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文武訓 / 文訓上

一和學は、まづ日本紀以下六國史を見、それより後の東鑑以下の野史、近世までの小錄をも考へ見て、わが國歴代の事を知るべし。又、律令格式などの、本朝の古法を考へ知るべし。もろこしの傳記のみを見て、わが國の事にうときは、近きをすてて遠きをつとむるなり。緩急の次第を失へりといふべし。しかれば、日の本に生れたる人は、必ず和學に通ずべし。もはら、もろこしの事のみまなんで、やまとの事知らざる人、今の世にも多し。かゝる人は、世にまじはりても、わが國を知らで事かけぬべし。日本紀、萬葉集の二書、わが國上代の事を知り、和語に通ずる益多し。和學をする人は先必ずよむべし。日本紀を見、次に六國史など、次に東鑑以下の野史を見るべし。一學問の要二あり。道を明らかにすると、事に達するとなり。道を明らかにするには經學をすべし。經は四書、五經なり。是、學問の本なり。事に達するには史學をすべし。史は左傳、史記、漢書以下の記史、及び通鑑なり。經學のみにて史に通ぜざれば、古今にくらくして用に達せず。經學なく史學に偏なれば、道理にくらし。

新字:一和学は、まづ日本紀以下六国史を見、それより後の東鑑以下の野史、近世までの小録をも考へ見て、わが国歴代の事を知るべし。又、律令格式などの、本朝の古法を考へ知るべし。もろこしの伝記のみを見て、わが国の事にうときは、近きをすてて遠きをつとむるなり。緩急の次第を失へりといふべし。しかれば、日の本に生れたる人は、必ず和学に通ずべし。もはら、もろこしの事のみまなんで、やまとの事知らざる人、今の世にも多し。かゝる人は、世にまじはりても、わが国を知らで事かけぬべし。日本紀、万葉集の二書、わが国上代の事を知り、和語に通ずる益多し。和学をする人は先必ずよむべし。日本紀を見、次に六国史など、次に東鑑以下の野史を見るべし。一学問の要二あり。道を明らかにすると、事に達するとなり。道を明らかにするには経学をすべし。経は四書、五経なり。是、学問の本なり。事に達するには史学をすべし。史は左伝、史記、漢書以下の記史、及び通鑑なり。経学のみにて史に通ぜざれば、古今にくらくして用に達せず。経学なく史学に偏なれば、道理にくらし。

書き下し

一和学は、まづ日本紀以下六国史を見、それより後の東鑑以下の野史、近世までの小録をも考へ見て、わが国歴代の事を知るべし。又、律令格式などの、本朝の古法を考へ知るべし。もろこしの伝記のみを見て、わが国の事にうときは、近きをすてて遠きをつとむるなり。緩急の次第を失へりといふべし。しかれば、日の本に生れたる人は、必ず和学に通ずべし。もはら、もろこしの事のみまなんで、やまとの事知らざる人、今の世にも多し。かかる人は、世にまじはりても、わが国を知らで事かけぬべし。日本紀、万葉集の二書、わが国上代の事を知り、和語に通ずる益多し。和学をする人は先必ずよむべし。日本紀を見、次に六国史など、次に東鑑以下の野史を見るべし。一学問の要二あり。道を明らかにすると、事に達するとなり。道を明らかにするには経学をすべし。経は四書、五経なり。是、学問の本なり。事に達するには史学をすべし。史は左伝、史記、漢書以下の記史、及び通鑑なり。経学のみにて史に通ぜざれば、古今にくらくして用に達せず。経学なく史学に偏なれば、道理にくらし。

現代語訳

一、和学は、まず日本書紀以下の六国史を見て、それより後の吾妻鏡以下の野史や、近世までの小さな記録も考え合わせて、わが国の歴代の事を知るべきです。また律令格式などの、わが国の古い法を考え知るべきです。中国の伝記ばかり見て、わが国の事にうといのは、近いものを捨てて遠いものをつとめることです。緩急の順序を失っていると言うべきです。ですから、日本に生まれた人は、必ず和学に通じるべきです。もっぱら中国の事ばかり学んで、日本の事を知らない人が、今の世にも多いのです。こういう人は、世に交わっても、わが国を知らずに事欠くでしょう。日本書紀と万葉集の二書は、わが国の上代の事を知り、和語に通じるのに益が多いものです。和学をする人は、まず必ず読むべきです。日本書紀を見て、次に六国史など、次に吾妻鏡以下の野史を見るべきです。一、学問の要は二つあります。道を明らかにすることと、事に通じることです。道を明らかにするには経学をすべきです。経とは四書と五経です。これが学問の本です。事に通じるには史学をすべきです。史とは左伝・史記・漢書以下の史書、および資治通鑑です。経学ばかりで史に通じなければ、古今にくらくて実際の用に届きません。経学がなく史学に偏れば、道理にくらくなります。

解説

儒者でありながら、日本の歴史と法制を学ぶ和学を必須としている点が注目されます。六国史、吾妻鏡、律令格式、万葉集と具体的に書名を挙げ、中国のことばかり知って自国を知らないのは順序が逆だと戒めます。益軒は『筑前国続風土記』を編んだ郷土史家でもありました。後半では学問の要を「道を明らかにする」経学と「事に達する」史学の二つにまとめています。身近な足もとを知ってから遠くを学ぶという順序は、今の国際化の時代にもそのまま通じます。

この章句が説くこと

学問和学歴史経学史学

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