武道初心集 / 臣職一
主君より恩祿を受。一騎役を勤る士は。此身をも命をも。我物と心得候ては事濟不申候。子細を申すに。武家の奉公人の內に。二段の樣子有之候。身輕き小人中間なんど申類の義は。晝夜共に身の暇なく。手足に骨をば折候へ共。大切の一命は。必主君の御用に立ねばならぬと申す定めは無之に付。合戰迫合の塲所に於て。未練の振舞有之候ても。强ち不屆との詮議も懸り不申候。然れば身ばかりを賣切の奉公人共可申にて候。武士の義はそれとは違ひ。一命を奉る奉公人に候。抑主君はもと變の御役人なれば。萬一世の變有之刻は御身上相應の軍役有之。譬ば十萬石の高にて。馬上百七十騎。弓足輕六十人。鐵砲足輕三百五十人。鎗百五十本。旗二十本。これは公義より定め置るゝ所の軍役に候。外に召連玉ふ人數は。其大將の御器量次第。又思召次第に候。扱右の通相定れる軍役の人數を引つれ。御出陣あられたる跡とても。居城を持かためて。人に取られぬ樣に相守る程の人數をば。
新字:主君より恩禄を受。一騎役を勤る士は。此身をも命をも。我物と心得候ては事済不申候。子細を申すに。武家の奉公人の内に。二段の様子有之候。身軽き小人中間なんど申類の義は。昼夜共に身の暇なく。手足に骨をば折候へ共。大切の一命は。必主君の御用に立ねばならぬと申す定めは無之に付。合戦迫合の塲所に於て。未練の振舞有之候ても。強ち不届との詮議も懸り不申候。然れば身ばかりを売切の奉公人共可申にて候。武士の義はそれとは違ひ。一命を奉る奉公人に候。抑主君はもと変の御役人なれば。万一世の変有之刻は御身上相応の軍役有之。譬ば十万石の高にて。馬上百七十騎。弓足軽六十人。鉄砲足軽三百五十人。鎗百五十本。旗二十本。これは公義より定め置るゝ所の軍役に候。外に召連玉ふ人数は。其大将の御器量次第。又思召次第に候。扱右の通相定れる軍役の人数を引つれ。御出陣あられたる跡とても。居城を持かためて。人に取られぬ様に相守る程の人数をば。
書き下し
主君より恩祿を受。一騎役を勤る士は。此身をも命をも。我物と心得候ては事濟不申候。子細を申すに。武家の奉公人の內に。二段の樣子有之候。身輕き小人中間なんど申類の義は。晝夜共に身の暇なく。手足に骨をば折候へ共。大切の一命は。必主君の御用に立ねばならぬと申す定めは無之に付。合戰迫合の塲所に於て。未練の振舞有之候ても。强ち不屆との詮議も懸り不申候。然れば身ばかりを賣切の奉公人共可申にて候。武士の義はそれとは違ひ。一命を奉る奉公人に候。抑主君はもと變の御役人なれば。萬一世の變有之刻は御身上相應の軍役有之。譬ば十萬石の高にて。馬上百七十騎。弓足輕六十人。鐵砲足輕三百五十人。鎗百五十本。旗二十本。これは公義より定め置るゝ所の軍役に候。外に召連玉ふ人數は。其大將の御器量次第。又思召次第に候。扱右の通相定れる軍役の人數を引つれ。御出陣あられたる跡とても。居城を持かためて。人に取られぬ樣に相守る程の人數をば。
現代語訳
主君から恩禄を受け、一騎役を勤める武士は、この身も命も自分のものと心得ていては、事が済みません。そのわけを申しますと、武家の奉公人には二段の違いがあります。身分の軽い小人や中間などと申す類は、昼も夜も身に暇がなく、手足に骨を折りますが、大切な一命は必ず主君の御用に立てなければならないという定めはないので、合戦の場で未練な振る舞いがあったとしても、必ずしも不届きとして詮議されることはありません。したがって身だけを売り切りにした奉公人と申してよいでしょう。武士の場合はそれとは違い、一命を捧げる奉公人です。そもそも主君はもともと非常に備える役人ですから、万一世に変事があるときは、お身上に相応した軍役があります。たとえば十万石の高で、馬上百七十騎、弓足軽六十人、鉄砲足軽三百五十人、槍百五十本、旗二十本。これは公儀から定められた軍役です。そのほかに召し連れなさる人数は、その大将のお器量しだい、またお心しだいです。さて、このように定められた軍役の人数を引き連れて出陣されたあとでも、居城を守り固めて、他人に取られないように守るだけの人数は、
解説
この章句が説くこと
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