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武訓 / 下・第18段

敵と戰ふに、かち過しては、敵取つて返して、つよく戰ふものなれば、必、はじめのかちにて、早くやめて、少し手ぬるきさやうなるが、後の禍なし。匹夫の寄合ひ口論するも、惡口をすごし、人にかち過せば、其の人堪忍せずして、つよくしかへせば、おくれを取ることあり。古の良將の兵法、大にかたず、又、大にまくることなし。是、良將の兵法なり。兵をしらざる將は、幸にして大にかつことあり。又、大にまくること多し。是、良將の兵を用ふる法にあらず。さきがけをするも、此の心得あるべし。我一人ふか入すれば、幸にして手がらをすることあり。又、やみ〱と、敵にうたるゝこと多し。

新字:敵と戦ふに、かち過しては、敵取つて返して、つよく戦ふものなれば、必、はじめのかちにて、早くやめて、少し手ぬるきさやうなるが、後の禍なし。匹夫の寄合ひ口論するも、悪口をすごし、人にかち過せば、其の人堪忍せずして、つよくしかへせば、おくれを取ることあり。古の良将の兵法、大にかたず、又、大にまくることなし。是、良将の兵法なり。兵をしらざる将は、幸にして大にかつことあり。又、大にまくること多し。是、良将の兵を用ふる法にあらず。さきがけをするも、此の心得あるべし。我一人ふか入すれば、幸にして手がらをすることあり。又、やみ〱と、敵にうたるゝこと多し。

書き下し

敵と戰ふに、かち過しては、敵取つて返して、つよく戰ふものなれば、必、はじめのかちにて、早くやめて、少し手ぬるきさやうなるが、後の禍なし。匹夫の寄合ひ口論するも、惡口をすごし、人にかち過せば、其の人堪忍せずして、つよくしかへせば、おくれを取ることあり。古の良將の兵法、大にかたず、又、大にまくることなし。是、良將の兵法なり。兵をしらざる將は、幸にして大にかつことあり。又、大にまくること多し。是、良將の兵を用ふる法にあらず。さきがけをするも、此の心得あるべし。我一人ふか入すれば、幸にして手がらをすることあり。又、やみ〱と、敵にうたるゝこと多し。

現代語訳

敵と戦うとき、勝ちすぎると、敵は取って返して強く戦うものだから、必ず最初の勝ちで早くやめ、少し手ぬるいくらいにしておくのが、後の禍がない。つまらぬ者が寄り合って口論するときも、悪口を言いすぎて人に勝ちすぎれば、その人は堪忍できずに強く言い返し、こちらが後れをとることがある。古の良将の兵法は、大きく勝つこともなく、また大きく負けることもない。これが良将の兵法である。兵を知らない将は、運よく大勝することがある。また、大きく負けることも多い。これは良将が兵を用いる法ではない。先駆けをするのにも、この心得があるべきである。自分ひとりが深入りすれば、運よく手柄を立てることがある。また、むなしく敵に討たれることも多い。

解説

勝ちすぎないことが、後の禍を防ぐという段です。益軒は戦の話に、人が寄り合って口論する場面をたとえとして重ね、言い負かしすぎれば相手が堪忍できず、強く言い返してくると述べます。大勝も大敗もない良将と、運に頼って大勝も大敗もする将を対比し、先駆けの深入りにも同じ心得を求めています。ここでいう「手ぬるい」は、手を抜くことではなく、追い詰めすぎないという意味です。値引き交渉や社内の論争で相手を完全に押し切ると、後で関係が壊れることがあります。八分の勝ちで引く判断は、長く続く関係を守る技術です。

この章句が説くこと

勝ちすぎ引き際堪忍口論先駆け武訓

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