武家小学 / 色欲に溺れる害
一色欲に淫する時は。家內穩ならず。物ごと私有て正しからず。其上精氣漏滲こと多時は人事の勤に倦退屈して知謀計略をなす事叶はず。終には病を生じて天壽を夭すべし。甚畏るべきの至なり。凡士は任重して道遠とて。士は人の道を以て己が勤とし。死する迄行べきものなれば。此詞を以て大成戒として。志を立。愼て道を守るべし。
新字:一色欲に淫する時は。家内穏ならず。物ごと私有て正しからず。其上精気漏滲こと多時は人事の勤に倦退屈して知謀計略をなす事叶はず。終には病を生じて天寿を夭すべし。甚畏るべきの至なり。凡士は任重して道遠とて。士は人の道を以て己が勤とし。死する迄行べきものなれば。此詞を以て大成戒として。志を立。慎て道を守るべし。
書き下し
一色欲に淫する時は。家內穩ならず。物ごと私有て正しからず。其上精氣漏滲こと多時は人事の勤に倦退屈して知謀計略をなす事叶はず。終には病を生じて天壽を夭すべし。甚畏るべきの至なり。凡士は任重して道遠とて。士は人の道を以て己が勤とし。死する迄行べきものなれば。此詞を以て大成戒として。志を立。愼て道を守るべし。
現代語訳
一、色欲に溺れるときは、家の内が穏やかでなくなり、物事に私心があって正しくなくなります。そのうえ、精気が漏れ尽きることが多いと、人事の勤めに飽きて気力が衰え、知謀や計略をなすことができなくなります。ついには病を生じて、天寿を短くするでしょう。たいへん恐れるべきことの極みです。そもそも武士は「任重くして道遠し」といって、人の道を自分の勤めとし、死ぬまで行うべきものです。この言葉を大いなる戒めとして、志を立て、慎んで道を守りなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武教小学』飲食色欲飲食男女は、人の大欲の存する也。飲食は、身体を養い礼節を行わんが為なり。色欲は、子孫を嗣ぎ情欲を止めんが為なり。人皆自然の節有り。士は三民の長たり、家業弥々重く、職任る所甚だ厚し。豈に慎まざる可けん哉。飲食量に過ぐれば、則ち病を生じ争いを起こす。(言うこころは、飲酒の節過ぐれば、則ち礼を失い争いを起こすの基也。)然らざれば、則ち睡眠至り、骨体重くして、事々怠り多し。則ち家業忽にして、職とする所の事凝滞す。其の費尤も大なり。色欲淫なれば、則ち内議多くして、用事に私有り。精気漏滲すれば、則ち謀事成らず、甚だ畏る可きの至りなり。任重くして道遠し。故に此を以て大戒と為す。(曾子曰く、士は以て弘毅ならざる可からず。任重くして道遠し。仁以て己が任と為す、亦重からずや。死して後已む、亦遠からずや。云々。)
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『武家小学』・飲食と色欲の節一飲食と男女の欲は。天下の人何れも好み欲る所也。然共飲食は身躰を養ひ禮節を行んが爲也。色欲は子孫を嗣て血脉を全して先祖の祭をなさしめ。又情欲を止て邪淫なからしむる爲也。皆自然の節あり。愼て程よくすべし。凡士は農工商の三民の長にて。三民へ敎を施し。三民を治る役故。家業彌重して。職に任ずる處又甚重し。故に殊更愼ずんば有べからず。一飲食は分量を過し飽まで食ば。食滯て病を生ず。飲酒も節を過れば禮を失ひ爭を起べし。然らざれば睡眠を生じ。或は立居もおもく萬事怠生ずべし。怠多時は家業も忽に成て職る所の事も凝滯て其蔽大なるべし。
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『武家小学』・三つの容体を慎む一凡士たるの道は行住座臥共に。暫も武の業を忘て放心する時は。必變に臨て常の心懸を失ひ。一生涯士の道を行ひ遂んとする格勤も。只一事に闕滅て本意を失ふべし。變の出るは何時も計りがたき事なれば。平日怠る事なかれ。禮記にも凡人の人たるわけは禮義有ゆゑなり。禮義の初は容體を正し。顏色をとゝのへ。辭令を順にするに有。容體正しく。顏色をとゝのひ。辭も順にして而後に禮義備るといへり。士としては行住座臥共に。此三つを愼むべし。
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『武家小学』・語るべきこと慎むこと一凡士の恒に語るべきは。義不義の論古戰場の物語。古今の勇士義士の批判。時代武義の盛衰抔を平日議論して。今日の我行の非を戒べし。さもなく他人の非を嘲り。或は時の政事を謗り或は遊興の樂を語。又は男女の色を言時は。其心かならず流蕩して。行も詞につれて自然夫に溺れ陷るものなり。人の心は素より是等の事を好ものなれば。士はかくのごとくの無禮の詞ゆめ〱語べからず。
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『斉家論』下世の苦しみをかへりみず、剰へ親子兄弟親類まで不和に成り、たがひに恨みをふくむに至る。又色欲といふは、若き時は前後のわきまへもなく、しなかたちにのみめで、爰かと思へばかしこにわたり、流れの女にさへ心を見すかさるれど、夫をもしらず、親のゆるさぬ金銀をつかふ。又老いたる人も、夫婦諸ともに道にも入るべき時、腰元や下女に手をかけ、又はわかき女を抱へ寵愛し、親しむべき女房には疎く成り、頭には白髪をいたゞく事をしらず、栄耀栄花のおごりのために、こゝろを悩ますことはなはだし。其の外万事不義無道をなし、心を煩はすは、皆放心を以てなり。此の味を知らず、仁に心を尽さゞるは、かなしき事かな。聖賢これを嘆き給ひ、学問の道他なし、
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『武家小学』・衣服と食の質素一衣服は外の錺を好まず。唯武備に稱ふを以て用とすべし。長短縫裁皆則あり。其身相應にすべし。一食は麁菜麁食を喰ふべし。尤上下を分たず滋味を同ふすべし。然共氣質に依て多病なるか。或は脾胃の調はざる者は麁食をなし。我が氣質に及ざる事を强てなさば。却て身を損する事有べし。此のごとくの士は養生を能して身を養ひ。生を全し。時至らば道を全守て。義に死するの心得有べし。

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