武家家訓集 / 毛利元就三子教訓状二十歳から四十余年のこと
一元就事二十五年、奧元にはなれ申、至當年于今迄四十餘ヶ年、其內大浪小浪洞に、他家之弓矢いかばかり轉變に候哉、然處元就一人すべりぬけ候て、如此之儀不思議不能申候身ながら、吾等事けな氣者、とうほ手ものにても、智惠才覺人に越候者にても、又正直正路者にて人にすぐれ、神佛の御まぼりあるべき者にても、何之條にてもなく候處に、かやうにすべりぬけ候事、何之段にて候共、更身ながら不及推量候〱、然間はやく〱心安、ちと今生のらくをも仕、心靜に後生のねがひをも仕度候へ共、其段も先ならず候て不及申候〱、
新字:一元就事二十五年、奥元にはなれ申、至当年于今迄四十余ヶ年、其内大浪小浪洞に、他家之弓矢いかばかり転変に候哉、然処元就一人すべりぬけ候て、如此之儀不思議不能申候身ながら、吾等事けな気者、とうほ手ものにても、智恵才覚人に越候者にても、又正直正路者にて人にすぐれ、神仏の御まぼりあるべき者にても、何之条にてもなく候処に、かやうにすべりぬけ候事、何之段にて候共、更身ながら不及推量候〱、然間はやく〱心安、ちと今生のらくをも仕、心静に後生のねがひをも仕度候へ共、其段も先ならず候て不及申候〱、
書き下し
一元就事二十五年、奧元にはなれ申、至當年于今迄四十餘ヶ年、其內大浪小浪洞に、他家之弓矢いかばかり轉變に候哉、然處元就一人すべりぬけ候て、如此之儀不思議不能申候身ながら、吾等事けな氣者、とうほ手ものにても、智惠才覺人に越候者にても、又正直正路者にて人にすぐれ、神佛の御まぼりあるべき者にても、何之條にてもなく候處に、かやうにすべりぬけ候事、何之段にて候共、更身ながら不及推量候〱、然間はやく〱心安、ちと今生のらくをも仕、心靜に後生のねがひをも仕度候へ共、其段も先ならず候て不及申候〱、
現代語訳
元就は二十五年、奥元(父母)を離れ、今年に至るまで四十余年、その間、大波小波の中で、他家の戦いがどれほど転変したことか。そんな中で元就一人が滑り抜けて、このようになったのは不思議と言うほかない。自分は決して大した者ではなく、武勇でも、智恵や才覚が人に勝るのでも、正直で人にすぐれ、神仏の守りがあるはずの者でもないのに、このように滑り抜けたことは、どういうことなのか、自分でも推し量れない。そのため早く心安く、少し今生の楽もし、心静かに後生の願いもしたいが、それも思うようにならない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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葉隠・聞書第二少し眼(め)見え候者は、我が長(た)けを知り、非を知りたりと思ふゆゑ、尚々(なおなお)自慢になるものなり。実(じつ)に我が長け、我が非を知る事成り難(がた)きものの由。海音和尚(かいおんおしょう)御話(おはなし)なり。
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『大和俗訓』巻之一・為学上一学ぶ人は、唯我が知のくらく、我が徳のすすまざる事をうれふべし。われに学問才智技芸ありとも、我を知ありとし、我が才にほこる心あるべからず。人各知あり、又長ずる所あり。人をおろかにし侮るべからず。諫をふせぎ、我を是とすべからず。己が不善をすてて人の善にしたがひ、人の善を用ひて我が身に行ふべし。我を知ありとするものは悪徳なり、いましむべし。其愚を知るものは大愚にあらず。其過を知るものは大なる過なし。故に高慢にして己をゆるすものは、必愚人なり。いかんとなれば、自ら知るの明なく、知をひらき善にすすむの基なくして、終に愚にてをはる。人をあなどる者は、必天のとがめあり、人のせめあり、人をそしる者は、必人にそしらる。
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『益軒家訓』聖学須勤人至て愚なりといへども、一事の善なきことあたはず。故に愚人の言をも理あるは取用ふべし。われを智ありとする者は必愚人なり。我を善なりとする者はかならず悪人なり。悪を知るものは大悪にあらず。人を侮るものは、必天の咎あり、人のうらみあり。我に学問知恵芸能ありとも、是皆わが分内の事なれば、矜べき事にあらず。かならず是を自慢し、人を侮るべからず。古の君子は、聰明叡智なれども、これを守るに愚を以てす。況や末世の凡人、僅なる才能にほこるは、かた腹いたき事なり。甚卑し。我に善あり能ありとも、自ら衒ひ、みづから褒むべからず。其善に矜ればその善を喪ふ、其能にほこれば其能をうしなふ。自慢するをほこるといふは、矜はほこるとよめり。
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尚書・周官位は驕るを期せずして驕り、祿は侈るを期せずして侈る。恭儉は惟れ德なり、爾の偽を載すこと無かれ。
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尚書・仲虺之誥自ら師を得る者は王たり、人(ひと)己(おのれ)に若(し)く莫(な)しと謂(い)う者は亡ぶ。
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『大和俗訓』巻之八・応接一大禹謨に曰く、満は損を招き、謙は益を受く。わが才徳を満てりとするは、禍ありて、わが損となる。謙ればかへつて身の益となる。易曰く、天道は盈を虧きて謙に益すといへるも、同理なり。一天下皆非なるの理なし。人の行をあししとのみ思ふべからず。わが身をかへりみおさへて、己を責むべし。人の非をのみ見て、わが身をかへりみざるは、是満は損を招ぐなり。
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