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武学啓蒙 / 自序・亡父の訓を集め武学の本とする

先大人鎗菴、在世の日、不肖を、瞻望せらるゝの餘り、凡そ正書雜論、剩札斷簡の、ゑらびなく、聞見の及びしこと、其ためにすべきは、皆もらさず、是は某氏の名言、是こそ何々の書にありなど、手牘に、そへ賜ひしもの、積で數百條あり、嗚呼常人の貽ものさへ、其情を美とせり、况此復顧、極りなきの大恩、彌忘るべきやうなし、今家兒靖、及び二三の門生に、一騎まへ、勝場の昔傳を授んとし、乃先訓を照し、奉公の義、心の守とすべき數條を、こゝに鈔撮し、まゝ臆見を加へ、武學の本立とす、もし世人に示さば、心なく、蔽帚千金にあつと、笑んも、はぢらず、辛酉春正月越前 力丸彈正之光識

新字:先大人鎗菴、在世の日、不肖を、瞻望せらるゝの余り、凡そ正書雑論、剰札断簡の、ゑらびなく、聞見の及びしこと、其ためにすべきは、皆もらさず、是は某氏の名言、是こそ何々の書にありなど、手牘に、そへ賜ひしもの、積で数百条あり、嗚呼常人の貽ものさへ、其情を美とせり、況此復顧、極りなきの大恩、弥忘るべきやうなし、今家児靖、及び二三の門生に、一騎まへ、勝場の昔伝を授んとし、乃先訓を照し、奉公の義、心の守とすべき数条を、こゝに鈔撮し、まゝ臆見を加へ、武学の本立とす、もし世人に示さば、心なく、蔽帚千金にあつと、笑んも、はぢらず、辛酉春正月越前 力丸弾正之光識

書き下し

先大人鎗菴、在世の日、不肖を、瞻望せらるゝの餘り、凡そ正書雜論、剩札斷簡の、ゑらびなく、聞見の及びしこと、其ためにすべきは、皆もらさず、是は某氏の名言、是こそ何々の書にありなど、手牘に、そへ賜ひしもの、積で數百條あり、嗚呼常人の貽ものさへ、其情を美とせり、况此復顧、極りなきの大恩、彌忘るべきやうなし、今家兒靖、及び二三の門生に、一騎まへ、勝場の昔傳を授んとし、乃先訓を照し、奉公の義、心の守とすべき數條を、こゝに鈔撮し、まゝ臆見を加へ、武學の本立とす、もし世人に示さば、心なく、蔽帚千金にあつと、笑んも、はぢらず、辛酉春正月越前 力丸彈正之光識

現代語訳

亡き父の鎗菴は在世のころ、不肖の私を気にかけられるあまり、正書・雑論、残札・断簡の区別なく、見聞の及んだことで私のためになることは皆漏らさず、これは某氏の名言、これこそ何々の書にある、などと、手紙に添えて賜ったものが、積もって数百条ありました。ああ、普通の人が遺すものでさえ、その情を美とします。まして、振り返って顧みる限りないこの大恩は、いよいよ忘れられるはずがありません。今、わが子の靖およびニ、三の門生に、一人前の武者として勝つための昔からの伝えを授けようと思い、そこで先訓に照らし、奉公の義、心の守りとすべき数条をここに抄出し、ところどころ私見を加えて、武学の根本としました。もし世の人に示せば、心ない人は、破れ箒を千金と思う類だと笑うでしょうが、恥じません。辛酉の春正月、越前の力丸弾正之光が記しました。

解説

著者自身の序で、亡き父が数百条もの教えを手紙に添えて遺してくれたことへの感謝と、それをわが子や門生に授けるために抄出した執筆の動機が語られます。他人に笑われても恥じないという覚悟も見えます。管理職の立場では、先輩や上司から受けた教えを自分のところで止めず、整理して次の世代に渡すことが組織の力になります。経験を言葉と型にして残す営みこそ、人を育てる実務の根本といえます。
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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山自序鎗菴家訓継承

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