが心にかなはざることあらば、古歌を吟じて、其こゝろをなぐさむべし。是亦、心を楽ましめ、うれひを去る一の術なるべし。
書き下し
一もろこしの王抑庵といひし人は、わが意にかなはざることあれば、其事に相似たる古人の詩を読んで、わが心をなぐさめしとなり。和歌は、猶わが国の詞なれば、わが心にかなはざることあらば、古歌を吟じて、其こころをなぐさむべし。是亦、心を楽ましめ、うれひを去る一の術なるべし。
現代語訳
中国の王抑庵という人は、自分の意にかなわないことがあると、その事に似た古人の詩を読んで、自分の心を慰めたといいます。和歌はなおわが国の言葉ですから、心にかなわないことがあれば、古歌を口ずさんで、その心を慰めなさい。これもまた、心を楽しませ、憂いを去る一つの術でしょう。
解説
思いどおりにならない時、似た境遇を詠んだ古人の詩を読んで心を慰めた中国の人の例を挙げ、日本人ならなおさら古歌を口ずさんで慰めよと勧めます。昔の人も同じ悩みを抱えていたと知ることは、心を落ち着かせる確かな方法です。益軒は楽訓でも、憂いを去り心を楽しませることを養生の要と考えました。今でも、つらい時に好きな詩や歌、古典の一節を読み返すことで気持ちが整うことがあります。心の救急箱として古典を持っておく知恵です。
この章句が説くこと
和歌慰め楽しみ心古典
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