武訓 / 上・第29段
忠臣義士の、身をすてゝ、君をいさめ、節に死し、取るまじき財祿をすて、朋友の過を切々矯正す。かやうに忠直にして、柔弱ならざるを士氣といひ、又、氣節といふ。是君子のことなり。一朝のいかりに、人とあらそひて、其の身を亡ぼすは、士氣にあらず。客氣といひ、浮氣ともいふ。是、小人のことなり。
新字:忠臣義士の、身をすてゝ、君をいさめ、節に死し、取るまじき財禄をすて、朋友の過を切々矯正す。かやうに忠直にして、柔弱ならざるを士気といひ、又、気節といふ。是君子のことなり。一朝のいかりに、人とあらそひて、其の身を亡ぼすは、士気にあらず。客気といひ、浮気ともいふ。是、小人のことなり。
書き下し
忠臣義士の、身をすてゝ、君をいさめ、節に死し、取るまじき財祿をすて、朋友の過を切々矯正す。かやうに忠直にして、柔弱ならざるを士氣といひ、又、氣節といふ。是君子のことなり。一朝のいかりに、人とあらそひて、其の身を亡ぼすは、士氣にあらず。客氣といひ、浮氣ともいふ。是、小人のことなり。
現代語訳
忠臣や義士が、身を捨てて君をいさめ、節に殉じ、受け取るべきでない財や禄を捨て、友人の過ちを熱心に正す。このように忠直であって、柔弱でないことを士気といい、また気節ともいいます。これは君子のことです。一時の怒りで人と争って、その身を滅ぼすのは、士気ではありません。客気といい、浮気ともいいます。これは小人のことです。
解説
士気と客気を区別する段です。益軒は、諫言や節義、不当な利益を断ること、友の過ちを正すことなど、忠直で柔弱でない姿を士気とします。これに対し、一時の怒りで争って身を滅ぼすのは、うわついた客気であり、小人のふるまいとして退けます。同じ勇ましさでも、動機と結果によって、評価が分かれるという見方です。君子と小人という分け方は当時のものですが、感情の勢いと信念の強さを混同しない、という点は現代にも通じます。職場で声の大きさと筋の通りを区別して見ることも、これに近い発想です。
この章句が説くこと
士気客気気節君子と小人信念武訓
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