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武学啓蒙 / 論・赤心の境地は毀誉に動じない

皆しんじつなれば、平生武事の、たんれんより、君臣の大義に至り、一定して、變ぜず、如此ならざれば、人にあらずと、訣し、更に他にゆく、妄念妄動なし、故に渇しても、盜泉の水には、心なく、熱しても、惡木の蔭には、よらざる、鐵心腸、是を天地に照して、後ろぐらきことなく、是を己れの靈府に、たゞして、いなむところなき、赤心報國の境界と、なれば、たとひ、大賢、小賢、大義、小義の異なるありとも、畢竟、是は、人よりして、みなす所の、かわれるにて、我心の、皎々たる忠誠の一途、神明と、直を爭ひ、乾坤と、淸を爭ふ、場ありて、世の毀譽好惡に、拘わらず、進むべきは、一足も、ひかず、屈すまじきは、筋骨を、ぬかるゝとも、屈せず、治世の用、亂世の勳、死せるも、生るも、忠義のためにする、士の大業を、なし得ることなり、元來、此直と、淸との二つ、天地、神明の德に、似ることあれば、其性質の、小大、幸、不幸の深淺、少しく、こゝに取りし、窮士の、あわれなる志、大に、こゝに、とりし、達せる人の潔き行ひ、たとひ、偏執、能辯の讒者、一時、力を、きわめて、あしく、いひけすとも、どこともなく、芳名の、永久に、つたわるは、皆、このものなりと、知るべし、

新字:皆しんじつなれば、平生武事の、たんれんより、君臣の大義に至り、一定して、変ぜず、如此ならざれば、人にあらずと、訣し、更に他にゆく、妄念妄動なし、故に渇しても、盗泉の水には、心なく、熱しても、悪木の蔭には、よらざる、鉄心腸、是を天地に照して、後ろぐらきことなく、是を己れの霊府に、たゞして、いなむところなき、赤心報国の境界と、なれば、たとひ、大賢、小賢、大義、小義の異なるありとも、畢竟、是は、人よりして、みなす所の、かわれるにて、我心の、皎々たる忠誠の一途、神明と、直を争ひ、乾坤と、清を争ふ、場ありて、世の毀誉好悪に、拘わらず、進むべきは、一足も、ひかず、屈すまじきは、筋骨を、ぬかるゝとも、屈せず、治世の用、乱世の勲、死せるも、生るも、忠義のためにする、士の大業を、なし得ることなり、元来、此直と、清との二つ、天地、神明の徳に、似ることあれば、其性質の、小大、幸、不幸の深浅、少しく、こゝに取りし、窮士の、あわれなる志、大に、こゝに、とりし、達せる人の潔き行ひ、たとひ、偏執、能弁の讒者、一時、力を、きわめて、あしく、いひけすとも、どこともなく、芳名の、永久に、つたわるは、皆、このものなりと、知るべし、

書き下し

皆しんじつなれば、平生武事の、たんれんより、君臣の大義に至り、一定して、變ぜず、如此ならざれば、人にあらずと、訣し、更に他にゆく、妄念妄動なし、故に渇しても、盜泉の水には、心なく、熱しても、惡木の蔭には、よらざる、鐵心腸、是を天地に照して、後ろぐらきことなく、是を己れの靈府に、たゞして、いなむところなき、赤心報國の境界と、なれば、たとひ、大賢、小賢、大義、小義の異なるありとも、畢竟、是は、人よりして、みなす所の、かわれるにて、我心の、皎々たる忠誠の一途、神明と、直を爭ひ、乾坤と、淸を爭ふ、場ありて、世の毀譽好惡に、拘わらず、進むべきは、一足も、ひかず、屈すまじきは、筋骨を、ぬかるゝとも、屈せず、治世の用、亂世の勳、死せるも、生るも、忠義のためにする、士の大業を、なし得ることなり、元來、此直と、淸との二つ、天地、神明の德に、似ることあれば、其性質の、小大、幸、不幸の深淺、少しく、こゝに取りし、窮士の、あわれなる志、大に、こゝに、とりし、達せる人の潔き行ひ、たとひ、偏執、能辯の讒者、一時、力を、きわめて、あしく、いひけすとも、どこともなく、芳名の、永久に、つたわるは、皆、このものなりと、知るべし、

現代語訳

すべてが真実ですから、平生の武事の鍛錬から君臣の大義に至るまで、一つに定まって変わりません。このようでなければ人ではないと決め、さらに他へ向かう妄念・妄動もありません。だから、渇いても盗泉の水を飲もうとは思わず、暑くても悪木の蔭には寄らない、鉄のような心腸です。これを天地に照らして後ろ暗いことがなく、自分の霊府(心の奥)に正して否むところがない、赤心をもって国に報いる境地となれば、たとえ大賢・小賢、大義・小義の違いがあったとしても、結局それは人がそう見なす見方の違いにすぎません。自分の心は皎々として、忠誠の一途、神明と直を争い、天地と清を争う場があって、世の誉め謗り、好き嫌いにかかわらず、進むべきときは一歩も引かず、屈してはならないときは筋骨を抜かれても屈せず、治世の用にも乱世の勲にもなり、死んでも生きても忠義のためにする、士の大業をなし遂げることができるのです。もともと、この直と清の二つは天地・神明の徳に似ており、その性質の大小、幸・不幸の深さ浅さがあります。ここで少しく取り上げたのは、窮した士のあわれな志、そして大いにここで取り上げたのは、志を遂げた人の潔い行いです。たとえ偏屈で口達者な讒言者が一時力を尽くして悪く言い消したとしても、いつとはなく芳名が永久に伝わるのは、みなこの二つ(直と清)であると知るべきです。

解説

前の章句から続き、嘘のない真実の行いは、日ごろの鍛錬から君臣の大義まで一貫して変わらないと述べます。渇いても盗泉の水は飲まないという故事を引き、天地に照らして後ろ暗くない心を理想とし、世の毀誉に動かされず、進むべきは進み屈してはならないところは屈しないと説きます。さらに、直と清の二つが名を永く伝えると言います。現代の管理職も、評判や社内の風向きに揺れず、公正で清廉な判断を貫くことが、長期的に最も強い信用になります。
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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山赤心清廉盗泉毀誉

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