武治提要 / 立志・第4段
天下に君として、天下の富貴を極る人は、百官常に頓首して、一たび其側を過るものは虎穴を經るがごとく、一たび言を上るは龍鬚を摘がごとし。故に一言一行皆順境に習ふ。口、肥甘にあき、身、輕暖を常とす。此故に慣とこゝろ皆利路に入易を以て、其志を奪はるゝこと亦易し。富と貧と氷炭の差にして、二つのもの皆志を氣の爲に役ぜらるゝの病多し。立志の本標的にあり。四海の武將は大治を以て正鵠とす。此正鵠に的中せざるの間は、死しても休べからずとするもの、これ英雄の志なり。
新字:天下に君として、天下の富貴を極る人は、百官常に頓首して、一たび其側を過るものは虎穴を経るがごとく、一たび言を上るは竜鬚を摘がごとし。故に一言一行皆順境に習ふ。口、肥甘にあき、身、軽暖を常とす。此故に慣とこゝろ皆利路に入易を以て、其志を奪はるゝこと亦易し。富と貧と氷炭の差にして、二つのもの皆志を気の為に役ぜらるゝの病多し。立志の本標的にあり。四海の武将は大治を以て正鵠とす。此正鵠に的中せざるの間は、死しても休べからずとするもの、これ英雄の志なり。
書き下し
天下に君として、天下の富貴を極る人は、百官常に頓首して、一たび其側を過るものは虎穴を經るがごとく、一たび言を上るは龍鬚を摘がごとし。故に一言一行皆順境に習ふ。口、肥甘にあき、身、輕暖を常とす。此故に慣とこゝろ皆利路に入易を以て、其志を奪はるゝこと亦易し。富と貧と氷炭の差にして、二つのもの皆志を氣の爲に役ぜらるゝの病多し。立志の本標的にあり。四海の武將は大治を以て正鵠とす。此正鵠に的中せざるの間は、死しても休べからずとするもの、これ英雄の志なり。
現代語訳
天下に君として、天下の富貴を極めた人は、百官がつねに頭を地につけ、その側をひとたび通る者は虎の穴をくぐるように感じ、ひとたび言葉を上申するのは竜のひげを摘むように感じます。ですから、一言一行がみな順境に慣れています。口は美味に飽き、身は軽く暖かい衣を常とします。このため、慣れた心はみな利の道に入りやすく、その志を奪われることもまた容易です。富と貧は氷と炭ほどに違いますが、どちらも志が気によって使役される病が多くあります。志を立てる根本は、的を定めることにあります。四海の武将は、大いなる治を的の中心とします。この的に当たらないあいだは、死んでも休んではならないとするのが、英雄の志です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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啓発録・跋嗚呼如何せん、吾身刀圭の家に生れ、賤技に局々として、吾初年の志を遂る事を不得を。然れども所業は此に在りても、所志は彼に在り候へは、後世吾心を知り吾志を憐み吾道を信ずる者あらん歟。嘉永戊申季夏橋本左内誌。
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孟子・盡心章句上孟子曰く、「孔子東山に登りて魯を小とし、泰山に登りて天下を小とす。故に海を観る者には水と為し難く、聖人の門に游ぶ者には言と為し難し。水を観るに術有り、必ず其の瀾を観る。日月明有り、光を容るるところ必ず照らす。流水の物為るや、科に盈たざれば行かず。君子の道に志すや、章を成さざれば達せず。」
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『大和俗訓』巻之一・為学上されども芸は末なり、道義の学は本なり。芸をひたすら好めば、必学の志をうばはれて失ふものなり。いはんや私欲のなぐさみ好みにまかするをや。いましむべし。志を立つれば、たとへば西国の人のあづまへ行かんとおもひ立ちて、日々に行くに、其間昼夜あづまへ行かんと思ふ心は、念々つねにやまず。是あづまへ行く志たつなり。かくの如くなれば、つひに志す所に行きとどかずといふ事なし。道に志すも亦かくの如くなるべし。
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『正法眼蔵随聞記』巻五亦云く、仙人ありき、或人問て云く、如何がして仙を得ん、仙人の云く、仙を得んと思はゞ仙道を好むへしと、然れば学人も仏祖の道を得んと思はゞ、須く仏祖の道を好むへし、
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『慎思録』巻之一道に志す者は、須らく誠敬以て其の志を守るべし。然らざれば則ち流蕩放荒して道を忘れ、終にも亦必ず亡びんのみ。今の学者、大率人の不善を責むるの意思常に多くして、己の不善を責むるの意思常に少なし。此れ聖賢を以て人を律し、衆人を以て己を待すと謂ふ。是を以て学を為す者の、終に己に益無き所以なり。
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論語・公冶長篇顔淵・季路侍る。子曰く、「盍ぞ各々爾の志を言わざる。」子路曰く、「願わくは車馬衣裘、朋友と共にし、之を敝るとも憾み無からん。」顔淵曰く、「願わくは善に伐ること無く、労を施すこと無からん。」子路曰く、「願わくは子の志を聞かん。」子曰く、「老者は之を安んじ、朋友は之を信じ、少者は之を懐けん。」
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