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武家家訓集 / 上杉鷹山家訓壁書幼君の左右に

(幼君願学奥より表に移りし時左右詰の間の墨書) 一孟子は古への大賢德の人ぞかし、斷機の嚴訓に成とは云へども、三遷の薫陶ぞ淺からぬ、日月朝夕の事こそ其浸潤は深かんめれ、人は善惡の友によるとかや、人は左右を以て友とせる、若殿の視聽は面々の言行ぞかし、心を用よや、人々終日の事なれば皆かくの如くには成間敷けれど、其大概をここに記して法則にもせよとおもふものなり、

新字:(幼君願学奥より表に移りし時左右詰の間の墨書) 一孟子は古への大賢徳の人ぞかし、断機の厳訓に成とは云へども、三遷の薫陶ぞ浅からぬ、日月朝夕の事こそ其浸潤は深かんめれ、人は善悪の友によるとかや、人は左右を以て友とせる、若殿の視聴は面々の言行ぞかし、心を用よや、人々終日の事なれば皆かくの如くには成間敷けれど、其大概をここに記して法則にもせよとおもふものなり、

書き下し

(幼君願学奥より表に移りし時左右詰の間の墨書) 一孟子は古への大賢德の人ぞかし、斷機の嚴訓に成とは云へども、三遷の薫陶ぞ淺からぬ、日月朝夕の事こそ其浸潤は深かんめれ、人は善惡の友によるとかや、人は左右を以て友とせる、若殿の視聽は面々の言行ぞかし、心を用よや、人々終日の事なれば皆かくの如くには成間敷けれど、其大概をここに記して法則にもせよとおもふものなり、

現代語訳

(幼君が願学の奥から表に移られたとき、左右の詰の間に墨書したもの) 孟子は昔の大賢徳の人であるが、機を断つ厳しい教え(断機の訓)によって成ったとはいうものの、三度の引っ越し(三遷)による感化も浅くはない。毎日の朝夕のことにこそ、その染み込む影響は深いだろう。人は善悪の友によって決まるともいう。人は左右の者を友とするものである。若殿の見聞きするものは、皆それぞれの言行である。心を用いよ。人々も終日のことなので、皆がこの通りにはなれまいが、その大概をここに記して、法則にもせよと思うのである。

解説

幼い世子の左右に掲げた壁書の前書きです。孟子の母の「断機」の教えと「三遷」の故事を引き、教育は厳しい訓戒だけでなく、毎日の朝夕に染み込む環境の力が大きいと述べます。若殿の見聞きするものは、左右にいる者の言行そのものなので、側近たちは心を用いよ、という呼びかけです。終日この通りに振る舞うのは無理でも、その大概を法則として示すとします。子どもだけでなく、新人や部下の育成にも当てはまります。研修や訓示より、日々そばにいる上司や先輩の言動のほうが、人を形づくります。

この章句が説くこと

環境孟母三遷断機近くにいる人の影響壁書武家家訓集

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