武家家訓集 / 武田信繁家訓九十九箇条第4〜6条
一武勇專可嗜事、三略曰、强將下無弱兵、 一每逼不可虛言事、神託曰、雖非正直一旦之依怙、終蒙日月之憐、付但武略之時者、可依時宜歟、孫子曰、辟實而擊虛、 一對父母、聊不可不孝事、論語曰、事父母能竭其力、
新字:一武勇専可嗜事、三略曰、強将下無弱兵、 一毎逼不可虚言事、神託曰、雖非正直一旦之依怙、終蒙日月之憐、付但武略之時者、可依時宜歟、孫子曰、辟実而撃虚、 一対父母、聊不可不孝事、論語曰、事父母能竭其力、
書き下し
一、武勇を專らに嗜むべき事。三略に曰く、强將の下に弱兵無し、と。 一、逼每に虛言すべからざる事。神託に曰く、正直は一旦の依怙に非ずと雖も、終に日月の憐れみを蒙る、と。付けたり、但し武略の時は、時宜に依るべきか。孫子に曰く、實を辟けて虛を擊つ、と。 一、父母に對し、聊かも不孝なるべからざる事。論語に曰く、父母に事へて能く其の力を竭くす、と。
現代語訳
一、武勇をもっぱら心がけることです。『三略』に「強い将の下に弱い兵はいない」とあります。一、場面ごとに偽りを言ってはなりません。神託に「正直は一時の頼みにはならなくても、ついには日月の憐れみを受ける」とあります。ただし、武略の際は時宜によるべきでしょう。『孫子』に「実を避けて虚を撃つ」とあります。一、父母に対して、少しも不孝であってはなりません。『論語』に「父母に仕えては、その力を尽くす」とあります。
解説
武勇、嘘をつかないこと、親孝行の三条です。第五条は、正直は目先の得にならなくても最後は天に報われると述べ、そのすぐあとに、武略の場面は時宜によると例外を付けています。孫子の「実を避けて虚を撃つ」はその例外を支える引用です。ふだんは誠実、勝負どころでは策を使うという線引きを、本文自身が示しています。現代の仕事でも、取引や顧客には誠実を貫き、交渉や競争では策を巡らせるという使い分けが参考になります。底本の「逼毎」の語は読みが仮です。
この章句が説くこと
武勇正直時宜孝行駆け引き武家家訓集
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