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武道初心集 / 孝行一

武士たらんものは。親へ孝養のつとめの厚きを以て。根本と仕り候。たとひ利發才覺。人に勝れ。辯舌明らかにして。器量よろしく生れ付候ても。親へ不孝のものは。何の用にも立不申候。子細を申に。武士道は本末を正しく致すを以て。肝要と仕る事にて候。本末の辨へ無之候ては。義理を知るべき樣無之候。義理を知らざるものは。武士とは申がたく候。本末を知ると申は。親は我身の本にして。我身は親の骨肉の末と申義を辨へ候事に候。然るに其末たる我が身を立る心から事起りて。根本たる親をば踈略に仕るにて候。是れ本末を辨へざる故に候。儲又親へ孝養を盡すに二段の樣子有之候。たとへば其親の心だてすなほにして。慈愛の誠を以て敎育に預り。其上人の取得がたき高知行に。武具馬具家財に至るまで。事缺なく。剩へ宜しき嫁までとり迎へて。何に不足なき家督を讓り。おのれは隱居となりたる親々へは。其子として。常大體の孝養にては。譽所も感じ所も無之候。赤の他人にても。入魂のうへ。我身上勝手向の事までも。

新字:武士たらんものは。親へ孝養のつとめの厚きを以て。根本と仕り候。たとひ利発才覚。人に勝れ。弁舌明らかにして。器量よろしく生れ付候ても。親へ不孝のものは。何の用にも立不申候。子細を申に。武士道は本末を正しく致すを以て。肝要と仕る事にて候。本末の弁へ無之候ては。義理を知るべき様無之候。義理を知らざるものは。武士とは申がたく候。本末を知ると申は。親は我身の本にして。我身は親の骨肉の末と申義を弁へ候事に候。然るに其末たる我が身を立る心から事起りて。根本たる親をば疎略に仕るにて候。是れ本末を弁へざる故に候。儲又親へ孝養を尽すに二段の様子有之候。たとへば其親の心だてすなほにして。慈愛の誠を以て教育に預り。其上人の取得がたき高知行に。武具馬具家財に至るまで。事欠なく。剰へ宜しき嫁までとり迎へて。何に不足なき家督を譲り。おのれは隠居となりたる親々へは。其子として。常大体の孝養にては。誉所も感じ所も無之候。赤の他人にても。入魂のうへ。我身上勝手向の事までも。

書き下し

武士たらんものは。親へ孝養のつとめの厚きを以て。根本と仕り候。たとひ利發才覺。人に勝れ。辯舌明らかにして。器量よろしく生れ付候ても。親へ不孝のものは。何の用にも立不申候。子細を申に。武士道は本末を正しく致すを以て。肝要と仕る事にて候。本末の辨へ無之候ては。義理を知るべき樣無之候。義理を知らざるものは。武士とは申がたく候。本末を知ると申は。親は我身の本にして。我身は親の骨肉の末と申義を辨へ候事に候。然るに其末たる我が身を立る心から事起りて。根本たる親をば踈略に仕るにて候。是れ本末を辨へざる故に候。儲又親へ孝養を盡すに二段の樣子有之候。たとへば其親の心だてすなほにして。慈愛の誠を以て敎育に預り。其上人の取得がたき高知行に。武具馬具家財に至るまで。事缺なく。剩へ宜しき嫁までとり迎へて。何に不足なき家督を讓り。おのれは隱居となりたる親々へは。其子として。常大體の孝養にては。譽所も感じ所も無之候。赤の他人にても。入魂のうへ。我身上勝手向の事までも。

現代語訳

武士たる者は、親への孝養の務めが厚いことを根本といたします。たとえ利発で才覚が人に勝れ、弁舌が明らかで、器量よく生まれついていても、親に不孝の者は何の役にも立ちません。その理由を申しますと、武士道は本と末を正しくすることを肝要とするものです。本末のわきまえがなければ、義理を知るはずがありません。義理を知らない者は、武士とは言いにくいのです。本末を知るというのは、親は我が身の本であり、我が身は親の骨肉の末だということをわきまえることです。それなのに、その末である我が身を立てようとする心から事が起こり、根本である親をおろそかにするのです。これは本末をわきまえないからです。さらに、親への孝養を尽くすのに二段階の様子があります。たとえば、その親の心ばえが素直で、慈愛の誠をもって教育にあずかり、そのうえ人が手に入れがたい高い知行をはじめ、武具馬具や家財に至るまで不足なく、あまつさえよい嫁までも迎えて、何の不足もない家督を譲り、自分は隠居となった親に対しては、その子として、ふつうの孝養では、ほめられるところも感心されるところもありません。赤の他人でも、親しくなって、我が身の暮らし向きのことまでも、

解説

友山は孝行を武士の根本に据え、才覚や弁舌がいかに優れていても、親に不孝な者は役に立たないと断じます。論拠は「本末」で、親は我が身の本、我が身は親の末という順序を弁えない者に義理は分からない、という筋です。さらに孝養に二段階あると述べ、この段はその前半です。慈愛深く、地位も財産も嫁も家督も整えて譲ってくれた親に、ふつうの孝養を尽くしても誉めるに足りない、と手厳しく言います。受けた恩が大きいほど、返し方の基準も上がるという考え方です。現代の組織で言えば、育ててもらい、機会を与えられた者ほど、先輩や上司への恩返しの水準が上がる、ということに通じます。

この章句が説くこと

孝行本末義理恩根本武道初心集

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