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武学拾粋抄録 / 武士之起本・武士の起こりと律令・兵制のはじまり

夫武士の起本を尋ぬるに、神武天皇日向國宮崎より勃興在て草昧を開創し、地を東方に略し長髓彦を誅伐し、大和國橿原に都を定め給ひ禁衞を置かれたるに始まりぬ、禁兵を二つに分ち道臣命宇麻志摩治命に司らしむ、道臣命の司る兵を來目部と云ひ、宇麻志摩治命の司る兵を物部と云ふ、來目部は代々を經て衰へ、物部のみ繁昌し朝家の干城たり、後に物部の八十氏人と云是也、斯て人皇四十餘代までは兵の募敎も國史に定かならねど、四十四代 元正天皇養老年中藤原不比等勅を奉り唐の六典に本づき律令を撰定す、是より朝廷の紀綱制度大に備はり後世の準繩たり、實に藤原氏の功偉なりと謂ふべし、淡海公に追贈有り、今に至りて攝關の重職を世々にしたまふこと豈其餘慶にあらずや、其後瑣細の改革有りと云へども大法聊も違はず、兵士の養募も坐して辨ずべし、是より後朝廷には唯近衞兵衞衞門六軍の衞士、及隼人瀧口內舍人帶刀の屬僅に二三千に過ぎず、外衞も亦太宰府鎭守府秋田城に軍兵を屯させ、征伐有る時は農民の勇壯なる者を召募りて兵に充られ、事無き時は農に歸す、

新字:夫武士の起本を尋ぬるに、神武天皇日向国宮崎より勃興在て草昧を開創し、地を東方に略し長髄彦を誅伐し、大和国橿原に都を定め給ひ禁衛を置かれたるに始まりぬ、禁兵を二つに分ち道臣命宇麻志摩治命に司らしむ、道臣命の司る兵を来目部と云ひ、宇麻志摩治命の司る兵を物部と云ふ、来目部は代々を経て衰へ、物部のみ繁昌し朝家の干城たり、後に物部の八十氏人と云是也、斯て人皇四十余代までは兵の募教も国史に定かならねど、四十四代 元正天皇養老年中藤原不比等勅を奉り唐の六典に本づき律令を撰定す、是より朝廷の紀綱制度大に備はり後世の準縄たり、実に藤原氏の功偉なりと謂ふべし、淡海公に追贈有り、今に至りて摂関の重職を世々にしたまふこと豈其余慶にあらずや、其後瑣細の改革有りと云へども大法聊も違はず、兵士の養募も坐して弁ずべし、是より後朝廷には唯近衛兵衛衛門六軍の衛士、及隼人滝口内舎人帯刀の属僅に二三千に過ぎず、外衛も亦太宰府鎮守府秋田城に軍兵を屯させ、征伐有る時は農民の勇壮なる者を召募りて兵に充られ、事無き時は農に帰す、

書き下し

夫武士の起本を尋ぬるに、神武天皇日向國宮崎より勃興在て草昧を開創し、地を東方に略し長髓彦を誅伐し、大和國橿原に都を定め給ひ禁衞を置かれたるに始まりぬ、禁兵を二つに分ち道臣命宇麻志摩治命に司らしむ、道臣命の司る兵を來目部と云ひ、宇麻志摩治命の司る兵を物部と云ふ、來目部は代々を經て衰へ、物部のみ繁昌し朝家の干城たり、後に物部の八十氏人と云是也、斯て人皇四十餘代までは兵の募敎も國史に定かならねど、四十四代 元正天皇養老年中藤原不比等勅を奉り唐の六典に本づき律令を撰定す、是より朝廷の紀綱制度大に備はり後世の準繩たり、實に藤原氏の功偉なりと謂ふべし、淡海公に追贈有り、今に至りて攝關の重職を世々にしたまふこと豈其餘慶にあらずや、其後瑣細の改革有りと云へども大法聊も違はず、兵士の養募も坐して辨ずべし、是より後朝廷には唯近衞兵衞衞門六軍の衞士、及隼人瀧口內舍人帶刀の屬僅に二三千に過ぎず、外衞も亦太宰府鎭守府秋田城に軍兵を屯させ、征伐有る時は農民の勇壯なる者を召募りて兵に充られ、事無き時は農に歸す、

現代語訳

そもそも武士の起こりを尋ねますと、神武天皇が日向国の宮崎から興って未開の世を切り開き、東の方に地を攻め取り、長髄彦を誅伐し、大和国橿原に都を定めて禁衛(宮中の護衛)を置かれたことに始まります。禁兵を二つに分け、道臣命と宇麻志摩治命に司らせました。道臣命が司る兵を来目部といい、宇麻志摩治命が司る兵を物部といいます。来目部は代を経て衰え、物部だけが栄えて朝廷の守りとなりました。後に物部の八十氏人というのがこれです。こうして人皇四十余代までは、兵を募り教えることも国史にはっきりしませんが、四十四代の元正天皇の養老年間、藤原不比等が勅を奉じて唐の六典に基づき律令を撰定しました。これ以後、朝廷の紀綱と制度は大いに整い、後世の基準となりました。まことに藤原氏の功は偉大というべきです。淡海公(不比等)に追贈があり、今に至るまで代々摂関の重職にあられるのは、その余慶ではないでしょうか。その後こまごまとした改革はあっても大法は少しも違わず、兵士の養成と募集も座ったままで処理できました。これより後、朝廷には近衛・兵衛・衛門の六軍の衛士、および隼人・滝口・内舎人・帯刀の属がわずか二、三千にすぎず、外では太宰府・鎮守府・秋田城に軍兵を駐屯させ、征伐があるときは農民の勇壮な者を募って兵に充て、事がなければ農に帰らせました。

解説

この章句は、武士の起こりを神武天皇の禁衛に求め、養老年間に藤原不比等が唐の制度に基づき律令を整えたことで、兵士の養成と募集の仕組みが定まったと述べます。出来事の詳細は原文の語るところに従うほかありませんが、読み取れるのは、規則や制度が整うと運営が座ったままでも回るという点です。現代の管理職も、人の能力に頼るだけでなく、役割と手順を文書にして整えれば、チームは安定します。仕組みを作ることは、リーダーの大切な務めです。
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この章句が説くこと

『武学拾粋抄録』星野葛山武士の起源律令藤原不比等物部

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