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武道初心集 / 聚歛三

國家政道の邪魔になる義をも。致し初る物にて候へば。たとひ己が身につく私欲取込を致さず共。罪科此上有べからず候。さればこそ古賢の言葉にも。聚歛の臣あらむよりはむしろ盜臣あれと有之げに候。抑武士の身にとりて。盜臣の名を蒙るより外に。重き惡事は無之樣に存じ候得共。右の詞を承り候へば。罪科の至極は聚歛の臣に止り申候。然れば盜臣の科に首を斬り候に於ては。聚歛の臣をば。磔にも懸申度物にて候。但し古は聚歛の臣と盜臣とは。別々の樣子なればこそ。聚歛の臣よりは。盜臣を勝しかといふ。批判も相聞え候。近世に至り候ては。聚歛の臣にして。而も又盜臣の所行をも相兼。表向は主人の御爲を致す面を致して。內證は己が勝手になる樣にばかり調義仕る。是を聚歛盜臣を合せたる大賊とは申にて候。箇樣の大罪人の義ならば。いか樣の罪科に申行ひて可然か。批判に及びがたく候。初心の武士心得のため仍如件。

新字:国家政道の邪魔になる義をも。致し初る物にて候へば。たとひ己が身につく私欲取込を致さず共。罪科此上有べからず候。さればこそ古賢の言葉にも。聚歛の臣あらむよりはむしろ盗臣あれと有之げに候。抑武士の身にとりて。盗臣の名を蒙るより外に。重き悪事は無之様に存じ候得共。右の詞を承り候へば。罪科の至極は聚歛の臣に止り申候。然れば盗臣の科に首を斬り候に於ては。聚歛の臣をば。磔にも懸申度物にて候。但し古は聚歛の臣と盗臣とは。別々の様子なればこそ。聚歛の臣よりは。盗臣を勝しかといふ。批判も相聞え候。近世に至り候ては。聚歛の臣にして。而も又盗臣の所行をも相兼。表向は主人の御為を致す面を致して。内証は己が勝手になる様にばかり調義仕る。是を聚歛盗臣を合せたる大賊とは申にて候。箇様の大罪人の義ならば。いか様の罪科に申行ひて可然か。批判に及びがたく候。初心の武士心得のため仍如件。

書き下し

國家政道の邪魔になる義をも。致し初る物にて候へば。たとひ己が身につく私欲取込を致さず共。罪科此上有べからず候。さればこそ古賢の言葉にも。聚歛の臣あらむよりはむしろ盜臣あれと有之げに候。抑武士の身にとりて。盜臣の名を蒙るより外に。重き惡事は無之樣に存じ候得共。右の詞を承り候へば。罪科の至極は聚歛の臣に止り申候。然れば盜臣の科に首を斬り候に於ては。聚歛の臣をば。磔にも懸申度物にて候。但し古は聚歛の臣と盜臣とは。別々の樣子なればこそ。聚歛の臣よりは。盜臣を勝しかといふ。批判も相聞え候。近世に至り候ては。聚歛の臣にして。而も又盜臣の所行をも相兼。表向は主人の御爲を致す面を致して。內證は己が勝手になる樣にばかり調義仕る。是を聚歛盜臣を合せたる大賊とは申にて候。箇樣の大罪人の義ならば。いか樣の罪科に申行ひて可然か。批判に及びがたく候。初心の武士心得のため仍如件。

現代語訳

国家の政道の邪魔になることまで、やり始めるものですから、たとえ自分の身につく私欲による着服をしないとしても、これ以上の罪はありません。だからこそ昔の賢人の言葉にも、「聚歛の臣がいるよりは、むしろ盗臣がいたほうがよい」とあるようです。そもそも武士の身にとって、盗臣という名を受けることより重い悪事はないと思いますが、この言葉を聞くと、罪の極みは聚歛の臣にとどまります。それならば、盗臣の罪で首を斬るというのなら、聚歛の臣は磔にもかけたいものです。ただし、昔は聚歛の臣と盗臣とは別々のありさまだったからこそ、聚歛の臣よりは盗臣のほうがましだという批評も聞かれました。近ごろになると、聚歛の臣でありながら、盗臣のふるまいも兼ね、表向きは主人のためにする顔をして、内実は自分の都合のよいようにばかり取り計らいます。これを、聚歛と盗臣を合わせた大賊と申すのです。このような大罪人のことなら、どのような罪科に処すのがよいか、批評のしようもありません。初心の武士の心得のために、以上のとおりである。

解説

この段は、年貢や出費を厳しく取り立てて主家の財を膨らませる「聚歛の臣」を、主君の財布から盗む「盗臣」より重い罪だと論じます。友山は、盗臣は首を斬られるのに、聚歛の臣は磔にしたいほどだと、語気を強めて比べます。理由は、聚歛は政道そのものを損ない、民の恨みを主君に集めるからだと読めます。さらに近ごろは両者を兼ね、表向きは主人のため、内実は私腹という大賊が現れたと嘆きます。成果や節約の名目で現場を締め上げ、自分の評価だけを稼ぐ管理職の姿は、現代の組織にもあります。数字が主のためになっているのか、自分のためなのかを、友山の物差しで点検してみる価値があります。

この章句が説くこと

聚歛の臣盗臣私欲政道忠義武道初心集

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