武治提要 / 民政・第6段
商民の風俗因循して、虛僞を常とす。これやむことを得ざるの勢にして、善者ありといへども、如何ともすべからざるの地なり。彼をして天下皆篤實誠信ならしめんことを說は、腐儒の空談也。今時皆彼が虛僞を產とすることを知て、欺るゝことなく、彼亦常として恥ることなし。故に四民の最下に屈して、富といへども貴からず。其間斗衡をあやまち、金銀を私するがごときは、重刑あり。然らば乃虛僞を常となす、亦何の害あらんや。日月霜露の照墾する處、四民の名分今時の如き正しきものはあるべからず。
新字:商民の風俗因循して、虚偽を常とす。これやむことを得ざるの勢にして、善者ありといへども、如何ともすべからざるの地なり。彼をして天下皆篤実誠信ならしめんことを説は、腐儒の空談也。今時皆彼が虚偽を産とすることを知て、欺るゝことなく、彼亦常として恥ることなし。故に四民の最下に屈して、富といへども貴からず。其間斗衡をあやまち、金銀を私するがごときは、重刑あり。然らば乃虚偽を常となす、亦何の害あらんや。日月霜露の照墾する処、四民の名分今時の如き正しきものはあるべからず。
書き下し
商民の風俗因循して、虛僞を常とす。これやむことを得ざるの勢にして、善者ありといへども、如何ともすべからざるの地なり。彼をして天下皆篤實誠信ならしめんことを說は、腐儒の空談也。今時皆彼が虛僞を產とすることを知て、欺るゝことなく、彼亦常として恥ることなし。故に四民の最下に屈して、富といへども貴からず。其間斗衡をあやまち、金銀を私するがごときは、重刑あり。然らば乃虛僞を常となす、亦何の害あらんや。日月霜露の照墾する處、四民の名分今時の如き正しきものはあるべからず。
現代語訳
商人の風俗は慣習となり、いつわりが常になっています。これはやむを得ない勢いで、善い者がいても、どうしようもない土地柄です。彼らを天下みな誠実で信義あるものにしようと説くのは、腐った儒者の空談です。いまは皆、彼らが虚偽を生業としていることを知っており、欺かれることがなく、彼らもまた常として恥じません。だから四民の最下位に屈して、富んでいても尊ばれません。そのうえで、秤や枡を誤魔化し、金銀をくすねるような者には重い刑があります。それなら、いつわりが常であっても、何の害がありましょうか。日月や霜露の照らすところ、四民の名分が今のように正しいものはありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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史記 循吏列伝楚の民の俗庳車を好む、王以為へらく庳車は馬に便ならずと、令を下して之を高くせしめんと欲す。相曰く、「令数々下れば、民従ふ所を知らず、不可なり。王必ず車を高くせんと欲せば、臣請ふ閭里に教へて其の梱を高くせしめん。車に乗る者は皆君子なり、君子は数々車を下ること能はず」と。王之を許す。居ること半歳にして、民悉く自ら其の車を高くす。此れ教へずして民其の化に従ひ、近き者は視て之に效ひ、遠き者は四面より望みて之に法るなり。
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孟子・離婁章句上孟子曰く、「離婁の明、公輸子の巧も、規矩を以てせざれば、方員を成すこと能わず。師曠の聰も、六律を以てせざれば、五音を正すこと能わず。堯舜の道も、仁政を以てせざれば、天下を平治すること能わず。今、仁心仁聞有りて、而も民其の澤を被らず、後世に法る可からざる者は、先王の道を行わざればなり。故に曰く、『徒善は以て政を為すに足らず、徒法は以て自ら行わるること能わず。』詩に云う、『愆らず忘れず、舊章に率い由る。』先王の法に遵いて過つ者は、未だ之れ有らざるなり。聖人既に目の力を竭くし、之に繼に規矩準繩を以てす。以て方員平直を為すこと、用うるに勝う可からざるなり。既に耳力を竭くし、之に繼ぐに六律を以てす。五音を正すこと、用うるに勝う可からざるなり。既に心思を竭くし、之に繼ぐに人に忍びざるの政をを以てす。而うして仁天下を覆う。故に曰く、『高きを為すには、必ず丘陵に因り、下きを為すには、必ず川澤に因る。』政を為すに、先王の道に因らずんば、智と謂う可けんや。是を以て惟だ仁者のみ宜しく高位に在るべし。不仁にして高位に在るは、是れ其の惡を衆に播するなり。上に道揆無く、下に法守無く、朝は道を信ぜず、工は度を信ぜず、君子は義を犯し、小人は刑を犯して、國の存する所の者は幸いなり。故に曰く、『城郭完からず、兵甲多からざるは、國の災いに非ざるなり。田野辟けず、貨財聚まらざるは、國の害に非ざるなり。』上、禮無く、下、學無ければ、賊民興り、喪ぶること日無けん。詩に曰く、『天の方に蹶(くつがえす)えさんとする、然く泄泄すること無かれ。』泄泄とは、猶ほ沓沓のごときなり。君に事えて義無く、進退禮無く、言えば則ち先王の道を非る者は、猶ほ沓沓のごときなり。故に曰く、『難きを君に責む、之を恭と謂う。善を陳べ邪を閉づる、之を敬と謂う。吾が君能わずとす、之を賊と謂う。』」
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『墨子』尚同下是の故に古の聖王の天下を治むるや、千里の外に賢人有り、其の鄉里の人、皆な未だ之を均しく聞き見ざるに、聖王、得て之を賞す。千里の外に暴人有り、其の鄉里、未だ之を均しく見ざるに、聖王、得て之を罰す。故に唯だ聖王を以て耳聡く目明らかなりと為す毋からんや。豈に能く一たび視て千里の外を通見せんや、一たび聴きて千里の外を通聞せんや。聖王は往きて視るにあらざるなり、就きて聴くにあらざるなり。然れども天下の冦亂盜賊を為す者をして、天下を周流するも足を重ぬる所無からしむるは、何ぞや。其の尚同を以て政を為すこと善ければなり。
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『墨子』尚同中故に古者、聖王は唯だ壹に尚同を以て正長と為す。是れ上下、請謁して通を為す。上に隠事遺利有れば、下、得て之を利し、下に蓄怨積害有れば、上、得て之を除く。是を以て數千萬里の外に善を為す者有れば、其の室人未だ徧く知らず、鄉里未だ徧く聞かざるに、天子、得て之を賞す。數千萬里の外に不善を為す者有れば、其の室人未だ徧く知らず、郷里未だ徧く聞かざるに、天子、得て之を罰す。是を以て天下の人を舉げて皆な恐懼振動惕慄して、敢えて淫暴を為さず、曰く、「天子の視聴や神なり」と。先王の言に曰く、「神に非ざるなり。夫れ唯だ能く人の耳目をして己が視聴を助けしめ、人の吻をして己が言談を助けしめ、人の心をして己が思慮を助けしめ、人の股肱をして己が動作を助けしむればなり」と。之を視聴するを助くる者衆ければ、則ち其の聞見する所の者は逺し。之を言談するを助くる者衆ければ、則ち其の徳音の撫循する所の者は博し。之を思慮するを助くる者衆ければ、則ち其の謀慮は速やかに得らる。之を動作するを助くる者衆ければ、則ち其の事を舉ぐること速やかに成る。
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