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武訓 / 上・第9段

生れつきに、勇怯あり。勇に、血氣の勇あり、義理の勇あり。血氣の勇は、つよきをやぶり、かたきをくだくとすぐれたり。されど、氣つよきのみにて、義なければ、節を守らず、たのもしげなし。義理の勇は、節義を守りて、大節にのぞみて、義を變ぜず、たのもし。たとへば、犬にも、勇犬あり、義犬あり。勇犬は、むかふ所、はたらきつよし。されども、あら野猪出でいかれば、身を引きてのがる。義犬は、つねの時は、惡性ならず、ぬすみせず、人をおそる。けものにむかひて、はたらき、勇犬に及ばざれど、たけくいかれるしゝにあひてもにげず。人の主君のために、節を守るが如し。

新字:生れつきに、勇怯あり。勇に、血気の勇あり、義理の勇あり。血気の勇は、つよきをやぶり、かたきをくだくとすぐれたり。されど、気つよきのみにて、義なければ、節を守らず、たのもしげなし。義理の勇は、節義を守りて、大節にのぞみて、義を変ぜず、たのもし。たとへば、犬にも、勇犬あり、義犬あり。勇犬は、むかふ所、はたらきつよし。されども、あら野猪出でいかれば、身を引きてのがる。義犬は、つねの時は、悪性ならず、ぬすみせず、人をおそる。けものにむかひて、はたらき、勇犬に及ばざれど、たけくいかれるしゝにあひてもにげず。人の主君のために、節を守るが如し。

書き下し

生れつきに、勇怯あり。勇に、血氣の勇あり、義理の勇あり。血氣の勇は、つよきをやぶり、かたきをくだくとすぐれたり。されど、氣つよきのみにて、義なければ、節を守らず、たのもしげなし。義理の勇は、節義を守りて、大節にのぞみて、義を變ぜず、たのもし。たとへば、犬にも、勇犬あり、義犬あり。勇犬は、むかふ所、はたらきつよし。されども、あら野猪出でいかれば、身を引きてのがる。義犬は、つねの時は、惡性ならず、ぬすみせず、人をおそる。けものにむかひて、はたらき、勇犬に及ばざれど、たけくいかれるしゝにあひてもにげず。人の主君のために、節を守るが如し。

現代語訳

生まれつきに勇と怯があります。勇には血気の勇と義理の勇があります。血気の勇は、強い敵を破り、堅い敵を砕くことにすぐれています。けれども、気が強いだけで義がなければ、節を守らず、頼もしくありません。義理の勇は、節義を守り、大節に臨んで義を変えず、頼もしいものです。たとえば、犬にも勇犬と義犬があります。勇犬は、向かうところ、はたらきが強いのですが、荒々しい猪が出て怒れば、身を引いて逃げます。義犬は、ふだんは悪さをせず、盗みもせず、人を恐れます。獣に向かう働きは勇犬に及びませんが、猛り怒る猪に出会っても逃げません。これは人が主君のために節を守るようなものです。

解説

勇を血気の勇と義理の勇に分け、犬の譬えで説明する段です。勇犬は向かうところ強いが、手ごわい猪には逃げる。義犬は働きこそ劣るが、いざという相手にも逃げない。同じ勇でも、状況が厳しくなったときに持ちこたえるのは、義に支えられた勇のほうだという見方です。組織では、成績の目立つ人が危機に弱く、地味な人が土壇場で踏ん張るという場面があります。目先の成果と、困難な局面でも筋を変えない信頼性は別のものとして見るべきです。ここで頼もしさを何で測るかを考えるきっかけになります。

この章句が説くこと

血気の勇義理の勇節義信頼犬の譬え武訓

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