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武学啓蒙 / 論・先祖の功を知り、平時にも武を忘れず

つくしたる子孫に、論なく、殊に西土三代の聖制、封建の、おさめかたにして、各國相應、政事の末にも、與れば、一時の選兵、もしくば、軍團等、同やう無下に卑しきものと、心得ば、其忠節、ゆきとゞかざることあらん、賢能あらば、管仲晏子の功、などか、ゆづらん、元來後の世事物の幹、次弟に、はげしさのみならず、血戰もちまへなる、大武國にて、苦辛したゝかなめたる、歴々武功の由緒を、知得て、事に、おぢつく心なかるべし、是も、本邦武門の子弟に、直銳の氣を育つる、作法の一つなり、昔し、こと〱しく、いひなせし、三世相恩は、いとあさく、今數世相恩なれば、なか〱異域及第のふりあいは、云に及ばず、本邦、中古、主從とよびし士の、名を惜み、義を立しよりも、百倍、獻可替否、諫爭忠死、いづれ、國のためとしては、せざることなき、大精忠、古社稷の臣といふ義、忘るべからず、是も、また、唐と大和と、古と今、其物と則との、あるわけなり、本條の、大内氏の事迹、たとひ、武家に、あらずとも、きわめて危き業なり、書經の伊訓に、もし恆に、亂舞酣歌を事とする、是を巫風といひ、敢て貨食に殉ひ、遊畋を常にする、是を淫風といひ、敢て聖言を侮り、忠直に逆ひ、耆德を遠ざけ、頑童に比く、是を亂風といひぬ、是この、三風、十愆、もし卿士の身に、一つあるも、家必喪び、邦君の身に一つあるも、國必亡ぶ、しかるを、臣下の身として、かゝることを、見ながら、匡ざるものあらば、其刑は、墨すべしと、況、あんじなきことをも、警戒するは、列聖の大訓なるをや、國史にのす、天武帝詔す、凡そ、政の要めは、軍事を、大なりとす、爾今以後、文官諸人といへども、常に、つとめて、兵術を習ひ試むべしと、また況や、今の武家と云もの、武を忘れて、可なりとせんや、

新字:つくしたる子孫に、論なく、殊に西土三代の聖制、封建の、おさめかたにして、各国相応、政事の末にも、与れば、一時の選兵、もしくば、軍団等、同やう無下に卑しきものと、心得ば、其忠節、ゆきとゞかざることあらん、賢能あらば、管仲晏子の功、などか、ゆづらん、元来後の世事物の幹、次弟に、はげしさのみならず、血戦もちまへなる、大武国にて、苦辛したゝかなめたる、歴々武功の由緒を、知得て、事に、おぢつく心なかるべし、是も、本邦武門の子弟に、直鋭の気を育つる、作法の一つなり、昔し、こと〱しく、いひなせし、三世相恩は、いとあさく、今数世相恩なれば、なか〱異域及第のふりあいは、云に及ばず、本邦、中古、主従とよびし士の、名を惜み、義を立しよりも、百倍、献可替否、諫争忠死、いづれ、国のためとしては、せざることなき、大精忠、古社稷の臣といふ義、忘るべからず、是も、また、唐と大和と、古と今、其物と則との、あるわけなり、本条の、大内氏の事迹、たとひ、武家に、あらずとも、きわめて危き業なり、書経の伊訓に、もし恒に、乱舞酣歌を事とする、是を巫風といひ、敢て貨食に殉ひ、遊畋を常にする、是を淫風といひ、敢て聖言を侮り、忠直に逆ひ、耆徳を遠ざけ、頑童に比く、是を乱風といひぬ、是この、三風、十愆、もし卿士の身に、一つあるも、家必喪び、邦君の身に一つあるも、国必亡ぶ、しかるを、臣下の身として、かゝることを、見ながら、匡ざるものあらば、其刑は、墨すべしと、況、あんじなきことをも、警戒するは、列聖の大訓なるをや、国史にのす、天武帝詔す、凡そ、政の要めは、軍事を、大なりとす、爾今以後、文官諸人といへども、常に、つとめて、兵術を習ひ試むべしと、また況や、今の武家と云もの、武を忘れて、可なりとせんや、

書き下し

つくしたる子孫に、論なく、殊に西土三代の聖制、封建の、おさめかたにして、各國相應、政事の末にも、與れば、一時の選兵、もしくば、軍團等、同やう無下に卑しきものと、心得ば、其忠節、ゆきとゞかざることあらん、賢能あらば、管仲晏子の功、などか、ゆづらん、元來後の世事物の幹、次弟に、はげしさのみならず、血戰もちまへなる、大武國にて、苦辛したゝかなめたる、歴々武功の由緒を、知得て、事に、おぢつく心なかるべし、是も、本邦武門の子弟に、直銳の氣を育つる、作法の一つなり、昔し、こと〱しく、いひなせし、三世相恩は、いとあさく、今數世相恩なれば、なか〱異域及第のふりあいは、云に及ばず、本邦、中古、主從とよびし士の、名を惜み、義を立しよりも、百倍、獻可替否、諫爭忠死、いづれ、國のためとしては、せざることなき、大精忠、古社稷の臣といふ義、忘るべからず、是も、また、唐と大和と、古と今、其物と則との、あるわけなり、本條の、大内氏の事迹、たとひ、武家に、あらずとも、きわめて危き業なり、書經の伊訓に、もし恆に、亂舞酣歌を事とする、是を巫風といひ、敢て貨食に殉ひ、遊畋を常にする、是を淫風といひ、敢て聖言を侮り、忠直に逆ひ、耆德を遠ざけ、頑童に比く、是を亂風といひぬ、是この、三風、十愆、もし卿士の身に、一つあるも、家必喪び、邦君の身に一つあるも、國必亡ぶ、しかるを、臣下の身として、かゝることを、見ながら、匡ざるものあらば、其刑は、墨すべしと、況、あんじなきことをも、警戒するは、列聖の大訓なるをや、國史にのす、天武帝詔す、凡そ、政の要めは、軍事を、大なりとす、爾今以後、文官諸人といへども、常に、つとめて、兵術を習ひ試むべしと、また況や、今の武家と云もの、武を忘れて、可なりとせんや、

現代語訳

尽くした子孫には違いなく、ことに西土三代(夏・殷・周)の聖王の制度は封建の治め方で、各国それぞれ相応に政事の末にも関わっていたので、一時の選兵、あるいは軍団などを同様にむやみに卑しいものと心得れば、その忠節が行き届かないことがあるでしょう。賢く有能であれば、管仲・晏子の功にどうして譲りましょうか。そもそも後の世は事物の幹が次第に激しくなるだけでなく、血戦も持ち前の大武の国で苦辛をしたたかに嘗めた、歴々の武功の由緒を知り、事に怖じ気づく心がないでしょう。これもまた日本の武門の子弟に、直く鋭い気を育てる作法の一つです。昔、ことごとしく言いなした三世相恩(三代にわたる恩)は、ごく浅いもので、今は数世にわたる相恩なので、異国の及第のありようは言うまでもなく、日本の中古に主従と呼んだ士が名を惜しみ義を立てたよりも百倍、可を献じ否を替え、諫争し、忠死するなど、国のためとしてせぬことのない大精忠であり、古の社稷の臣という義を忘れてはなりません。これもまた、唐と大和、古と今、その物と則とにそれぞれ違いがあるわけです。本条の大内氏の事蹟は、たとえ武家でなくても、きわめて危うい行いです。『書経』伊訓にいうには、もし常に乱舞・酣歌をことにする、これを巫風といい、敢えて財貨や飲食に溺れ、遊猟を常とする、これを淫風といい、敢えて聖人の言を侮り、忠直に逆らい、年長の徳ある人を遠ざけ、愚かな者に親しむ、これを乱風という。この三風・十愆が、もし卿士の身に一つあっても家は必ず滅び、邦君の身に一つあっても国は必ず滅びる。それなのに臣下の身としてこのようなことを見ながら正さない者があれば、その刑は墨(入れ墨)にすべきである、と。まして、まだ兆していないことをも警戒するのは、歴代の聖人の大きな教えです。国史に記すところでは、天武帝が詔して、およそ政治の要は軍事を大とする。今から以後、文官の諸人であっても、常につとめて兵術を習い試みるべし、と。またましてや、今の武家というものが、武を忘れてよいでしょうか。

解説

武士の子孫に、先祖の苦労と功績の由緒を知らせることの大切さを説く部分です。書経の三風十愆を引いて、君の過ちを見ながら正さない臣は罰せられるべきだとし、天武帝の詔を挙げて、文官も兵術を学ぶべきだと述べます。兆しのないうちから警戒する姿勢が強調されます。管理職にとっては、組織の歴史や先人の苦労を部下に伝えること、上司の誤りに気づいたら黙らず進言する勇気、そして平時にこそ備えを怠らない姿勢が参考になります。
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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山先祖の功書経三風十愆諫言

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