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文武訓 / 文訓上之末

一天才なき人、みづからつたなき詩歌をこのんでつくらんより、古人のたくみにつくれるよき詩歌を吟ぜんこそ、わが心をくるしめずして樂しかるべけれ。詩はことに、わが國の風俗にあらず、つたなくしてみづからつくるは、心も勞しいとまもおほくつひゆ。其力を以て書を讀みたらんには、樂も益もおほかるべし。もし天才あらば、みづから詩をつくるもよし。およそ學問の道六藝なども、道知れる人にまなぶべし。其外萬の事は、その事をよくする人のわざを取用ふれば、わが身いたづかはしからずして、其わざつたなからず。たとへば、身の病を療するに、良醫にゆだねたらば、わざはひなかるべし。しかるに、わが少しまなべるつたなき醫術をよしとおもひ、みづから藥を用ひてあやまらんは、むげにおろかなりといふべし。

新字:一天才なき人、みづからつたなき詩歌をこのんでつくらんより、古人のたくみにつくれるよき詩歌を吟ぜんこそ、わが心をくるしめずして楽しかるべけれ。詩はことに、わが国の風俗にあらず、つたなくしてみづからつくるは、心も労しいとまもおほくつひゆ。其力を以て書を読みたらんには、楽も益もおほかるべし。もし天才あらば、みづから詩をつくるもよし。およそ学問の道六芸なども、道知れる人にまなぶべし。其外万の事は、その事をよくする人のわざを取用ふれば、わが身いたづかはしからずして、其わざつたなからず。たとへば、身の病を療するに、良医にゆだねたらば、わざはひなかるべし。しかるに、わが少しまなべるつたなき医術をよしとおもひ、みづから薬を用ひてあやまらんは、むげにおろかなりといふべし。

書き下し

一天才なき人、みづからつたなき詩歌をこのんでつくらんより、古人のたくみにつくれるよき詩歌を吟ぜんこそ、わが心をくるしめずして楽しかるべけれ。詩はことに、わが国の風俗にあらず、つたなくしてみづからつくるは、心も労しいとまもおほくつひゆ。其力を以て書を読みたらんには、楽も益もおほかるべし。もし天才あらば、みづから詩をつくるもよし。およそ学問の道六芸なども、道知れる人にまなぶべし。其外万の事は、その事をよくする人のわざを取用ふれば、わが身いたづかはしからずして、其わざつたなからず。たとへば、身の病を療するに、良医にゆだねたらば、わざはひなかるべし。しかるに、わが少しまなべるつたなき医術をよしとおもひ、みづから薬を用ひてあやまらんは、むげにおろかなりといふべし。

現代語訳

天分のない人が自分で拙い詩歌を好んで作るよりは、古人が巧みに作ったよい詩歌を口ずさむほうが、心を苦しめずに楽しいでしょう。詩はとくにわが国の風俗ではなく、拙いのに自分で作るのは、心も疲れ、時間も多く費やします。その力で書を読めば、楽しみも益も多いでしょう。もし天分があれば、自分で詩を作るのもよいでしょう。およそ学問の道や六芸なども、道を知っている人に学ぶべきです。そのほかのあらゆることは、そのことをよくする人の業を取り用いれば、自分の身は煩わされず、その業も拙くなりません。たとえば、身の病を治すのに、よい医者に委ねれば、災いはないでしょう。それなのに、自分が少し学んだ拙い医術をよいと思い、自分で薬を用いて誤るのは、ひどく愚かなことというべきです。

解説

拙い詩作に労力を費やすより読書に回せと説き、さらに何事もその道をよく知る人の業を用いるべきだと一般化します。病気のとき生半可な医術で自ら薬を用いる愚を例にしているのは、医学・本草学にも通じた益軒らしい点で、養生訓でも良医を選ぶことを重んじています。今でも、少しかじった知識で健康や法律、お金の問題を自己判断して失敗する例は少なくありません。専門家に任せる判断も大切な知恵です。

この章句が説くこと

専門家医者読書判断詩

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