武家拾要記抄録 / 嘉言篇・臆病を戒め、平時の見習いと軍法
一臆病に貼べき藥なしといへども、恩に死し義に死し、威に死し恨みに死し利に死す、皆是命の輕き所也、惣じて諸奉公人に懇ゝ申聞すべきは、君の御扶持をうけながら、忠功のこゝろがけもなく、かへつて己が意にまかせ、軍法を背き、或はをのれが血氣に任せ、頭奉行の下知を用ひざる者は、不義無道の第一臆病の頂上なれば、逆心同意なるのよしよく申ふくむべし、靜謐の時より萬事軍法の定め、古參新參の諸士に知らせ置べし、其外かりそめの川普請或は鷹野鹿狩のおりふしにも、人數の多少懸引の行跡をも見ならひ、近邊の足場道筋さかひめ、深山柚山谷川森林などにいたるまで心をつけ、あるひは馬にて出たる時は、川堀□畔なども乘習ひ、又は正月の左毬打五月の紙幟までも、馬に見ならはせ置べし、一平侍の、物頭物奉行の下知に就とつかぬとを、主君たる人の見給ふべきには、鷹野鹿狩のおりふし心をつけらるべし、其外諸士の才智を見給ふべきには、同じ事を幾度も尋ね給ふべし、又家中の諸士各存寄の義は、何時によらず、書付をもつて言上致さしむべし、諸士歩行下部まで、君の領分の外に妻子を置ざるやうにすべし、
新字:一臆病に貼べき薬なしといへども、恩に死し義に死し、威に死し恨みに死し利に死す、皆是命の軽き所也、惣じて諸奉公人に懇ゝ申聞すべきは、君の御扶持をうけながら、忠功のこゝろがけもなく、かへつて己が意にまかせ、軍法を背き、或はをのれが血気に任せ、頭奉行の下知を用ひざる者は、不義無道の第一臆病の頂上なれば、逆心同意なるのよしよく申ふくむべし、静謐の時より万事軍法の定め、古参新参の諸士に知らせ置べし、其外かりそめの川普請或は鷹野鹿狩のおりふしにも、人数の多少懸引の行跡をも見ならひ、近辺の足場道筋さかひめ、深山柚山谷川森林などにいたるまで心をつけ、あるひは馬にて出たる時は、川堀□畔なども乗習ひ、又は正月の左毬打五月の紙幟までも、馬に見ならはせ置べし、一平侍の、物頭物奉行の下知に就とつかぬとを、主君たる人の見給ふべきには、鷹野鹿狩のおりふし心をつけらるべし、其外諸士の才智を見給ふべきには、同じ事を幾度も尋ね給ふべし、又家中の諸士各存寄の義は、何時によらず、書付をもつて言上致さしむべし、諸士歩行下部まで、君の領分の外に妻子を置ざるやうにすべし、
書き下し
一臆病に貼べき藥なしといへども、恩に死し義に死し、威に死し恨みに死し利に死す、皆是命の輕き所也、惣じて諸奉公人に懇ゝ申聞すべきは、君の御扶持をうけながら、忠功のこゝろがけもなく、かへつて己が意にまかせ、軍法を背き、或はをのれが血氣に任せ、頭奉行の下知を用ひざる者は、不義無道の第一臆病の頂上なれば、逆心同意なるのよしよく申ふくむべし、靜謐の時より萬事軍法の定め、古參新參の諸士に知らせ置べし、其外かりそめの川普請或は鷹野鹿狩のおりふしにも、人數の多少懸引の行跡をも見ならひ、近邊の足場道筋さかひめ、深山柚山谷川森林などにいたるまで心をつけ、あるひは馬にて出たる時は、川堀□畔なども乘習ひ、又は正月の左毬打五月の紙幟までも、馬に見ならはせ置べし、一平侍の、物頭物奉行の下知に就とつかぬとを、主君たる人の見給ふべきには、鷹野鹿狩のおりふし心をつけらるべし、其外諸士の才智を見給ふべきには、同じ事を幾度も尋ね給ふべし、又家中の諸士各存寄の義は、何時によらず、書付をもつて言上致さしむべし、諸士歩行下部まで、君の領分の外に妻子を置ざるやうにすべし、
現代語訳
一つ、臆病に貼る薬はないと言いますが、恩に死に、義に死に、威に死に、恨みに死に、利に死ぬのは、みな命を軽んじるところです。総じて、諸奉公人に丁寧に言い聞かせるべきことは、主君の扶持を受けながら、忠功の心がけもなく、かえって自分の意のままに軍法に背き、あるいは自分の血気に任せて、頭や奉行の指図を用いない者は、不義無道の第一、臆病の頂上であり、逆心に同意するものであると、よくよく言い含めるべきです。平穏なときから、すべて軍法の定めを、古参・新参の諸士に知らせておくべきです。そのほか、ちょっとした川普請、あるいは鷹狩り・鹿狩りのおりにも、人数の多少、駆け引きの行跡を見習い、近辺の足場、道筋、境目、深山、柚山、谷川、森林に至るまで心をつけ、あるいは馬で出たときは、川、堀、(底本で判読できない字)、畔なども乗り習い、あるいは正月の左毬打、五月の紙幟までも、馬に見習わせておくべきです。一つ、平侍が、物頭や物奉行の指図に従うか従わないかを、主君たる人が見るには、鷹狩り・鹿狩りのおりに心をつけられるべきです。そのほか、諸士の才智を見るには、同じことを何度も尋ねられるべきです。また、家中の諸士の各自の考えは、いつでも、書付をもって言上させるべきです。諸士、歩行、下部に至るまで、君の領分の外に妻子を置かないようにすべきです。
解説

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