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武道初心集 / 忠死二

二つには。其家の家老年寄。其外近習の士の中に於て。主君の御氣に入。外には並ぶ者もなく。出頭致す士の心に入かはり。主人の心を惑はし。非義非道の行ひをさせ申す類ひに候。扨右出頭の士主君の心を惑はし候に。大躰六つの品有之候。一つには主君の御耳目を塞ぐ分別を仕り。己が同役同職たり共。外々の者は存寄を申事ならず。たとひ申ても。御用ひ不被成樣に致し成し。其家の大事小事共に。己一人して申承るに付。主君には此者なくてはと。思召樣に仕なすものに候。二つには。近習徘徊の士の中に。少しは志も有之。主君の御爲にも可罷成と見ゆる物をば。左右に事を寄せて。役儀を改め。御側を遠ざけ。己が由緒有もの。又は手前へ心を寄せ。追從輕薄を致し。我が申付る義を。いやと言ぬ者のみ取持て。近習の役人となし置。己が身の奢り。私を致す義を。主君の御耳へ入ぬ樣にと分別仕り候。三ッには。主君の御心を盪かし。且は內緣の爲にもと存ずるを以て。兎角御子孫御相續に增たる義無御座と申立。何者の娘子供といふ吟味もなく。美目貌さへよくはと申して。

新字:二つには。其家の家老年寄。其外近習の士の中に於て。主君の御気に入。外には並ぶ者もなく。出頭致す士の心に入かはり。主人の心を惑はし。非義非道の行ひをさせ申す類ひに候。扨右出頭の士主君の心を惑はし候に。大体六つの品有之候。一つには主君の御耳目を塞ぐ分別を仕り。己が同役同職たり共。外々の者は存寄を申事ならず。たとひ申ても。御用ひ不被成様に致し成し。其家の大事小事共に。己一人して申承るに付。主君には此者なくてはと。思召様に仕なすものに候。二つには。近習徘徊の士の中に。少しは志も有之。主君の御為にも可罷成と見ゆる物をば。左右に事を寄せて。役儀を改め。御側を遠ざけ。己が由緒有もの。又は手前へ心を寄せ。追従軽薄を致し。我が申付る義を。いやと言ぬ者のみ取持て。近習の役人となし置。己が身の奢り。私を致す義を。主君の御耳へ入ぬ様にと分別仕り候。三ッには。主君の御心を盪かし。且は内縁の為にもと存ずるを以て。兎角御子孫御相続に增たる義無御座と申立。何者の娘子供といふ吟味もなく。美目貌さへよくはと申して。

書き下し

二つには。其家の家老年寄。其外近習の士の中に於て。主君の御氣に入。外には並ぶ者もなく。出頭致す士の心に入かはり。主人の心を惑はし。非義非道の行ひをさせ申す類ひに候。扨右出頭の士主君の心を惑はし候に。大躰六つの品有之候。一つには主君の御耳目を塞ぐ分別を仕り。己が同役同職たり共。外々の者は存寄を申事ならず。たとひ申ても。御用ひ不被成樣に致し成し。其家の大事小事共に。己一人して申承るに付。主君には此者なくてはと。思召樣に仕なすものに候。二つには。近習徘徊の士の中に。少しは志も有之。主君の御爲にも可罷成と見ゆる物をば。左右に事を寄せて。役儀を改め。御側を遠ざけ。己が由緒有もの。又は手前へ心を寄せ。追從輕薄を致し。我が申付る義を。いやと言ぬ者のみ取持て。近習の役人となし置。己が身の奢り。私を致す義を。主君の御耳へ入ぬ樣にと分別仕り候。三ッには。主君の御心を盪かし。且は內緣の爲にもと存ずるを以て。兎角御子孫御相續に增たる義無御座と申立。何者の娘子供といふ吟味もなく。美目貌さへよくはと申して。

現代語訳

二つには、その家の家老や年寄、そのほか近習の士の中で、主君の気に入りで、他に並ぶ者もなく出頭している士が心を入れ替え、主人の心を惑わして、道に外れた行いをさせる類です。さて、その出頭の士が主君の心を惑わすのには、おおよそ六つの品があります。一つには、主君の耳目をふさぐ算段をして、自分の同役同職であっても、他の者は意見を申すことができず、たとえ申しても、取り上げられないようにしむけ、その家の大事・小事とも、自分一人で申し上げ承ることにして、主君には「この者がいなくては」とお思いになるように仕向けます。二つには、近習や徘徊の士の中に、少しは志もあり、主君のためにもなると見える者を、あれこれと口実をつけて役目を替え、お側から遠ざけ、自分の縁故のある者や、自分に心を寄せて追従・軽薄をする者、自分の申しつけに「いや」と言わない者ばかりを取り持って、近習の役人とし、自分の奢りや私事を、主君の耳に入らないようにはかります。三つには、主君の心をとろかし、そのうえ、縁組のためにもと思って、とかく御子孫の御相続にまさるものはございませんと申し立て、どこの者の娘かという吟味もなく、容貌さえよければと言って、

解説

前段の続きで、怨霊の祟りの第二の品を述べます。主君の気に入りで他に並ぶ者のない側近が、主君を惑わして道に外れた行いをさせる、そのやり方が六つに分けて語られ、ここではその一つ目から三つ目までです。まず他の家臣が意見を言えないよう耳目をふさぐこと、次に志のある近習を口実をつけて遠ざけ、自分に逆らわない追従の者で固めること、そして縁組や御相続の名目で、素性を問わず女性を集めることです。友山は、悪事が一度に起こるのではなく、情報の遮断、人事、私的な誘導という順に進む様子を具体的に描きます。現代の組織でも、特定の側近に情報を集中させ、反対意見を排除する構図は、経営の失敗に繋がります。意見の通り道を複数持つことが、最良の防ぎ方になります。

この章句が説くこと

側近耳目人事追従情報遮断武道初心集

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