武家拾要記抄録 / 善行篇・善行を見出し、驕りを戒める七つの敵
一國郡を治め給ふ人は、其領內の町屋在郷などを通り給ふおりふしは、其家居にも御心を付られ、又作法行儀のよろしき者あるをば、たづね出し給ひ賞美あるべし、是士民善にすゝむの道也、又矢倉栖樓にのぼりては方角をよく見定め、鍥をつけ置るべし、夜中に見たがへまじきため也、一殿中にて喧嘩口論などふかく愼むべし、もつとも武士のまじはる道は、拳扇にて打あふ事もいさかあるべからず、朋友の口論は早く中を和ぐべし、兎に角に人中のたはふれ高言などは、人そばへの臆病者といふこれなり、又家に添ふ敵は火事、身にそふ敵は驕り、口にそふ敵は多言、氣にそふ敵は隨、思にそふ敵は分外、意にそふ敵は私欲、心にそふ敵は不知也と心得、能退治すべし、一過て苦しからぬは武具、さし出て苦しからぬは一番鎗、後れてくるしからぬは殿といへり、さて主人御意なくしてさし出る所四つあり、一には掛繪のゆがみたるを直す事、二には蠟燭の心とる事、三には妻戸のかけかねあがりたるを直す事、四には麁物を直す事なり、
新字:一国郡を治め給ふ人は、其領内の町屋在郷などを通り給ふおりふしは、其家居にも御心を付られ、又作法行儀のよろしき者あるをば、たづね出し給ひ賞美あるべし、是士民善にすゝむの道也、又矢倉栖楼にのぼりては方角をよく見定め、鍥をつけ置るべし、夜中に見たがへまじきため也、一殿中にて喧嘩口論などふかく慎むべし、もつとも武士のまじはる道は、拳扇にて打あふ事もいさかあるべからず、朋友の口論は早く中を和ぐべし、兎に角に人中のたはふれ高言などは、人そばへの臆病者といふこれなり、又家に添ふ敵は火事、身にそふ敵は驕り、口にそふ敵は多言、気にそふ敵は随、思にそふ敵は分外、意にそふ敵は私欲、心にそふ敵は不知也と心得、能退治すべし、一過て苦しからぬは武具、さし出て苦しからぬは一番鎗、後れてくるしからぬは殿といへり、さて主人御意なくしてさし出る所四つあり、一には掛絵のゆがみたるを直す事、二には蝋燭の心とる事、三には妻戸のかけかねあがりたるを直す事、四には麁物を直す事なり、
書き下し
一國郡を治め給ふ人は、其領內の町屋在郷などを通り給ふおりふしは、其家居にも御心を付られ、又作法行儀のよろしき者あるをば、たづね出し給ひ賞美あるべし、是士民善にすゝむの道也、又矢倉栖樓にのぼりては方角をよく見定め、鍥をつけ置るべし、夜中に見たがへまじきため也、一殿中にて喧嘩口論などふかく愼むべし、もつとも武士のまじはる道は、拳扇にて打あふ事もいさかあるべからず、朋友の口論は早く中を和ぐべし、兎に角に人中のたはふれ高言などは、人そばへの臆病者といふこれなり、又家に添ふ敵は火事、身にそふ敵は驕り、口にそふ敵は多言、氣にそふ敵は隨、思にそふ敵は分外、意にそふ敵は私欲、心にそふ敵は不知也と心得、能退治すべし、一過て苦しからぬは武具、さし出て苦しからぬは一番鎗、後れてくるしからぬは殿といへり、さて主人御意なくしてさし出る所四つあり、一には掛繪のゆがみたるを直す事、二には蠟燭の心とる事、三には妻戸のかけかねあがりたるを直す事、四には麁物を直す事なり、
現代語訳
一つ、国郡を治める人は、その領内の町家や在郷などを通られるときは、その家のたたずまいにも心を付け、また作法や行儀のよい者があれば、尋ね出して賞美すべきです。これは士民が善に進む道です。また矢倉や櫓に登ったときは、方角をよく見定め、目印をつけておくべきです。夜中に見間違えないためです。一つ、殿中での喧嘩口論などは深く慎むべきです。とりわけ武士の交わりの道は、拳や扇で打ち合うようないさかいもあってはなりません。友人の口論は早く仲裁すべきです。とにかく人中でのふざけや大言は、人にそばえる(まとわりつく)臆病者というのがこれです。また、家にそう敵は火事、身にそう敵は驕り、口にそう敵は多言、気にそう敵は随(ついて回るもの)、思いにそう敵は分外、意にそう敵は私欲、心にそう敵は不知であると心得て、よく退治すべきです。一つ、過ちがあっても苦しくないのは武具、差し出て苦しくないのは一番槍、遅れて苦しくないのは殿(しんがり)と言います。さて、主人の仰せがなくても差し出てよいことが四つあります。一つには掛け絵のゆがんだのを直すこと、二つには蠟燭の芯を切ること、三つには妻戸の掛け金が上がったのを直すこと、四つには粗相(粗末な物)を直すことです。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
『武家拾要記抄録』・善行篇・君に仕える心と、役人の公私の慎み一國君たる人は、國家の風俗治亂の機、存亡得失をかんがみ給ふべし、家老物頭たる者、藝能に他念なく精を入る時は、かならず萬事怠るものなり、終日終夜孝子の心をもちて君につかふまつるべし、役人奉行たるものは、小利を見て大利を忘るゝ事なかれ、食物に其身をわするゝなかれとぞ、尤家中の音物など一切受納すべからず、町人百姓の賄賂はいふに及ばざるもの歟、但三箇の赦免とは、知らずして過ちしたる、又其分に相應せざるあやまち、又前の忠に對してのあやまち也、是等の過は別義赦免と名づけ、許免せらるべし、一合戰の砌、敵の捨置たる道具を拾ひとらざるやうに申付べし、但幕旗其外大切の物などは各別たるべし、又戰塲にをゐて頭分の人は、父子一所に集りゐる事なかれ、但時宜にもよるべし、尤公儀より定めの外小屋がけ一切すべからず、朝暮の起臥は定めの太皷次第たるべし、貝鐘にても同前、惣じて陣中へ、女を一人もめしつるべからず、酒宴遊興すべからず、然れども永陣の時節は、大將御こゝろをつけられ、酒をも給はり、諸卒の心をなぐさめ給ふべし、
-
『武家拾要記抄録』・善行篇・敵方への対応と、一人の剛が衆を導く一敵方より音物等を贈りこしたる時は、其子細を早速言上すべし、敵方より箭文を射こしたる時も、私に披見すべからず、やがて當番の目付組頭まで注進すべし、敵方より回忠の者ある時は、異義なく披露すべし、敵方より使者來らば、當番の組頭ども寄合對面すべし、又矢文を射る相圖は、鐵炮の大筒を一放ち、其跡に射出すべし、認めやうは走羽の下、羽中の節につくる也、あるひは矢柄の中へしたゝめ入ることもあるべし、一鬼神物怪の沙汰、一切是を禁ずべし、味方の惡事いふべからず、敵の小功を揚べからず、但總じて何事も例にだがひたる事あらば、心をつくべし、男物思ふ時は仰き、女物おもふ時は俯くものなり、一一人の至剛に、衆士ひかれて大利を得る事、雲井を渡る雁の、一鳥の翅をなびかすを見て、衆鳥これにしたがふが如くなるべし、甲斐の信玄には、靑貝の衆とて旗本に鎗武者一組連られたり、越後の謙信には、念佛の衆とて、先懸の死武者一組つれられしとなり、
-
『武家拾要記抄録』・善行篇・陣中の用意と、堪忍・礼儀の心得一著陣の時、まづ組頭のもとへいたり、法度制禁を聞べし、次に他家の小屋塲、敵地の足塲などをたづね、方角遠近をかんがへ、晝夜まぎれなく、目じるしゝて歸るべし、みだりに私の見物に出る事は法外也、夜は下々の者を小屋のおくに寢させ、われはさし口にあるべし、惣じて下々の者と馬には、食物によく心をつくべし、尤公儀の定めの外にも用意すべし、一深く物見して歸る時、敵の方より惡口すとも、己が耻を雪めん事をのみ思ひて忠義の旨をわするべからず、凡陣中にをゐて、若堪忍しがたき事出來りなば頭横目までことはり、事すみてのちに遺恨をはらすべし、只武道は寢ても寤ても、忠節の志をはげむ事專要たり、其身をわするゝは君を思はざるゆへ也、古人のいはく、胯下の耻は小辱也、漢の功をなすは大功也と、一國替所がへのおりふし、をのれが住たる宿をあらさず、おなじくは疊のおもてをあらため、壁のうはぬりをもし、障子をはりかへてわたすほどにするは、さふらひのたしなみ也、又常におもひよりなき方より、是式をうけたる時はやがて返禮すべし、請べき子細なくては、少の物もうく〱べからず、又へつらひて他へ物を贈るべからず、
-
『武家拾要記抄録』・嘉言篇・忠功への賞と、無用の贅の戒め一軍中にをゐて、小事の儀に感ずる事多き時は、必武勇のたしなみせはしくなるものなり、但他人の忠をそねみ、あやうき塲を見放つべからず、たがひに力を合すべし、且總大將の掟の外、頭々のわたくしの法式出すべからず、もつともあやうき塲に臨みての下知は各別たるべし、又忠節忠功は大小に限らず、下々たりとも急度御褒美あるべし、しかるを私におほひ隱す輩は重罪たるべし、又組子ども忠功のふるまひありとても、聊贔負の事あるべからず、一貴賤とも分量の外に、鐵砲の玉藥支度する事は忠節の其一たるべし、但金拵の刀脇指並金銀の鍔、熨斗附の鞘、鎗の上下の金具、其外武具馬具等、いづれも金銀をちりばめ造りなす事は無用歟、
-
『武家拾要記抄録』・敬身篇・短気を戒め、悪名を超えて善に向かう一無用の手詰の論は、わざはひのなかだち、上手の人の好まぬ事也、或人の云、かさつは臆病の花、短氣は未練の相、氣遣ひは分別のいろは、堪忍は忠孝のはじめ、心懸は手柄の基也、心操ある士は、毎度のてがらをもわすれ、常に慎みて譽をとる也、尤戰場にて乘まじき馬は、第一物おどろきさする馬、臆病なる馬、さては手に過たる馬也、物まへにて馬の進むるを留る躰見ぐるしきゆへ、片手綱にても自由なる馬を用ゆべし、惣じて大なる馬は乘下にあしく、胴の短き馬は野山をよく走り、頭高く胴の長き馬は、海川をよく游ぐ、さて芦毛駁馬雪白など、陣中へはきらふ、一我は譜代久き忠行の者なれども、御加増をも給はらずといふ人あり、代々久く厚恩を蒙る君なれば、一入忠節を勵むべき事也、凡人一たび惡名をうくるとも、後に佳名を得る人は、益善人と思ふべし、その故は過をあらため、よのつねの人に十倍して宜しからずは、其名あるまじ、
-
『武家拾要記抄録』・嘉言篇・臆病を戒め、平時の見習いと軍法一臆病に貼べき藥なしといへども、恩に死し義に死し、威に死し恨みに死し利に死す、皆是命の輕き所也、惣じて諸奉公人に懇ゝ申聞すべきは、君の御扶持をうけながら、忠功のこゝろがけもなく、かへつて己が意にまかせ、軍法を背き、或はをのれが血氣に任せ、頭奉行の下知を用ひざる者は、不義無道の第一臆病の頂上なれば、逆心同意なるのよしよく申ふくむべし、靜謐の時より萬事軍法の定め、古參新參の諸士に知らせ置べし、其外かりそめの川普請或は鷹野鹿狩のおりふしにも、人數の多少懸引の行跡をも見ならひ、近邊の足場道筋さかひめ、深山柚山谷川森林などにいたるまで心をつけ、あるひは馬にて出たる時は、川堀□畔なども乘習ひ、又は正月の左毬打五月の紙幟までも、馬に見ならはせ置べし、一平侍の、物頭物奉行の下知に就とつかぬとを、主君たる人の見給ふべきには、鷹野鹿狩のおりふし心をつけらるべし、其外諸士の才智を見給ふべきには、同じ事を幾度も尋ね給ふべし、又家中の諸士各存寄の義は、何時によらず、書付をもつて言上致さしむべし、諸士歩行下部まで、君の領分の外に妻子を置ざるやうにすべし、