武訓 / 下・第17段
三代の將、道家の忌む所、將はおほく人を殺す故、父子孫三代つゞきて將となれば、人をころすこと多し。天道のにくみ給ふ所なる故、必、子孫ほろぶ。天道おそるべし。もし、良將人を殺すことを好まずして、戰はずしてかち、謀を以て敵を降らしめ、戰にのぞんでも、陣をおしくづして敵にかてば、敵身方人は多く亡びず。故に、良將の戰は、敵も身方も、人多くは殺さず。暗將は、兵の道をしらず、敵を多くころすを手がらとおもふ、愚なり。人を殺すことを好まずんば、將たること幾代つゞきても、家の亡ぶるにはいたらじ。
新字:三代の将、道家の忌む所、将はおほく人を殺す故、父子孫三代つゞきて将となれば、人をころすこと多し。天道のにくみ給ふ所なる故、必、子孫ほろぶ。天道おそるべし。もし、良将人を殺すことを好まずして、戦はずしてかち、謀を以て敵を降らしめ、戦にのぞんでも、陣をおしくづして敵にかてば、敵身方人は多く亡びず。故に、良将の戦は、敵も身方も、人多くは殺さず。暗将は、兵の道をしらず、敵を多くころすを手がらとおもふ、愚なり。人を殺すことを好まずんば、将たること幾代つゞきても、家の亡ぶるにはいたらじ。
書き下し
三代の將、道家の忌む所、將はおほく人を殺す故、父子孫三代つゞきて將となれば、人をころすこと多し。天道のにくみ給ふ所なる故、必、子孫ほろぶ。天道おそるべし。もし、良將人を殺すことを好まずして、戰はずしてかち、謀を以て敵を降らしめ、戰にのぞんでも、陣をおしくづして敵にかてば、敵身方人は多く亡びず。故に、良將の戰は、敵も身方も、人多くは殺さず。暗將は、兵の道をしらず、敵を多くころすを手がらとおもふ、愚なり。人を殺すことを好まずんば、將たること幾代つゞきても、家の亡ぶるにはいたらじ。
現代語訳
三代の将は、道家が忌むところである。将は多くの人を殺すので、父・子・孫と三代続けて将となれば、人を殺すことが多い。それは天道が憎まれるところであるから、必ず子孫が滅びる。天道は恐れるべきである。もし良将が人を殺すことを好まず、戦わずして勝ち、はかりごとで敵を降参させ、戦に臨んでも、陣を押し崩して敵に勝つなら、敵も味方も人は多く滅びない。だから良将の戦は、敵も味方も人を多くは殺さない。暗い将は兵の道を知らず、敵を多く殺すのを手柄と思う、愚かなことである。人を殺すことを好まなければ、将であることが何代続いても、家の滅ぶには至らないだろう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武訓』下・第15段良將のいくさは、はかりごとよく、おもんばかりくはしくして、かちやすきにかつ。故に、士卒おほくはうち死なし。愚將暗主は、此の理をしらずして、敵身方士卒の多く死するを悅ぶは、不仁なるのみならず、軍の道におろかなる故なり。上兵は、戰はずしてかつをよしとす。若、やむことを得ずして戰ふとても、いくさの道よく、はかりごとあるゆゑに、良將は、敵をも、身方をも多くころさず。古人の曰、將となること三世なれば、子孫なし。いふ意は、天道は、不仁をにくみ、ころすことをこのみ給はず。凡、天の下の人は、皆、天の子なれば、其の子をころすことをにくみ給ふ故、人を殺すことをこのめば、其の子孫絕ゆとなり。仁者は、將となりても、人を多くころさず。しからば、將たること數代なりとも、何ぞ害あらんや。若、不仁にして、人を多くころしたる人は、三世にかぎらず、一代將となりても、其の子孫斷絕せし人、古今、其のためし多し。天道不仁をにくみ給ふこと、これを以てしるべし。其の理たがはず、うたがふべからず。天道おそるべし。あきらかなり。
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『文武訓』武訓下一兵を用ふるは、まことに武威を貴ぶ。しかれども、仁義の道なければ諸人の心従はず、武を用ひがたし。一良将のいくさは、はかりごとよく、おもんぱかり精しくして、勝ちやすきに勝つ。故に、士卒おほくはうち死なし。愚将暗主は此理を知らずして、敵身方士卒の多く死するを悦ぶは、不仁なるのみならず、軍の道におろかなる故なり。上兵は戦はずして勝つをよしとす。若やむことを得ずして戦ふとても、いくさの道よくはかりごとあるゆゑに、良将は敵をも身方をも多くころさず。古人の曰、将となること三世なれば子孫なし。いふ意は、天道は不仁をにくみ、ころすことをこのみ給はず。凡天が下の人は、皆天の子なれば、其子をころすことをにくみ給ふ故、人を殺すことをこのめば、其子孫絶ゆとなり。
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『文武訓』武訓下一弓をみたらしといひ、太刀をみはかしといふこと、仔細あり。一三代の将、道家の忌む所、将はおほく人を殺す故、父子孫三代つづきて将となれば、人をころすこと多し。天道のにくみ給ふ所なる故、必ず子孫ほろぶ。天道おそるべし。もし、良将人を殺すことを好まずして、戦はずして勝ち、謀を以て敵を降らしめ、戦にのぞんでも、陣を多くくづして敵に勝てば、敵身方人は多く亡びず。故に良将の戦は、敵も身方も人多くは殺さず。暗将は兵の道を知らず、敵を多くころすを手がらとおもふ、愚なり。人を殺すことを好まずんば、将たること幾代つづきても、家の亡ぶるには至らじ。
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『文武訓』武訓下仁者は、将となりても人を多くころさず。しからば将たること数代なりとも、何ぞ害あらんや。若不仁にして人を多くころしたる人は、三世にかぎらず、一代将となりても、其子孫断絶せし人、古今其ためし多し。天道不仁をにくみ給ふこと、これを以て知るべし。其理たがはず、うたがふべからず。天道おそるべし、あきらかなり。
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『武訓』下・第18段敵と戰ふに、かち過しては、敵取つて返して、つよく戰ふものなれば、必、はじめのかちにて、早くやめて、少し手ぬるきさやうなるが、後の禍なし。匹夫の寄合ひ口論するも、惡口をすごし、人にかち過せば、其の人堪忍せずして、つよくしかへせば、おくれを取ることあり。古の良將の兵法、大にかたず、又、大にまくることなし。是、良將の兵法なり。兵をしらざる將は、幸にして大にかつことあり。又、大にまくること多し。是、良將の兵を用ふる法にあらず。さきがけをするも、此の心得あるべし。我一人ふか入すれば、幸にして手がらをすることあり。又、やみ〱と、敵にうたるゝこと多し。
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『文武訓』武訓下一敵と戦ふに、勝ち過しては、敵取つて返してつよく戦ふものなれば、必ずはじめの勝にて早くやめて、少し手ぬるきやうなるが後の禍なし。匹夫の寄合ひ口論するも、悪口をしすごし、人に勝ち過せば、其人堪忍せずして、つよくしかへせば、おくれを取ることあり。古の良将の兵法、大に勝たず又大に負くることなし。是良将の兵法なり。兵を知らざる将は、幸にして大に勝つことあり、又大に負くること多し。是、良将の兵を用ふる法にあらず。さきがけをするも此心得あるべし。我一人深入すれば、幸にして手がらをすることあり。又やみやみと敵にうたるること多し。
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