文武訓 / 文訓下
一富貴長命にて福多き人も、學問なければ人の道を知らざるのみならず、古今の事に通ぜず、萬物の理にくらし。只草木と同じく朽ち、禽獸とおなじく生けるばかりを思ひ出にして、人となりて生ける樂なし。むげにあさましといふべし。
新字:一富貴長命にて福多き人も、学問なければ人の道を知らざるのみならず、古今の事に通ぜず、万物の理にくらし。只草木と同じく朽ち、禽獣とおなじく生けるばかりを思ひ出にして、人となりて生ける楽なし。むげにあさましといふべし。
書き下し
一富貴長命にて福多き人も、学問なければ人の道を知らざるのみならず、古今の事に通ぜず、万物の理にくらし。只草木と同じく朽ち、禽獣とおなじく生けるばかりを思ひ出にして、人となりて生ける楽なし。むげにあさましといふべし。
現代語訳
富み栄え長生きして幸福の多い人でも、学問がなければ、人の道を知らないだけでなく、古今のことに通ぜず、万物の理にもくらいのです。ただ草木と同じく朽ち、鳥獣と同じく生きていることだけを思い出にして、人として生きる楽しみがありません。まことに情けないというべきです。
解説
富も長寿も備えた人でも、学問がなければ人の道も古今の事も万物の理も知らず、草木鳥獣と変わらぬ生涯で、人として生きる楽しみがないと述べています。益軒は楽訓で、学問と読書こそ最上の楽しみだと説きました。財や長寿は人生の条件にすぎず、中身を豊かにするのは学びだという考えです。今でも、経済的に満たされても生きがいを見失う人は少なくありません。学び続けることが、人生を内側から豊かにする確かな道だと気づかされます。
この章句が説くこと
学問楽しみ富貴人生道
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『文武訓』文訓上之末一世に、文学なくしてみだりに道を説く人あり。孝弟忠信などの道を行ふことは、一文不通の愚夫愚婦も、其はしをば知りやすく行ひやすし。是を以て、学なき人に説ききかするはよし。かなの書をよみ、人の物語をきき覚えても、浅近なることは知りやすし。草医の、近世の名医の作れる国字書の方書を読みても、軽き病をばいやすが如し。しかるに、義理の学は、天地人の大道を知る事なれば、まづ文字をしり、四書五経以下、歴代の聖賢の書に通じ、三史、通鑑など、古今の事にもひろく通じてやうやく知るべし。かくの如く、博く書を見ても道をしらざる人は多し。聖賢の書に通ぜず、文学つたなくしては大道に通じがたし。文学なくして道を知りがたき事、たとへば通事なくして異国の人の言語に通じがたきが如く、又、小刀にて大厦を作らんとするがごとし。文学つたなく経伝にくらくしては、大道は知りがたかるべし。
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『都鄙問答』卷之三・性理問答ノ段曰く、其所は、師たる人も、さつぱりとは済ねども、此は聖人のことにて、今の学者の知るべき所に非ず、忠恕のことなりと云て、此うへのことは、決して沙汰なきことなり。答、汝は今の学者の知るべき所に非ずと云。聖人の教は、古今に通じて変ことなし。今と古とを分るは、仏氏の末世と云教なり。混雑すべからず。扨孔子、適も無く莫も無しとの玉ひ、又顔淵の、前に在りと思へば忽焉として後に在りとの玉ひ、孟子、道は一のみとの玉ふ。加様の類多し。汝はいかゞ心得居られ候や。
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『慎思録』巻之四食は以て生を養ふ。饕餮なる者は此を以て生を傷る。薬は以て人を救ふ。庸医は此を以て人を殺す。学は以て性を治む。小人は此を以て性を傷る。此の三者は、本是れ人を益するの物事なり。然り而して人を害すること此の如きは、之を用ふるの其の道を失ふに由るなり。
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『慎思録』巻之一人生まれて学ばざれば、生まれざると同じ。学びて道を知らざれば、学ばざると同じ。知りて行ふこと能はざれば、知らざると同じ。故に人為る者は、必ず学ばざるべからず。学を為す者は、必ず道を知らざるべからず。道を知る者は、必ず行はざるべからず。道を知ること至つて難し。古より英才敦行の士、多からずと為さず。然れども道を知る者は鮮し。学問思弁の功、闕くべからざる所以なり。
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『五常訓』巻之一・総論一およそ人となるものは、万物にすぐれ、五常の性を生れつき、道あるものなれども、食を飽くまでくらひ、衣を暖かに著、家をかまへて、身を安くしたるまでにて、道の教なければ、形は人なりといへども、其心、其行は、禽獣に近きこそうらめしけれ。古の聖人、是をうれひ給ひて、学校をたて、師をたてて、人たるの道を教へ学ばしめ給ふ。されば事の急ならざるやうにて、いたりて大切なる事は、学問よりおもきは無し。如何となれば、道はしばらくも離るべからず。人学問なく、道を知らざれば、人の道たたず。人と斯く生れつきたるかひなし。人生ふたたび得がたし。道を学ばずして、空しく過すべからず。ここを以て、朝に道を聞きては、夕に死すとも可なりと聖人ものたまへり。
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