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武事提要 / 練武之大意・善を選ぶ道と悪を改めさせる慈愛

次に善を撰に道あるべき事也、心入惡して善を撰ぶ事は言不及、衆人是を善と云とも、是を善と定がたし、衆人賞之美質あり、美質は人の用に不達、賢者是を賞せば善と可知也、古來より一鄕の善も善たらず、一鄕中の善者賞するを善と云が如し、其道ある人、其功者其才知ある方の言之ところを的當と云べき事なり、次に惡を退るに又其品あるべし、其仕置に道有之、惡も善とひるがへること多し、善にうつるやうにしかけ、何とぞ善に入るもの多きを奉行頭人の手柄と稱すべし、如此なすといへども、惡意惡行一圓にあらたまらざる者有之、安住の塲へ取を替役も有之、其役へ移といへども、益不宜ものには一人の罪にあらざる也、萬人の指處なり、是は罪に落入ても天下の罪人たるなり、勿論惡なりて俄に罪に不入、大方は善く翻どくして、指當其惡をあらはさゞるを將の慈愛と云べし、第三習練を專とすべし、平世士卒のならし專用なり、依之習練を專とすることなり、習練の實は主君の思入を下へしらせ、頭奉行の重役たる事を上へも思慮せしめ、下へもひゞく事也、平士は常變ともに勤所をしらせしむる事也、

新字:次に善を撰に道あるべき事也、心入悪して善を撰ぶ事は言不及、衆人是を善と云とも、是を善と定がたし、衆人賞之美質あり、美質は人の用に不達、賢者是を賞せば善と可知也、古来より一郷の善も善たらず、一郷中の善者賞するを善と云が如し、其道ある人、其功者其才知ある方の言之ところを的当と云べき事なり、次に悪を退るに又其品あるべし、其仕置に道有之、悪も善とひるがへること多し、善にうつるやうにしかけ、何とぞ善に入るもの多きを奉行頭人の手柄と称すべし、如此なすといへども、悪意悪行一円にあらたまらざる者有之、安住の塲へ取を替役も有之、其役へ移といへども、益不宜ものには一人の罪にあらざる也、万人の指処なり、是は罪に落入ても天下の罪人たるなり、勿論悪なりて俄に罪に不入、大方は善く翻どくして、指当其悪をあらはさゞるを将の慈愛と云べし、第三習練を専とすべし、平世士卒のならし専用なり、依之習練を専とすることなり、習練の実は主君の思入を下へしらせ、頭奉行の重役たる事を上へも思慮せしめ、下へもひゞく事也、平士は常変ともに勤所をしらせしむる事也、

書き下し

次に善を撰に道あるべき事也、心入惡して善を撰ぶ事は言不及、衆人是を善と云とも、是を善と定がたし、衆人賞之美質あり、美質は人の用に不達、賢者是を賞せば善と可知也、古來より一鄕の善も善たらず、一鄕中の善者賞するを善と云が如し、其道ある人、其功者其才知ある方の言之ところを的當と云べき事なり、次に惡を退るに又其品あるべし、其仕置に道有之、惡も善とひるがへること多し、善にうつるやうにしかけ、何とぞ善に入るもの多きを奉行頭人の手柄と稱すべし、如此なすといへども、惡意惡行一圓にあらたまらざる者有之、安住の塲へ取を替役も有之、其役へ移といへども、益不宜ものには一人の罪にあらざる也、萬人の指處なり、是は罪に落入ても天下の罪人たるなり、勿論惡なりて俄に罪に不入、大方は善く翻どくして、指當其惡をあらはさゞるを將の慈愛と云べし、第三習練を專とすべし、平世士卒のならし專用なり、依之習練を專とすることなり、習練の實は主君の思入を下へしらせ、頭奉行の重役たる事を上へも思慮せしめ、下へもひゞく事也、平士は常變ともに勤所をしらせしむる事也、

現代語訳

次に、善を選ぶには道があるべきです。心入れが悪くて善を選ぶことは言うに及ばず、衆人がこれを善と言っても、そうと定めるのは難しいのです。衆人が賞する美質があっても、美質は人の用に達しません。賢者がこれを賞すれば善と知るべきです。古来、一郷の善も善とせず、一郷中の善者が賞するのを善というようなものです。その道のある人、その功者、その才知のある方の言うところを的当というべきです。次に、悪を退けるにもその品があるべきです。その仕置に道があり、悪も善にひるがえることが多いのです。善に移るように仕向け、なんとか善に入る者が多いことを奉行・頭人の手柄と称すべきです。このようにしても、悪意・悪行がまったく改まらない者があり、安住の場へ取り替える役もあり、その役へ移っても、ますますよくない者には、一人の罪ではなく万人の指す所です。これは罪に落ち入れば天下の罪人です。もちろん、悪になって急に罪に入れず、大方はよく善へ翻し、さしあたりその悪をあらわにしないことを、将の慈愛というべきです。第三は習練を専らとすべきです。平世に士卒を慣らすことを専用とします。そのため習練を専らとするのです。習練の実は、主君の思い入れを下へ知らせ、頭・奉行の重役であることを上へも思慮させ、下へも響くようにすることです。平士には常変ともに勤める所を知らせることです。

解説

善を選ぶには、多くの人がほめるだけでは足りず、その道に通じた賢者が認めるかを基準にせよと述べます。悪を退ける場合も、すぐ罰するのではなく、善に向かうよう仕向けて改めさせることを上に立つ者の手柄とします。現代の管理職も、評判だけで人を判断せず、専門性のある人の見立てを聞くこと、問題のある部下にはまず改善の機会をつくることが、組織の力を守ることにつながります。最後に挙げる平時の習練へと話は続きます。
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この章句が説くこと

武事提要山鹿高恒善を選ぶ評価基準悪を改める育成

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