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武家拾要記抄録 / 嘉言篇・荒らしの戒めと、先陣を動かす気

一敵國に入ては、春は麥をふみちらし、夏は苗をぬき、秋は刈田をあらし、民屋を燒拂ひ、みだりに橋を刎落し、船を燒のたぐひ、たとひ一日利を得るといふとも遠慮あるべし、又人類二行に押時、ひとつ橋あるの時は、左より一人右より一人づゝ、入まじりてわたすべし、凡備の騷動は法令正しからぬゆへ也、士卒の懈る氣あるは、將の勇なきゆへ也、皆是氣を轉じきざしを審かにするにあり、又足輕といふものは、何時も諸兵の先にすゝむ事定法なるによつて、必うしろを心もとなく思ふもの也、故に其氣を奪ひ其勢ひを含ましめ、心にうたがひなきやうに下知すべし、足輕をくるゝこゝろありて鐵炮打時は、皆越矢となる、其氣をよく轉ぜしむるは足輕大將の心得也、

新字:一敵国に入ては、春は麦をふみちらし、夏は苗をぬき、秋は刈田をあらし、民屋を焼払ひ、みだりに橋を刎落し、船を焼のたぐひ、たとひ一日利を得るといふとも遠慮あるべし、又人類二行に押時、ひとつ橋あるの時は、左より一人右より一人づゝ、入まじりてわたすべし、凡備の騷動は法令正しからぬゆへ也、士卒の懈る気あるは、将の勇なきゆへ也、皆是気を転じきざしを審かにするにあり、又足軽といふものは、何時も諸兵の先にすゝむ事定法なるによつて、必うしろを心もとなく思ふもの也、故に其気を奪ひ其勢ひを含ましめ、心にうたがひなきやうに下知すべし、足軽をくるゝこゝろありて鉄炮打時は、皆越矢となる、其気をよく転ぜしむるは足軽大将の心得也、

書き下し

一敵國に入ては、春は麥をふみちらし、夏は苗をぬき、秋は刈田をあらし、民屋を燒拂ひ、みだりに橋を刎落し、船を燒のたぐひ、たとひ一日利を得るといふとも遠慮あるべし、又人類二行に押時、ひとつ橋あるの時は、左より一人右より一人づゝ、入まじりてわたすべし、凡備の騷動は法令正しからぬゆへ也、士卒の懈る氣あるは、將の勇なきゆへ也、皆是氣を轉じきざしを審かにするにあり、又足輕といふものは、何時も諸兵の先にすゝむ事定法なるによつて、必うしろを心もとなく思ふもの也、故に其氣を奪ひ其勢ひを含ましめ、心にうたがひなきやうに下知すべし、足輕をくるゝこゝろありて鐵炮打時は、皆越矢となる、其氣をよく轉ぜしむるは足輕大將の心得也、

現代語訳

一つ、敵国に入っては、春は麦を踏み散らし、夏は苗を抜き、秋は刈り田を荒らし、民家を焼き払い、みだりに橋を落とし、船を焼くといった類は、たとえ一日の利を得ても、遠い先々への考えをめぐらすべきです。また、人数が二列で押すときに、ひとつ橋があるときは、左から一人、右から一人ずつ入り交じって渡らせるべきです。おおよそ備えが騒ぎ乱れるのは、法令が正しくないからです。士卒が怠ける気配があるのは、将に勇がないからです。すべては気を転じ、きざしを詳しく見ることにあります。また足軽というものは、いつも諸兵の先に進むのが定めなので、必ず後ろを心もとなく思うものです。ゆえに、その気を奪い、その勢いを含ませ、心に疑いがないように指図すべきです。足軽に後れる心があって鉄砲を撃つときは、みな越矢(的を越える射)になります。その気をよく転じさせるのは、足軽大将の心得です。

解説

敵地での略奪や破壊は、一日の得があっても先々を考えて慎めと戒めます。また、先頭に立つ足軽は後ろが心もとないものなので、疑いを持たせない指図で気を支えるのが指揮する者の心得だとします。組織が乱れるのは法令が整っていないから、怠けるのは将に勇がないからという見方も示されます。現代では、目先の成果のために長期の信頼を損なう手を避けること、そして最前線で動く担当者に後ろ盾への安心感を持たせる指示を出すことが、管理職に求められます。
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この章句が説くこと

『武家拾要記抄録』山本屠竜軒嘉言篇長期視点前線指示

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