武家須知 / 武で取っても、治めるのは文
ある人いはく、國郡主、その先祖武功にて、國郡主となり玉ふゆへ、治めるも武をおもにすべしと、此說あやまれり、武にて取たるとて、武にて治むべきといふは、たとへば、金銀にて田畑を買取たる人が、金銀あればこそ此田畑の主となりたれとて、田畑作る道具はこしらへずして、只彌金銀を貴むが如し、武にてとりても、治るは文なるべし、
新字:ある人いはく、国郡主、その先祖武功にて、国郡主となり玉ふゆへ、治めるも武をおもにすべしと、此説あやまれり、武にて取たるとて、武にて治むべきといふは、たとへば、金銀にて田畑を買取たる人が、金銀あればこそ此田畑の主となりたれとて、田畑作る道具はこしらへずして、只弥金銀を貴むが如し、武にてとりても、治るは文なるべし、
書き下し
ある人いはく、國郡主、その先祖武功にて、國郡主となり玉ふゆへ、治めるも武をおもにすべしと、此說あやまれり、武にて取たるとて、武にて治むべきといふは、たとへば、金銀にて田畑を買取たる人が、金銀あればこそ此田畑の主となりたれとて、田畑作る道具はこしらへずして、只彌金銀を貴むが如し、武にてとりても、治るは文なるべし、
現代語訳
ある人が言うには、国郡主は、その先祖が武功によって国郡主となられたのだから、治めるのも武を主とするべきだと。この説は誤りです。武で取ったからといって武で治めるべきだというのは、たとえば、金銀で田畑を買い取った人が、金銀があればこそこの田畑の主となったのだと言って、田畑を作る道具は用意せず、ただますます金銀を貴ぶようなものです。武で取っても、治めるのは文であるべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武家須知』・乱を鎮めるは武、世を治めるは文又いはく、我國は神代より、武にて治む、我國は武國、もろこしは文國なりと、是又あやまれり、我國も唐土も、亂をしづめるときは武を主とし、世を治めるは文を主とす、我國のはじまり、王化にしたがはぬ人ありしゆへ、武を專ら用られ、それに付武のとゝのひたるを甚ほめ玉ふ言葉もあれど、武計りにて治められたる事さらに見へず、かゝる所を心得たがへ、足利以來戰國打續き、文を離しめて義を失ひ、武計りをたつとみて國を貪りたる人多かりし、此時の風儀を聞き、古よりかゝる國ぞと心得たるなるべし、又我國の人は、武氣自然と盛んなれば、武ばかりたつとむべしといふ說有り、武氣盛んなる國ならば猶更文學を尊み、文武を揃へたるこそよろしかるべき、さかんなる武氣ばかりをそだつべき理なし、
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『武家須知』・国主・郡主の職分は領内を治め教えること國主、郡主は、一國一郡を申受て其領内を治め敎る職分なり、但昔其先祖は武將計りの家也、武將とは武士計りの頭をいふ、其昔武將計りの家なりし時は、武用計りが職分にて、國を治め人を敎るは、京都より國司と云官人下り、此人これをつとめたれども、近世はすぐに、武將に其國郡を給はり、是を國主郡主といふ、故そのむかし久しく、代々武將となりたる家なれば、やはり武家とはとなへれども、今國主郡主となりては、國司と武將との兩職をかね玉ひ、武士計りの頭にあらず、其國の政がさしあたり第一のおもき職分にて、武計りの職にてはなきかとおもはる、
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『武家須知』・武家と武士の別、文武を兼ねる職分凡そ、拙者に學ばるゝ、武門の衆、第一にとくと、心得らるべき事あり、先づ武門の衆の内に、我は武家なる故に、武將ぞ武士ぞと計りおもひ、いくさにまけぬ心懸さへあれば、是にて、我職分はすむと心得、それゆへ、上に立方も一分の武事の薄きを恥、家中の武事を世話あれども、學問をば、儒者計りの家業ぞと思ひ、國主、郡主、諸士の學問は、たしなみに少し覺ればすむ事と心得、子息兄弟一族家中の學問に精を出すか出さぬかとの吟味はなく、まして、學びかたよき樣にとのせわもあらず、學問うすきを、馬のるすべわるき程には恥かしくおもひ玉はぬ方あるは、甚心得がたき事にて、是第一は主將士、武士のさかひ、はきと辨へなきゆへかと、今先その境ひを、示すこと左の如し、國主、郡主の上に立、天下を治ると敎るを司り玉ひ、大臣、大將、學問所の別當もかね任じおはします御身は、本より將軍職なれば、天下の武士をもすべ玉ふ御事なれども、武計りの御職にあらず、文武をかねたる御職分かとおもはる、
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『武家須知』・上に立つ者は政事と学問を第一の家職とせよ此道理もつともとおもひ玉はゞ、上にたつ人は、我は國主ぞ郡主ぞと心得て、政事を第一の家職と心得、學問を第一の家業と心得玉へかし、武もゝとより家職家業なれども、是計りと心得玉ふべからず、學問たらずして、政のかけあるを武勇かけたる通に恥かしくおもはぬはあやまりぞ、四書五經を甲冑程に大切に思はぬは、誤ぞと心得玉ふべし、隙なき内にもよき師を招き、たへず學び玉へかし、政正しく道理明なるは武の根本なり、上に立つ人の武は、根本を第一にたつとみ、采配をむねとすべき事にて、手わざすぐれぬとてさして恥辱にあらず、子息がたへは、第一學問あるもりをつけ、よき師をたつとませ、諸役人は勿論家中領分の下ゞへ迄も、筋よき學問を第一にすゝめ、其國に學校を取立て、よき師を招き學問する人に講釋をもさせてきゝ、了簡をもいはせてきゝ、よくつとめるを稱美し玉へかし、又學びかたよくおこたりなき樣に心をつけ、よからぬならはしにまかせらるべからず、
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『武家須知』・学問は家職の元立ち、学校で広める既に勸學にものべたる通、身を修めるは、上々より下々まで根本の所にて、其身を修る本たてば學問なり、ことに家國を治め政事をよくするは、學問なくては叶はず、亂をふせぎ敵を亡すに、武藝なくては叶はぬと同じ、生れ付の智慧計りにて、政よくし忠つくすべきと思ふは、武藝を知らずして敵に勝事を願ふにおなじ、學問を國に廣るは、學校なくては行屆かず、細工する場を搾ずして作事をするに同じ、然れば、學問は、國主、郡主、諸士の家職のもと立なり、今の武門の家業なり、第一につとむべき事うたがひなし、それをかく心得玉はぬ方あるは、國主、郡主になり居るといふところに、はきと氣付なく、諸奉公人も、今は文武をかねて居る所、はきとすますはづと心付ても、武家といふ名になづみ、又先祖より年久しく武計りを家としたる、餘風にて、何となく政事をかるくこゝろへ、それよりして、又武藝計りを急務とおもひ、政の本となる此學問を、家業と心得玉はぬ方あるは、心うきことなり、
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『武家須知』・武役ばかりの身も学問に油断するな諸士の役人にもすゝまるゝ方は、たとへ上より敎うすくとも、自分と心がけ學問をおもに勵み、我身わが家をおさめ、公用邪なく取あつかはれる身になるべきと心がけ、子孫をもおしへ、そのすきには尤武藝も心がけてよし、武藝を學ぶも品多し、學ぶ上の前後輕重、學び方も是非あるべし、武役ばかりの家は武藝を第一とし、是は書のよめぬよりは、武勇薄きを恥べし、されども、學問なく武の根本すばらず、利欲にまなこくらみ、忠義仕違へ出來ては、武藝有ても用に立がたし、ことさら器量ある身は、國政を助る職にのぼる事もあるべく、其上天下に道おとろへたる世には、百姓町人さへも此學を勵みこの道を任すべき理なれば、まして武役ばかりの身とても、學問に油斷あるべからず、上たる人よく心得玉へかし、下たる人もよく心得べし、さなくては、大神君の御敎に背き、當時の 御命令を、かろしむるなり、もとより聖人の御心にたがひ、天道にさかろふ、恐れざるべけんや、つゝしまさるべけんや、

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