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武家小学 / 朝の心得と孝

一凡士たるの法は。先夙に起て手洗ひ。口すゝぎ。髪を結ひ。衣服を正して。躰に備る用具を佩て(用具とは刀脇差鼻紙扇子等也)躰を全くとゝのへ。能平旦の氣を養ふべし。朝の氣のいまだ物に接らず思ひ邪なく正しく平易なる時。先父母によつて成長し。君の爲に養はるゝ所の其恩情を毎朝思ひ出して忘るべからず。次に今日の家業我身の勤べき事を思ひ計べし。一我身は父母より受たる物なれば。私に毀傷らず。身を全して聊も人の誹謗をうけず。身を穢さず能士の道を行て。末の世迄も其身は勿論某の子と稱せられて父母の名まで顯し。諸人に譽らるゝは孝の道なる事を思ふべし。一日々家內の用事は。毎朝家內の者へ兼て下知を加置べし。扨客ある時は應對を能いたし。君に仕る時は早く出て仕へ。父母に事る節は其安否を察して父母の心躰を安からしむべし。

新字:一凡士たるの法は。先夙に起て手洗ひ。口すゝぎ。髪を結ひ。衣服を正して。体に備る用具を佩て(用具とは刀脇差鼻紙扇子等也)体を全くとゝのへ。能平旦の気を養ふべし。朝の気のいまだ物に接らず思ひ邪なく正しく平易なる時。先父母によつて成長し。君の為に養はるゝ所の其恩情を毎朝思ひ出して忘るべからず。次に今日の家業我身の勤べき事を思ひ計べし。一我身は父母より受たる物なれば。私に毀傷らず。身を全して聊も人の誹謗をうけず。身を穢さず能士の道を行て。末の世迄も其身は勿論某の子と称せられて父母の名まで顕し。諸人に誉らるゝは孝の道なる事を思ふべし。一日々家内の用事は。毎朝家内の者へ兼て下知を加置べし。扨客ある時は応対を能いたし。君に仕る時は早く出て仕へ。父母に事る節は其安否を察して父母の心体を安からしむべし。

書き下し

一凡士たるの法は。先夙に起て手洗ひ。口すゝぎ。髪を結ひ。衣服を正して。躰に備る用具を佩て(用具とは刀脇差鼻紙扇子等也)躰を全くとゝのへ。能平旦の氣を養ふべし。朝の氣のいまだ物に接らず思ひ邪なく正しく平易なる時。先父母によつて成長し。君の爲に養はるゝ所の其恩情を毎朝思ひ出して忘るべからず。次に今日の家業我身の勤べき事を思ひ計べし。一我身は父母より受たる物なれば。私に毀傷らず。身を全して聊も人の誹謗をうけず。身を穢さず能士の道を行て。末の世迄も其身は勿論某の子と稱せられて父母の名まで顯し。諸人に譽らるゝは孝の道なる事を思ふべし。一日々家內の用事は。毎朝家內の者へ兼て下知を加置べし。扨客ある時は應對を能いたし。君に仕る時は早く出て仕へ。父母に事る節は其安否を察して父母の心躰を安からしむべし。

現代語訳

総じて武士たる者の法は、まず早く起きて手を洗い、口をすすぎ、髪を結い、衣服を正して、身に備える道具を腰に差し(道具とは刀、脇差、鼻紙、扇子などです)、身なりを完全に整え、よく夜明けの清々しい気を養うことです。朝の気がまだ物に触れず、思いに邪がなく、正しく穏やかな時に、まず父母によって成長し、主君のために養われてきた恩情を、毎朝思い出して忘れてはなりません。次に、今日の家業と自分が勤めるべきことを思い巡らしなさい。また、自分の身は父母から受けたものですから、勝手に傷つけず、身を全うして少しも人の非難を受けず、身を汚さず、よく武士の道を行って、後の世までも、某の子と称されて父母の名まで顕し、人々にほめられることが孝の道であると思いなさい。また、毎日の家の用事は、毎朝あらかじめ家の者に指図しておきなさい。さて、客のある時はよく応対し、主君に仕える時は早く出て仕え、父母に仕える折には、その安否を察して、父母の心身を安らかにさせなさい。

解説

武士の一日は早起きと身支度から始まり、朝の澄んだ心で父母と主君の恩を思い、その日の務めを考える、と説かれます。身体髪膚を傷つけず、世間の非難を受けずに名を残すことが孝だという儒教の考えも重ねられています。現代の組織の上に立つ者にとっても、始業前の静かな時間に一日の優先順位を考え、部下や顧客への恩を思い起こす習慣は有益です。朝に身なりと段取りを整える小さな規律が、一日の判断の乱れを防ぐのです。

この章句が説くこと

早起き平旦の気孝身支度恩朝の習慣

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