文武訓 / 文訓上之末
一眞字の文章をつくるに、文字の置所をあやまり、助字をあやまり、連字をあやまり、俗語を用ふる、まづ此四の誤を去るべし。一和文を作るに、文をあやまり、字をあやまり、かなづかひをあやまり、てにはをあやまる、まづ此四の誤を去るべし。
新字:一真字の文章をつくるに、文字の置所をあやまり、助字をあやまり、連字をあやまり、俗語を用ふる、まづ此四の誤を去るべし。一和文を作るに、文をあやまり、字をあやまり、かなづかひをあやまり、てにはをあやまる、まづ此四の誤を去るべし。
書き下し
一真字の文章をつくるに、文字の置所をあやまり、助字をあやまり、連字をあやまり、俗語を用ふる、まづ此四の誤を去るべし。一和文を作るに、文をあやまり、字をあやまり、かなづかひをあやまり、てにはをあやまる、まづ此四の誤を去るべし。
現代語訳
漢文の文章を作るときには、文字の置き所を誤ること、助字を誤ること、熟語の連なりを誤ること、俗語を用いること、まずこの四つの誤りを取り除きなさい。和文を作るときには、文を誤ること、字を誤ること、仮名遣いを誤ること、てにをはを誤ること、まずこの四つの誤りを取り除きなさい。
解説
漢文では語順・助字・熟語・俗語、和文では文・字・仮名遣い・てにをはという、それぞれ四つの誤りをまず除けと、要点を簡潔に示しています。益軒は教育法を体系的に説いた人で、こうした具体的な点検項目を挙げるのが得意でした。文章上達の第一歩は、美しく飾ることより誤りを除くことだという考えです。今でも、文章を書いたら誤字・助詞・用語・文の構造を点検するだけで読みやすさは大きく変わります。チェックリストの原型ともいえる一節です。
この章句が説くこと
文章和文漢文仮名遣い点検
関連する章句
-
『文武訓』文訓上之末一文学なき人の、漢字の文を書くは、文理ちがひてことわりきこえず。又つづかざる字をみだりにつづけ、字の置所ちがひ、文字筆画もあやまり多し。故に、文字なき人、事を記さんとせば、ふつつかなりとも只国字を以て書くべし。或は、世間通用の俗文を以てかくもよし。仮名と俗文はあさはかなりとて、漢文を以て書くべからず。文学なき人の漢字をつらね書くは、ひがごとのみ多くして、よみがたく理きこえず。人のわらひぐさとなるもはづかし。漢字を知らざる人は、みづからそのひがひがしき事を知らずして恥ぢず。又、仮名にて事をしるすも同じ。ふるき和文を知らざれば、ひが事多くして、文理ちがひ、かなづかひ、てには、皆あやまり多くしてわらふべし。必ず知らずしてみだりに書くべからず。事をしるすに、かざりて拙き文を以てしるさんよりは、俗語を以て、かざらずして書きたるは、いやしけれど、かへつて、文理明かにして見やすし。凡文字を作るには、人の見やすく心得よきをよしとすべし。
-
『文武訓』文訓上之末一文字知らぬ人は、つねの言語にもあやまり多く、かたことありて聞きにくし。又、書状の詞もつたなくして、理もきこえず。かくの如くなれば、つねの才行よりも、はるかに人に見くだされ、人に笑はれて、弁の人にすぐれたるも、貌のうるはしきも、むなしくなるこそあさましけれ。又世に行はるる通用の文字言語の字、諸物の名の文字を知らざれば、世事にうとく、事ゆかざること多し。世間通用の文字をもつとめて知るべし。経史の文字を知るにくらぶれば、きはめてたやすきことなり。少し心にかくべし。それだに知らざるは、むげにいやしむべし。
-
『文武訓』文訓下之末一詩と文章を作るに、奇怪の文字を好むと、浅俗なる詞を用ふると、此二を忌むべし。是その法なり。今時の人詩文を作るに、めづらしき奇しき文字をこのむ、或は又いやしき俗語を用ふ。二ながら不可なり。奇異なる文詞をなすを以て巧とすること、風俗のあしき習なり。文詩ともに平易にして、いやしからざるをよしとす。
-
『文武訓』文訓上之末一およそ、世俗の書状などに書く文字に、ひがごと多し、察すべし。又そら字多し。是亦、其あやまりを知るべし。但し、あやまり来りて、改めがたきこともあり。それを強ひて改めてことやうなるは、時宜にそむきてあしし。
-
『文武訓』文訓上必ず中夏の文字を用ふべし。博く書を読みし人も、かねて中夏の文章を学ばざれば、時にのぞみ、筆をとりて文を作るべきすべを知らず。みだりに作れば法に合はず、文字の置きやうつづけやう、布置成語連続助字の法を知らずして、ひが事多く、文字顛倒して置きやうちがひ、文理をなさず、識者の謗免れがたし。殊に中夏の人の見て、誹笑せんもはづかし。故に学士は、必ず文章を学ぶべし。是を学ぶの法、まづ六経語孟を本とし、左伝、史記、漢書、文選、韓柳欧蘇等の文を学ぶべし。其中について、心にかなへる文をえらびて、三十篇ばかりそらんじ、書きおぼえて熟誦すべし。如斯すれば、おのづから文法をさとり、文字の置きやうを知るべし。経史を見るいとまには、少の力を用ひて作文を学ぶべし。
-
『文武訓』文訓上之末一われ文字知りたりとて、知らぬ人に対せるふみに、ことやうにむつかしくふるびたるからの文字をこのんで書くは、わが才学あるをあらはさんとにや、其心おしはかられていと見ぐるし。只、其人のよく心得べき文字を、さすが拙からず書きたらんこそ、目やすかるべけれ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る