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武学啓蒙 / 論・弓馬砲術と文字・数学の心得

最も後に、本邦、神代相承の故實より、比岐女の類、確然拔べからざる、明法を受て、始て雲霧をひらき、靑天日月をみる心地せり、其譜を閲するに、鎌倉右大將家も、此ひきめを、授かり玉ひし列なり、鳴呼上古の大道、久く人間に隱晦せしも、盛哉昇平の德、また世に明ならんとす、萬物の復古、思ひ合すること多し、有志の士、國故の、ぎんみあるは、忠孝の道にして、本を忘れざる禮とも云べし、さて、射術品類多し、但今の人謂ふ砲術あれば、他を、またずと、是は、全く場所を知ざる論なり、たとひ何の器、備とも火矢遠矢、さしや術は、すてがたし、わけて、さしや、がゝりと云こと、きはめて、要用の伎なり、必、心を用べし、御また精しく、せずんば、あるべからず、尚古來目部あり、方今の令條にも、弓馬は、武士の樞要、きつと習熟すべきの旨あり、書は學ぶに、たらずなど云ことあれども、もと道をのせ、志を通達する器なれば、後世入木家の説は、ともかくも、ひたすら、文字を知り、筆記に、うとからざるやうにすべし、數學、緊要具と云べし、平立の法までは、必幼年の内、大略を、わきまふべし、是より以往、武備の品々には、たとひ、後の代、邊鄙下賤に出たりとも、其用、あるものは識者に、たより、多くきゝ、廣く學び、例の集成を、なすべし、砲術、諸火器の類、是なり、もつとも、釼槍の、身に帶び、手に握るの常の具、細矛、寶釼の故、あらずとも、釼術、鎗とりの術より、拔刀法、柔術、拳術、いづれも、其手練なくしては、武士と云がたき道理、よくがてんすべし、或曰、子、五藝をいひ、樂に及ばざる、いかんと、予が曰く、上古の大聖、子羽のことあれば、武備に、云べけれども、孔子の玉ふ、樂の、樂たるは、鐘鼓を、いふばかりには、あらずと、何分、容易の論たらず、武門子弟のために、迂なゝ、今、本條與からざるを、幸とし、こゝに、これを、はぶけるなり、

新字:最も後に、本邦、神代相承の故実より、比岐女の類、確然抜べからざる、明法を受て、始て雲霧をひらき、青天日月をみる心地せり、其譜を閲するに、鎌倉右大将家も、此ひきめを、授かり玉ひし列なり、鳴呼上古の大道、久く人間に隠晦せしも、盛哉昇平の徳、また世に明ならんとす、万物の復古、思ひ合すること多し、有志の士、国故の、ぎんみあるは、忠孝の道にして、本を忘れざる礼とも云べし、さて、射術品類多し、但今の人謂ふ砲術あれば、他を、またずと、是は、全く場所を知ざる論なり、たとひ何の器、備とも火矢遠矢、さしや術は、すてがたし、わけて、さしや、がゝりと云こと、きはめて、要用の伎なり、必、心を用べし、御また精しく、せずんば、あるべからず、尚古来目部あり、方今の令条にも、弓馬は、武士の枢要、きつと習熟すべきの旨あり、書は学ぶに、たらずなど云ことあれども、もと道をのせ、志を通達する器なれば、後世入木家の説は、ともかくも、ひたすら、文字を知り、筆記に、うとからざるやうにすべし、数学、緊要具と云べし、平立の法までは、必幼年の内、大略を、わきまふべし、是より以往、武備の品々には、たとひ、後の代、辺鄙下賤に出たりとも、其用、あるものは識者に、たより、多くきゝ、広く学び、例の集成を、なすべし、砲術、諸火器の類、是なり、もつとも、釼槍の、身に帯び、手に握るの常の具、細矛、宝釼の故、あらずとも、釼術、鎗とりの術より、抜刀法、柔術、拳術、いづれも、其手練なくしては、武士と云がたき道理、よくがてんすべし、或曰、子、五芸をいひ、楽に及ばざる、いかんと、予が曰く、上古の大聖、子羽のことあれば、武備に、云べけれども、孔子の玉ふ、楽の、楽たるは、鐘鼓を、いふばかりには、あらずと、何分、容易の論たらず、武門子弟のために、迂なゝ、今、本条与からざるを、幸とし、こゝに、これを、はぶけるなり、

書き下し

最も後に、本邦、神代相承の故實より、比岐女の類、確然拔べからざる、明法を受て、始て雲霧をひらき、靑天日月をみる心地せり、其譜を閲するに、鎌倉右大將家も、此ひきめを、授かり玉ひし列なり、鳴呼上古の大道、久く人間に隱晦せしも、盛哉昇平の德、また世に明ならんとす、萬物の復古、思ひ合すること多し、有志の士、國故の、ぎんみあるは、忠孝の道にして、本を忘れざる禮とも云べし、さて、射術品類多し、但今の人謂ふ砲術あれば、他を、またずと、是は、全く場所を知ざる論なり、たとひ何の器、備とも火矢遠矢、さしや術は、すてがたし、わけて、さしや、がゝりと云こと、きはめて、要用の伎なり、必、心を用べし、御また精しく、せずんば、あるべからず、尚古來目部あり、方今の令條にも、弓馬は、武士の樞要、きつと習熟すべきの旨あり、書は學ぶに、たらずなど云ことあれども、もと道をのせ、志を通達する器なれば、後世入木家の説は、ともかくも、ひたすら、文字を知り、筆記に、うとからざるやうにすべし、數學、緊要具と云べし、平立の法までは、必幼年の内、大略を、わきまふべし、是より以往、武備の品々には、たとひ、後の代、邊鄙下賤に出たりとも、其用、あるものは識者に、たより、多くきゝ、廣く學び、例の集成を、なすべし、砲術、諸火器の類、是なり、もつとも、釼槍の、身に帶び、手に握るの常の具、細矛、寶釼の故、あらずとも、釼術、鎗とりの術より、拔刀法、柔術、拳術、いづれも、其手練なくしては、武士と云がたき道理、よくがてんすべし、或曰、子、五藝をいひ、樂に及ばざる、いかんと、予が曰く、上古の大聖、子羽のことあれば、武備に、云べけれども、孔子の玉ふ、樂の、樂たるは、鐘鼓を、いふばかりには、あらずと、何分、容易の論たらず、武門子弟のために、迂なゝ、今、本條與からざるを、幸とし、こゝに、これを、はぶけるなり、

現代語訳

とりわけ後に、わが国の神代から受け継がれた故実のうち、比岐女の類について、動かしがたい明らかな法を受けて、はじめて雲霧が晴れ、青天に日月を見る心地がしました。その譜を調べると、鎌倉右大将家(源頼朝)も、この比岐女を授けられた方々の列に入っておられます。ああ、上古の大道が久しく人の世に隠れていたのも、盛んなるかな太平の徳によって、また世に明らかになろうとしています。万物の復古を思い合わせることが多くあります。有志の士が国の古い事柄を吟味するのは、忠孝の道であり、本を忘れない礼ともいえるでしょう。さて、射術には種類が多いのですが、今の人は「砲術があるから他は要らない」と言います。これは全く場所(場面)を知らない論です。たとえどんな器械が備わっていても、火矢・遠矢、さし矢の術は捨てがたいものです。とりわけ「さしや懸り」ということは、きわめて必要な技です。必ず心を用いなさい。馭(馬術)もまた精しくしなければなりません。なお古来、来目部があり、今の令条にも、弓馬は武士の枢要であり、きっと習熟すべき旨があります。書は学ぶのに足りないなどと言うことがありますが、もともと道を載せ、志を通達する器なのですから、後世の入木家の説はともかく、ひたすら文字を知り、筆記に疎くないようにしなさい。数学は大切な道具というべきです。平立の法までは、必ず幼年のうちにおおよそ弁えなさい。これより先、武備の品々については、たとえ後の代の辺鄙で身分の低い所から出たものでも、その用があるものは、識者を頼りに多く聞き、広く学び、例の集成をするべきです。砲術や諸火器の類がこれです。もちろん、剣や槍という身に帯び手に握る常の具は、細矛や宝剣という由緒がなくとも、剣術・槍の術から抜刀法、柔術、拳術に至るまで、いずれもその手練がなければ武士とは言いがたい道理を、よく合点しなさい。ある人が言うには、「あなたは五芸を言いながら、楽に及ばないのはどうしてか」と。私は言います。上古の大聖には子羽のことがあるので武備として言うべきですが、孔子の言われる楽の楽たるところは、鐘や鼓を言うだけではありません。いずれにしても簡単に論じられることではなく、武門の子弟のためには回り遠いので、今、本条に含まれていないのを幸いとして、ここでは省きます。

解説

射術に砲術を加えた武備の全般を述べ、新しい道具があるからといって、古い技を捨てるのは場面を知らない論だと戒めます。書や数学も、道を載せ志を通じる器として、幼年のうちに基礎を学ぶよう勧めます。また、出自の低い所から出た技術でも、役立つものは識者に聞いて広く学べと言います。現代の管理職に置き換えれば、新しいツールが出ても基本の技能を手放さないこと、文章力や数字の扱いを基礎として磨くこと、肩書や出所にかかわらず役立つ知恵を取り入れることです。
『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山弓馬砲術基礎学習数学

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