武道初心集 / 謹慎
主君の御定紋の付たる御小袖。又は上下など拜領致し候ものは。御紋付の小袖を着用の時は。自分の紋付の上下を着し。御紋付の上下を着し候はゞ。小袖は定めて自分の紋付を着し候心得尤に候。然るに小袖も上下も一様に。御紋付を着し候ては。主君の御親類方に均しき樣子なれば。主君へ對し奉り慮外に候。右拜領の小袖上下。克く成て着用ならぬ時は。御紋所は切拔て燒捨可申候。御紋を汚すまじとの愼しみに候。扨又近所に罷在傍輩の中に。重き病人。又は憂事など有之においては。たとひ其者と心易からぬ挨拶たり共。高笑音曲等堅く相愼しみ。妻子召使などへも其段急度可申付事に候。其者のおもはくばかりにも無之。不遠慮もの不作法者と諸傍輩の下墨を懸ての愼しみに候。初心の武士心得のため仍如件。
新字:主君の御定紋の付たる御小袖。又は上下など拝領致し候ものは。御紋付の小袖を着用の時は。自分の紋付の上下を着し。御紋付の上下を着し候はゞ。小袖は定めて自分の紋付を着し候心得尤に候。然るに小袖も上下も一様に。御紋付を着し候ては。主君の御親類方に均しき様子なれば。主君へ対し奉り慮外に候。右拝領の小袖上下。克く成て着用ならぬ時は。御紋所は切抜て焼捨可申候。御紋を汚すまじとの慎しみに候。扨又近所に罷在傍輩の中に。重き病人。又は憂事など有之においては。たとひ其者と心易からぬ挨拶たり共。高笑音曲等堅く相慎しみ。妻子召使などへも其段急度可申付事に候。其者のおもはくばかりにも無之。不遠慮もの不作法者と諸傍輩の下墨を懸ての慎しみに候。初心の武士心得のため仍如件。
書き下し
主君の御定紋の付たる御小袖。又は上下など拜領致し候ものは。御紋付の小袖を着用の時は。自分の紋付の上下を着し。御紋付の上下を着し候はゞ。小袖は定めて自分の紋付を着し候心得尤に候。然るに小袖も上下も一様に。御紋付を着し候ては。主君の御親類方に均しき樣子なれば。主君へ對し奉り慮外に候。右拜領の小袖上下。克く成て着用ならぬ時は。御紋所は切拔て燒捨可申候。御紋を汚すまじとの愼しみに候。扨又近所に罷在傍輩の中に。重き病人。又は憂事など有之においては。たとひ其者と心易からぬ挨拶たり共。高笑音曲等堅く相愼しみ。妻子召使などへも其段急度可申付事に候。其者のおもはくばかりにも無之。不遠慮もの不作法者と諸傍輩の下墨を懸ての愼しみに候。初心の武士心得のため仍如件。
現代語訳
主君の定紋のついた御小袖や、裃などを拝領した者は、御紋付の小袖を着るときは自分の紋付の裃を着け、御紋付の裃を着けるときは、小袖はきっと自分の紋付を着るという心得がもっともです。小袖も裃も同じように御紋付を着けては、主君の御親類方と同じ様子になるので、主君に対して無礼になります。拝領した小袖や裃が古くなって着用できなくなったときは、御紋のところを切り抜いて焼き捨てるのがよいでしょう。これは御紋を汚すまいという慎みです。また、近所に住む同僚の中に重い病人がいたり、不幸があったりしたときは、たとえその者と親しくない間柄であっても、高笑いや音曲などを固く慎み、妻子や召使いにもそのことをきびしく申しつけるべきです。それはその者の思わくだけのことではなく、遠慮のない者、不作法者と同僚たちから悪く思われないための慎みでもあります。初心の武士の心得のために、以上のとおりである。
解説
この章句が説くこと
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