武道便蒙録 / 卷之二・天地交わる泰と、上下交わらざる否の戒め
此泰の卦、坤上にあり、乾下にあり、乾の下にあるは、天氣の下へくだる也、坤の上にあるは、地氣の上へのぼる也、天氣は下へくだり、地氣は上へのぼり、兩氣相交りて、萬物つかへさはることなく、よく通ずるなり、人事に取れば、君下を愛し、下上に懷き、上下相合して泰平なるなり、故に易の泰の卦の象に、天地交而萬物通也、上下交而其志同也とあり、又否の卦は、坤下乾上なり、上は天なり、下は地なり、泰の卦と相反するなり、天は天にありて、下にかまはず、天地の氣、互にはなれて、相交らず、因て萬物ふさがりて通ぜず、人事に取れば、君は下の難義を顧みず、恩惠なし、因て下君の事に、はまらず、故に政事滯り塞りて、上の事も、下のことも、埒あかず、後には國滅亡に及ぶなり、故に否の卦の彖に、天地不交、而萬物不通也、上下不交、而天下无邦也、とあり、語はかはれども、意はみな同きなり、下は本惡意なし、善惡ともに上のしなし次第なり、故に書經に、撫我則后、虐我則讎とあり、又孟子に、君之視臣如手足、則臣視君如腹心、君視臣如犬馬、則臣視君如國人、君之視臣如土芥、則臣視君如寇讎とあり、又荀子に、君は舟也、民水也、水所以載舟、亦所以覆舟とあり、みな人君を戒なり、又論語に君使臣以禮、臣事君以忠とあり、
新字:此泰の卦、坤上にあり、乾下にあり、乾の下にあるは、天気の下へくだる也、坤の上にあるは、地気の上へのぼる也、天気は下へくだり、地気は上へのぼり、両気相交りて、万物つかへさはることなく、よく通ずるなり、人事に取れば、君下を愛し、下上に懐き、上下相合して泰平なるなり、故に易の泰の卦の象に、天地交而万物通也、上下交而其志同也とあり、又否の卦は、坤下乾上なり、上は天なり、下は地なり、泰の卦と相反するなり、天は天にありて、下にかまはず、天地の気、互にはなれて、相交らず、因て万物ふさがりて通ぜず、人事に取れば、君は下の難義を顧みず、恩恵なし、因て下君の事に、はまらず、故に政事滞り塞りて、上の事も、下のことも、埒あかず、後には国滅亡に及ぶなり、故に否の卦の彖に、天地不交、而万物不通也、上下不交、而天下无邦也、とあり、語はかはれども、意はみな同きなり、下は本悪意なし、善悪ともに上のしなし次第なり、故に書経に、撫我則后、虐我則讎とあり、又孟子に、君之視臣如手足、則臣視君如腹心、君視臣如犬馬、則臣視君如国人、君之視臣如土芥、則臣視君如寇讎とあり、又荀子に、君は舟也、民水也、水所以載舟、亦所以覆舟とあり、みな人君を戒なり、又論語に君使臣以礼、臣事君以忠とあり、
書き下し
此泰の卦、坤上にあり、乾下にあり、乾の下にあるは、天氣の下へくだる也、坤の上にあるは、地氣の上へのぼる也、天氣は下へくだり、地氣は上へのぼり、兩氣相交りて、萬物つかへさはることなく、よく通ずるなり、人事に取れば、君下を愛し、下上に懷き、上下相合して泰平なるなり、故に易の泰の卦の象に、天地交而萬物通也、上下交而其志同也とあり、又否の卦は、坤下乾上なり、上は天なり、下は地なり、泰の卦と相反するなり、天は天にありて、下にかまはず、天地の氣、互にはなれて、相交らず、因て萬物ふさがりて通ぜず、人事に取れば、君は下の難義を顧みず、恩惠なし、因て下君の事に、はまらず、故に政事滯り塞りて、上の事も、下のことも、埒あかず、後には國滅亡に及ぶなり、故に否の卦の彖に、天地不交、而萬物不通也、上下不交、而天下无邦也、とあり、語はかはれども、意はみな同きなり、下は本惡意なし、善惡ともに上のしなし次第なり、故に書經に、撫我則后、虐我則讎とあり、又孟子に、君之視臣如手足、則臣視君如腹心、君視臣如犬馬、則臣視君如國人、君之視臣如土芥、則臣視君如寇讎とあり、又荀子に、君は舟也、民水也、水所以載舟、亦所以覆舟とあり、みな人君を戒なり、又論語に君使臣以禮、臣事君以忠とあり、
現代語訳
この泰の卦は、坤が上にあり、乾が下にあります。乾が下にあるのは、天の気が下へくだることです。坤が上にあるのは、地の気が上へのぼることです。天の気は下へくだり、地の気は上へのぼり、両気が相交わって、万物は支えなく、よく通じるのです。人事に取れば、君が下を愛し、下が上になつき、上下が相合して泰平となるのです。ゆえに『易』の泰の卦の象に、「天地交わりて万物通ずるなり。上下交わりてその志同じきなり」とあります。また否の卦は、坤が下、乾が上です。上は天、下は地です。泰の卦と相反します。天は天にあって下にかまわず、天地の気が互いに離れて相交わりません。そのため万物がふさがって通じません。人事に取れば、君は下の難儀を顧みず、恩恵がありません。そのため下は君の事にはまらず、ゆえに政事が滞り塞がって、上の事も下の事も、埒があきません。後には国が滅亡に及ぶのです。ゆえに否の卦の彖に、「天地交わらずして万物通ぜざるなり。上下交わらずして天下に邦なきなり」とあります。語は違っても、意味はみな同じです。下はもともと悪意はありません。善悪ともに上のやり方しだいです。ゆえに『書経』に、「我を撫でれば則ち后、我を虐げれば則ち讎」とあります。また『孟子』に、「君が臣を見ること手足の如くであれば、臣は君を見ること腹心の如くである。君が臣を見ること犬馬の如くであれば、臣は君を見ること国人の如くである。君が臣を見ること土芥の如くであれば、臣は君を見ること寇讎の如くである」とあります。また『荀子』に、「君は舟であり、民は水である。水は舟を載せるものであり、また舟を覆すものでもある」とあります。みな人君を戒めるものです。また『論語』に「君は臣を使うに礼を以てし、臣は君に事えるに忠を以てする」とあります。
解説

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