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文武訓 / 文訓上

一からの詩三百篇をはじめ、風體よき詩の秀でたるをば、よみならひ吟詠して、性情をやしなふべし。拙き詩をみづから作るは、無用の閑勞擾なるべし。三百篇の後は、楚辭の賦、文選の古詩と、とりわき、淵明が詩、唐詩の風體よきを見るべし。すゑのいやしき風を見ならふべからず。ことに我が國の詩文は、古今ともに、風體も詞藻もいやしく、ひが事多く拙くして中華に及ばず。是を見ならふは、惡しきくせとなる。凡詩文も惡しきくせつきては、後に改めがたし。はじめより風體をえらびて學ぶべし。一我が國の俗、和歌にて情をかよはし志をのべば、事たりぬべし。詩はわが國俗にあらざれば、あながちに作らずともありなん。義理を論じ、行事をしるすにいたりては、國字を用ひては、そのことわり、思ふやうに書きつくしがたし。

新字:一からの詩三百篇をはじめ、風体よき詩の秀でたるをば、よみならひ吟詠して、性情をやしなふべし。拙き詩をみづから作るは、無用の閑労擾なるべし。三百篇の後は、楚辞の賦、文選の古詩と、とりわき、淵明が詩、唐詩の風体よきを見るべし。すゑのいやしき風を見ならふべからず。ことに我が国の詩文は、古今ともに、風体も詞藻もいやしく、ひが事多く拙くして中華に及ばず。是を見ならふは、悪しきくせとなる。凡詩文も悪しきくせつきては、後に改めがたし。はじめより風体をえらびて学ぶべし。一我が国の俗、和歌にて情をかよはし志をのべば、事たりぬべし。詩はわが国俗にあらざれば、あながちに作らずともありなん。義理を論じ、行事をしるすにいたりては、国字を用ひては、そのことわり、思ふやうに書きつくしがたし。

書き下し

一からの詩三百篇をはじめ、風体よき詩の秀でたるをば、よみならひ吟詠して、性情をやしなふべし。拙き詩をみづから作るは、無用の閑労擾なるべし。三百篇の後は、楚辞の賦、文選の古詩と、とりわき、淵明が詩、唐詩の風体よきを見るべし。すゑのいやしき風を見ならふべからず。ことに我が国の詩文は、古今ともに、風体も詞藻もいやしく、ひが事多く拙くして中華に及ばず。是を見ならふは、悪しきくせとなる。凡詩文も悪しきくせつきては、後に改めがたし。はじめより風体をえらびて学ぶべし。一我が国の俗、和歌にて情をかよはし志をのべば、事たりぬべし。詩はわが国俗にあらざれば、あながちに作らずともありなん。義理を論じ、行事をしるすにいたりては、国字を用ひては、そのことわり、思ふやうに書きつくしがたし。

現代語訳

一、中国の詩経三百篇をはじめ、風体のよいすぐれた詩を読み習い吟じて、性情を養うべきです。つたない詩を自分で作るのは、無用の骨折りでしょう。三百篇の後は、楚辞の賦、文選の古詩、とりわけ陶淵明の詩、唐詩の風体のよいものを見るべきです。後の世の卑しい風を見習ってはいけません。とくにわが国の詩文は、昔も今も、風体も言葉も卑しく、誤りが多くつたなくて中国に及びません。これを見習うと悪い癖になります。およそ詩文も、悪い癖がつくと後で改めにくいものです。初めから風体を選んで学ぶべきです。一、わが国の風俗では、和歌で情を通わせ志を述べれば、事足りるでしょう。漢詩はわが国の風俗ではないので、無理に作らなくてもよいでしょう。しかし義理を論じ、行いを記すことになると、仮名を用いては、その道理を思うように書き尽くすことができません。

解説

詩を学ぶなら、詩経、楚辞、文選、陶淵明、唐詩という最良の手本から入れと勧め、後世の卑しい作や日本の拙い詩文を見習うと悪い癖がつくと戒めています。癖は初めにつくと直しにくいという指摘は、書道や楽器、スポーツの習い始めにも通じます。後半では、情を述べるなら和歌で足りるが、義理を論じ事実を記すには漢文が必要だと言い、次の段へつないでいます。目的に応じて表現の道具を使い分けよという考え方として読むことができます。

この章句が説くこと

詩手本学問性情和歌

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