文武訓 / 文訓上之末
一文字知らぬ人は、つねの言語にもあやまり多く、かたことありて聞きにくし。又、書狀の詞もつたなくして、理もきこえず。かくの如くなれば、つねの才行よりも、はるかに人に見くだされ、人に笑はれて、辯の人にすぐれたるも、貌のうるはしきも、むなしくなるこそあさましけれ。又世に行はるゝ通用の文字言語の字、諸物の名の文字を知らざれば、世事にうとく、事ゆかざること多し。世間通用の文字をもつとめて知るべし。經史の文字を知るにくらぶれば、きはめてたやすきことなり。少し心にかくべし。それだに知らざるは、むげにいやしむべし。
新字:一文字知らぬ人は、つねの言語にもあやまり多く、かたことありて聞きにくし。又、書状の詞もつたなくして、理もきこえず。かくの如くなれば、つねの才行よりも、はるかに人に見くだされ、人に笑はれて、弁の人にすぐれたるも、貌のうるはしきも、むなしくなるこそあさましけれ。又世に行はるゝ通用の文字言語の字、諸物の名の文字を知らざれば、世事にうとく、事ゆかざること多し。世間通用の文字をもつとめて知るべし。経史の文字を知るにくらぶれば、きはめてたやすきことなり。少し心にかくべし。それだに知らざるは、むげにいやしむべし。
書き下し
一文字知らぬ人は、つねの言語にもあやまり多く、かたことありて聞きにくし。又、書状の詞もつたなくして、理もきこえず。かくの如くなれば、つねの才行よりも、はるかに人に見くだされ、人に笑はれて、弁の人にすぐれたるも、貌のうるはしきも、むなしくなるこそあさましけれ。又世に行はるる通用の文字言語の字、諸物の名の文字を知らざれば、世事にうとく、事ゆかざること多し。世間通用の文字をもつとめて知るべし。経史の文字を知るにくらぶれば、きはめてたやすきことなり。少し心にかくべし。それだに知らざるは、むげにいやしむべし。
現代語訳
文字を知らない人は、ふだんの言葉にも誤りが多く、片言があって聞き苦しいものです。また、書状の言葉もつたなく、筋道も通りません。このようであれば、ふだんの才能や行いよりも、はるかに人に見下され、人に笑われて、弁舌が人にすぐれていることも、容貌の美しさも、むなしくなってしまうのは情けないことです。また世に行われている通用の文字や言葉の字、さまざまな物の名の文字を知らなければ、世の中のことにうとく、事がうまく運ばないことが多いものです。世間で通用する文字をも努めて知りなさい。経書や史書の文字を知ることに比べれば、きわめてたやすいことです。少し心にかけなさい。それさえ知らないのは、ひどく卑しむべきことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『慎思録』巻之一学者の講学勤業は、皆時日の力を以てす。故に志士は日の短きを惜しむ。今日重ねて来たらず。是を以て学者は最も時日を惜しむことを要す。今人無益を作して有益を害し、時を廃し日を曠しくす。惜しむべきかな。辞は体要を尚ぶ。蓋し言を発するは、須らく主意専一にして支れず、論説明詳にして煩ならざることを要すべし。苟も言談繁重にして、且つ冗長なれば、則ち要用の語無くして、意旨明らかならず。聞く者厭倦す。是れ本幹を軽んじて枝葉を重んずるなり。言を発するの戒めと為すべし。
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『文武訓』文訓下一かたちうるはしく、ものよく言ひ、よききぬ著て賓客に対し、すがた言葉はすぐれて、人のもてなしよく、其ふるまひうるはしく、目たつきほどなれど、文字を知らず、古今の事にうとく、かたこと言ひて、人の耳にたてば、すがた言葉のうるはしきもむなしくなり、人に見おとされ、あさましく下ざまに見ゆるは口惜し。
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『文武訓』文訓上之末一わが日の本の人、義理の学をせんには、四書、六経などの書を読まずしては、道を知りがたし。国字にて書きては、其理くはしからず。風雅の楽は、からの詩を用ひざれども、ふるきやまと歌をよみて、心をたのしましめ、才あらば、みづから歌をつくりて其情を通ずべし。詩を作るよりやすくして、心かよひ易し。しかれば、義理の学をするには、からの書を読まざれば通ぜず。風雅の楽志をいはんには、からの詩を用ひず、やまと歌を用ふべし。わが国の風俗をすてて、からのことばの通じがたきを用ふるは何ぞ。
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『幽夢影』巻上・其の悶え尤も盲に過ぐ目の字を識る能はざるは、其の悶え尤も盲に過ぎ、手の管を執る能はざるは、其の苦しみ更に啞に甚だし。
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言志四録・言志後録 第百七十七条 実言は物を動かす実言は、芻蕘の陋と雖も、以て物を動かすに足る。虚言は、能弁の士と雖も、人を感ぜしむるに足らず。
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『慎思録』巻之二或ひと曰く、精進の二字は、法華経に出づ。是れ浮屠の言なり。用ゐるべからず、と。然るに朱子の語の中にも、亦た勇猛精進と説く者有るは、何ぞや。案ずるに、精進の二字は、前漢書の叙伝に出づ。師古云ふ、精明にして進趨するなり、と。是れ先儒の言にして、自ら的拠有り。倭俗の古来素饌を食ふを以て精進と為す者は非なり。
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