武学啓蒙 / 論・論・根本を正し、幼いうちから導く
○凡そ萬のこと、いづれにも、本と、云ものあり、武士の戰場にて、忠節の武功を立るも、皆平常の作法、心がけの、よき故なり、作法心がけの、よきといふは、そのかみ親の訓導にあり、其しこみといふは、書籍をよみ、徃事を知り、又老功の士の場數を經たるに、質し問ひ、昔今唐土大和の形勢を、わきまへたればなり、今川了俊、其子仲秋を戒め云、文道を知らずしては、武道終に勝利を得ずと、さらば文道を學ぶことは、武士の本盾とも云べし、按ずるに、根本を正しくするは、至極の道理なれば、本立て道生ずとも、本あるものは、云々などありて、古聖賢の大道も、是を緊要の旨とす、忠といひ、孝と云も、畢竟本の字より、生じ、きたる、されば、世の諺に、一年の計は、元旦にありとも、又虎の子の初生に、其きざしをねらひ、鷹の子の初生に、餌む姿を、ゑらぶ談あれば、武門の子弟も、早く其性の近き所より、みちびき、邪を抑へ、正を揚、勇氣を養ひ、詐いつわりを退け、戲遊も、はま弓、竹馬の、業によせ、言語も、少しづゝなりとも、武義にはこび、下流に流るゝことを防ぐべし、是西土の武官とちがひ、政事に與かる、大業あればなり、もつとも親の子を愛する、天性なれば、いづくいかなる親も、克子を欲せざるは、なきこと、天下一同なれども、只一時の愛に溺れ、彼まだ稚と、ゆるし、是は小惡と、ゆるすより、多く驕子となることあり、小事の、つもれるも、山となり、兩葉を、きらざれば、斧柯も、及びがたきに、いたり、わがまゝ無法、手にも、あまり、世にも、いれがたく、早きも天倫の義を絶ち、後れて家を、くつがへす、なんぎあり、愼まずんばあるべからず、
新字:○凡そ万のこと、いづれにも、本と、云ものあり、武士の戦場にて、忠節の武功を立るも、皆平常の作法、心がけの、よき故なり、作法心がけの、よきといふは、そのかみ親の訓導にあり、其しこみといふは、書籍をよみ、往事を知り、又老功の士の場数を経たるに、質し問ひ、昔今唐土大和の形勢を、わきまへたればなり、今川了俊、其子仲秋を戒め云、文道を知らずしては、武道終に勝利を得ずと、さらば文道を学ぶことは、武士の本盾とも云べし、按ずるに、根本を正しくするは、至極の道理なれば、本立て道生ずとも、本あるものは、云々などありて、古聖賢の大道も、是を緊要の旨とす、忠といひ、孝と云も、畢竟本の字より、生じ、きたる、されば、世の諺に、一年の計は、元旦にありとも、又虎の子の初生に、其きざしをねらひ、鷹の子の初生に、餌む姿を、ゑらぶ談あれば、武門の子弟も、早く其性の近き所より、みちびき、邪を抑へ、正を揚、勇気を養ひ、詐いつわりを退け、戯遊も、はま弓、竹馬の、業によせ、言語も、少しづゝなりとも、武義にはこび、下流に流るゝことを防ぐべし、是西土の武官とちがひ、政事に与かる、大業あればなり、もつとも親の子を愛する、天性なれば、いづくいかなる親も、克子を欲せざるは、なきこと、天下一同なれども、只一時の愛に溺れ、彼まだ稚と、ゆるし、是は小悪と、ゆるすより、多く驕子となることあり、小事の、つもれるも、山となり、両葉を、きらざれば、斧柯も、及びがたきに、いたり、わがまゝ無法、手にも、あまり、世にも、いれがたく、早きも天倫の義を絶ち、後れて家を、くつがへす、なんぎあり、慎まずんばあるべからず、
書き下し
○凡そ萬のこと、いづれにも、本と、云ものあり、武士の戰場にて、忠節の武功を立るも、皆平常の作法、心がけの、よき故なり、作法心がけの、よきといふは、そのかみ親の訓導にあり、其しこみといふは、書籍をよみ、徃事を知り、又老功の士の場數を經たるに、質し問ひ、昔今唐土大和の形勢を、わきまへたればなり、今川了俊、其子仲秋を戒め云、文道を知らずしては、武道終に勝利を得ずと、さらば文道を學ぶことは、武士の本盾とも云べし、按ずるに、根本を正しくするは、至極の道理なれば、本立て道生ずとも、本あるものは、云々などありて、古聖賢の大道も、是を緊要の旨とす、忠といひ、孝と云も、畢竟本の字より、生じ、きたる、されば、世の諺に、一年の計は、元旦にありとも、又虎の子の初生に、其きざしをねらひ、鷹の子の初生に、餌む姿を、ゑらぶ談あれば、武門の子弟も、早く其性の近き所より、みちびき、邪を抑へ、正を揚、勇氣を養ひ、詐いつわりを退け、戲遊も、はま弓、竹馬の、業によせ、言語も、少しづゝなりとも、武義にはこび、下流に流るゝことを防ぐべし、是西土の武官とちがひ、政事に與かる、大業あればなり、もつとも親の子を愛する、天性なれば、いづくいかなる親も、克子を欲せざるは、なきこと、天下一同なれども、只一時の愛に溺れ、彼まだ稚と、ゆるし、是は小惡と、ゆるすより、多く驕子となることあり、小事の、つもれるも、山となり、兩葉を、きらざれば、斧柯も、及びがたきに、いたり、わがまゝ無法、手にも、あまり、世にも、いれがたく、早きも天倫の義を絶ち、後れて家を、くつがへす、なんぎあり、愼まずんばあるべからず、
現代語訳
おおよそ万事、いずれにも本というものがあります。武士が戦場で忠節の武功を立てるのも、みな平常の作法・心がけがよいからです。作法・心がけがよいというのは、そのかみ親の訓導にあります。その仕込みというのは、書籍を読み、往事を知り、また老功の士で場数を経た者に質し問い、昔・今、唐土・大和の形勢をわきまえているからです。今川了俊は、その子の仲秋を戒めて「文道を知らなくては、武道は結局勝利を得られない」と言いました。それならば、文道を学ぶことは武士の本盾(根本の拠り所)ともいえます。考えますに、根本を正しくするのは至極の道理で、「本立ちて道生ず」とも、「本あるものは……」などとあり、古の聖賢の大道もこれを肝要の旨としています。忠といい、孝というのも、結局は本の字から生じてきます。そこで世の諺に「一年の計は元旦にあり」とも言い、また虎の子の生まれたばかりにその兆しを狙い、鷹の子の生まれたばかりに餌をついばむ姿を選ぶという話もあるように、武門の子弟も早くその性質に近い所から導き、邪を抑え正を揚げ、勇気を養い、詐り偽りを退け、遊びも弓や竹馬の業に寄せ、言葉も少しずつでも武の義に運び、下流に流れることを防ぐべきです。これは西土(中国)の武官と違い、政事に与かる大きな務めがあるからです。もとより親が子を愛するのは天性ですから、どこのどんな親も良い子を望まないことはなく、天下一同ですが、ただ一時の愛に溺れ、「あの子はまだ幼い」と許し、「これは小さな悪だ」と許すことから、多くは驕った子となることがあります。小事の積もるのも山となり、両葉を切らなければ大きな斧でなければ及びがたくなるに至り、わがまま無法で手にも余り、世にも受け入れがたく、早ければ天倫の義を絶ち、遅くても家を覆す難儀があります。慎まなければなりません。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
『武学啓蒙』・論・論・学びの大切さと孝行の日課孔子の曰く、少くして、習ひ慣しことは、自然のやうなりと、苦勞なく、おぼゆるを、いふなり、左氏傳に、子を愛めば、是に敎るに、義方を以てし、邪に、いれざるやうに、すべしと、書の說命に、人は多聞を求めて、事を建つ、古訓に學て、獲ることあり、事〱古の道を、師とせずして、世を永くするは、說が、きく所に、あらずと、又論語に、此上もなき仁を好みても、知を好ても、信を好ても、直を好ても、勇を好ても、學と云ものを、好まざれば、ものごと、一偏に、かたよりて、蔽あることを、免れずとあり、さらば、人の生質伶俐とても、先言、往行を知る、學問に、あらざれば、全躰の道理に、くらき所ありて、天下國家の、大事の用には、立にくき、わけ、あれば、なり、さて又、人と、なりての作法、品多し、大抵、上は國家の令條より、家々の先規等、慎み守るべき、法度あるは、いふに及ばず、凡そ、朝に、はやく、おき、てあらひ、くちすゝぐより、髮を櫛し、衣服を整へ、用具を、こゝろへ、君父、祖先の恩を、念ふは勿論、此身躰髮膚、すべて、父母に、受たる、大せつなる、ものなれば、恥を、かゝず、毀ひ傷ることなき、孝の始めより、何とぞ、身を立、道を行なひ、名を後世に、あげ、前を光し、後を曜よくせんと、朝ごとに、此志願を、發し、是より父母の安否を問ひ、きげんを覘ひ、行も住るも、とにかく、父母の、あんど、
-
『武備和訓』・卷二・道の大本を立て、利を捨てて学ぶ一武士文武の藝を習ふは、己れが仁義の家業を忘れず、忠孝を失ふまじき爲なれば、道の大本を立て、私の利を舍つべし、多くは道を捨て、利にもとづくにより、師を殺し、君父に乖く如きの人、武門に多し、君父師に背きて、己が身を立るは、禽獸にもあるまじき道なり、誠に小き蟲なれども、蜂にさへ君臣の義あり、主を殺す虫あれば、必ず臣讎を復する事目前也、然れば道をしらずして血勇に誇り、仁義の家業を忘れたるは、蜂にもおとりたれば、禽獸ともいふべからず、まして況や武士をや、武は則義なり、義は武の德なれば、武士を通稱して義士といはんも可ならんか、かならずしも、武士の義あるべき事の、勿論なるを思ふべし、次に智を明にして、善を善とし、惡を惡とし、假令君父師の事跡たりとも、惡を捨て、善を習ふべし、聖人にあらざれば、過なき事あたわず、されば軍術を學ぶとも、先づ仁義王道の兵法を尋聞て、道の大本を察し、其後和軍を習稽ふべし、深く文字に通ぜずとも、王覇の兵論を聞事難しとすべからず、先其大意を聞定て、後に和の軍術を習はゞ、心利貪にかたまる事あるべからず、必ず人少年の時、聞容たる事を是とし、壯年の後に聞事を非とするものなり、必ず心得べし、若心、利にうつり、忠孝にくらくば、長く大勇を曉る事あるべからず、當世には人文過半ひらけて、和げ著す處の書多く、俗に通ずる和漢の記錄ども不少ば、古を鑑として、今を稽へ、かりそめにも義路にあらずんば行べからず、道のくはしき事を知事ならずば、其道ありといふ噂ばかりも聞べし、
-
『武学啓蒙』・論・先祖の功を知り、平時にも武を忘れずつくしたる子孫に、論なく、殊に西土三代の聖制、封建の、おさめかたにして、各國相應、政事の末にも、與れば、一時の選兵、もしくば、軍團等、同やう無下に卑しきものと、心得ば、其忠節、ゆきとゞかざることあらん、賢能あらば、管仲晏子の功、などか、ゆづらん、元來後の世事物の幹、次弟に、はげしさのみならず、血戰もちまへなる、大武國にて、苦辛したゝかなめたる、歴々武功の由緒を、知得て、事に、おぢつく心なかるべし、是も、本邦武門の子弟に、直銳の氣を育つる、作法の一つなり、昔し、こと〱しく、いひなせし、三世相恩は、いとあさく、今數世相恩なれば、なか〱異域及第のふりあいは、云に及ばず、本邦、中古、主從とよびし士の、名を惜み、義を立しよりも、百倍、獻可替否、諫爭忠死、いづれ、國のためとしては、せざることなき、大精忠、古社稷の臣といふ義、忘るべからず、是も、また、唐と大和と、古と今、其物と則との、あるわけなり、本條の、大内氏の事迹、たとひ、武家に、あらずとも、きわめて危き業なり、書經の伊訓に、もし恆に、亂舞酣歌を事とする、是を巫風といひ、敢て貨食に殉ひ、遊畋を常にする、是を淫風といひ、敢て聖言を侮り、忠直に逆ひ、耆德を遠ざけ、頑童に比く、是を亂風といひぬ、是この、三風、十愆、もし卿士の身に、一つあるも、家必喪び、邦君の身に一つあるも、國必亡ぶ、しかるを、臣下の身として、かゝることを、見ながら、匡ざるものあらば、其刑は、墨すべしと、況、あんじなきことをも、警戒するは、列聖の大訓なるをや、國史にのす、天武帝詔す、凡そ、政の要めは、軍事を、大なりとす、爾今以後、文官諸人といへども、常に、つとめて、兵術を習ひ試むべしと、また況や、今の武家と云もの、武を忘れて、可なりとせんや、
-
『武学啓蒙』・論・明師につき礼法と故実を学ぶ○凡そ、武士たらんものは、幼年より、先一願をたて、何とぞ明師につき、和漢の軍法、武功の大路を、曉得し、もし萬一のことあらば、己れ一手の、裁配をも、握かねざらんものと、心がくる、是其第一義なり、されば、世の諺にも、虎を畫むと學びて、漸く猫に類すると云ことあり、大にせんと、心がけても、物たらず、事廣からざるは、もの學びするの常なり、大抵、貴さに、侍坐するより、物のうけとり、わたしの法など、諸流の、禮家と云ものによりて、きゝ置べし、是も高きにのぼる、卑きよりする、道なりとぞ、所謂、太刀、折紙より、坐作進退言語應對の道理、顏色をとゝのへ、容體を正し、辭命の順序を習ひ、送迎の上下を、わきまへ、くに 家の先規、故實の彼是に、わたり、飲食宴享、當用の、しつけがたども、心に守り、身に行ふの法度を、よく會得し、弓馬の式法、器物の制品、つれに、つきたる故實、狩場の法より、軍配の禮義に、いたるまで、皆其人に問ひ學びて、すじ〱を、わきまへ置べし、
-
『武家小学』・文武の偏りを戒める一士の子孫を敎戒するは。其智を正して其氣を勇になし。其爲す事は皆信あらしむるごとくに敎戒を垂べし。故に童子日々月々智惠益に隨て邪正を考へ。邪を戒て正を揚。仮初にも恐威事をせずして勇を養ひ。少しも僞り欺かず。戲遊にも必弓矢竹馬の禮を以て士の業をなさしめ。言語は皆武家諸禮の法を用ゆべし。偖幼稚の間精氣全備る中に。先文學をなさしめ聖賢の格言を覺さしむる事是古法也。論語にも仁智信直勇剛の六つを夫ゝに各好みても。文學を好ざれば各其蔽有といへり。故に第一文を學ばずんばあるべからず。然れども專ら詩文章をのみ玩び。本朝の風俗を忘れて。言語衣服祭禮等迄漢の風俗を摸さんと欲るは是又泥着の誤なり。凡萬の物玩び好時は皆志を奪るべし。書冊に至ても一向に好時は自ら志を喪ふといへり。然ば武を專とこのむ者も又心得有べし。或は短衣を着し臂を怒し刀を按り。自ら好で事の變あらん事を欲るの俗は。是又血氣の勇者の爲處にして大なる誤なれば。其過不及を愼べし。
-
『武備和訓』・卷三・武家の子の育て方と学びの順序一武家は幼少よりの育を大事にすべし、七八歲よりの消息は壯長の後までよく覺るもの也、少年に覺へたる事を是とする事は、精神純一にして、邪智少く、よくものを容るゝ量あればなり、さるに依て五六歲より、武勇の義にいさめるものがたりや、又は君父に至極之忠孝を盡したる人の事跡をかたりきかせ、五常の端々どこともなく幼心に徹底して、節義に服し、移ざる志を生じさせ、其性の淸潔にして其まゝなるがごとくに育べし、かりにも逆心なる謀叛人の噂を語聞すべからず候、假令ば近世の明智光秀がごとき物語の草紙などは、手にも觸さすべからず、七八歲より書筆の道を學せ、十一歲頃より學問にすゝますべし、其階級は、孔孟の書を最初にして、小學近思錄等をよく素讀し、七書にうつり、名師にしたがひ、其奧義を致むべし、尤坐合劔術鎗術弓馬鐵砲軍旅の藝、十三四歲已上、弱冠の前後、晝夜を舍ず勵むべし、尤餘力あらば、和漢諸家の書を讀事、しかるべけれども、唯肝心の武藝の疎ならん事を恐るのみ、其學問の本意は天地人倫の道を曉し、本性に歸し、忠孝の二ッを失せまじきが爲也、此忠孝の二ッを廢する事は、本其家產を破り、我が家の武備を忘るゝよりおこれり、家業におこたらず、武備に全き時は、忠孝二ッともに存せり、