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弁名 / 恭敬莊愼獨

先王之道。敬天爲本。故君子之心。毋不敬。故經傳言恭敬。亦有不言所敬者焉。如居處恭。居敬而行簡。脩己以敬。是也。居云居處云者。如居仁之居。亦謂居身於敬也。宋儒之學。主理貴知。故其見六經言敬居多。而不得其說。則歸諸心。持敬之說。所以生也。蓋主理貴知者。不信鬼神。不敬天。以爲。天理也。鬼神。陰陽之靈也。理在我。苟能盡理。則天在我矣。是其心既傲然不恭矣。以此而求敬之說。所以不得其解也。故徒持其心。不使出入。命之曰敬。夫持其心者亦心也。以心持心。兩者交戰弗已。是浮屠之下焉者猶且所不爲也。故徒欲持敬者。未有能成者矣。朱子晩悟其非。乃曰。有所畏而然。然未悟其主理貴知之非。則雖悟猶不悟。豈不哀哉。

新字:先王之道。敬天為本。故君子之心。毋不敬。故経伝言恭敬。亦有不言所敬者焉。如居処恭。居敬而行簡。脩己以敬。是也。居云居処云者。如居仁之居。亦謂居身於敬也。宋儒之学。主理貴知。故其見六経言敬居多。而不得其説。則帰諸心。持敬之説。所以生也。蓋主理貴知者。不信鬼神。不敬天。以為。天理也。鬼神。陰陽之霊也。理在我。苟能尽理。則天在我矣。是其心既傲然不恭矣。以此而求敬之説。所以不得其解也。故徒持其心。不使出入。命之曰敬。夫持其心者亦心也。以心持心。両者交戦弗已。是浮屠之下焉者猶且所不為也。故徒欲持敬者。未有能成者矣。朱子晩悟其非。乃曰。有所畏而然。然未悟其主理貴知之非。則雖悟猶不悟。豈不哀哉。

書き下し

先王の道は天を敬するを本と為す。故に君子の心は、敬せざること毋し。故に経伝に恭敬を言ふに、亦た敬する所を言はざる者有り。「居処恭」「敬に居りて簡を行ふ」「己を脩むるに敬を以てす」の如き、是れなり。「居」と云ひ「居処」と云ふ者は、「仁に居る」の居の如し、亦た身を敬に居くを謂ふなり。宋儒の学は、理を主とし知を貴ぶ。故に其の六経に敬を言ふこと多きに居るを見て、其の説を得ざれば、則ち諸を心に帰す。持敬の説の生ずる所以なり。蓋し理を主とし知を貴ぶ者は、鬼神を信ぜず、天を敬せず。以為へらく、天は理なり、鬼神は陰陽の霊なり、理は我に在り、苟も能く理を尽くさば、則ち天は我に在り、と。是れ其の心既に傲然として恭ならず。此を以て敬の説を求む、其の解を得ざる所以なり。故に徒らに其の心を持して、出入せしめず、之に命じて敬と曰ふ。夫れ其の心を持する者も亦た心なり。心を以て心を持す、両者交々戦ひて已まず。是れ浮屠の下なる者すら猶且つ為さざる所なり。故に徒らに敬を持せんと欲する者は、未だ能く成る者有らず。朱子晩に其の非を悟り、乃ち曰く「畏るる所有りて然り」と。然れども未だ其の理を主とし知を貴ぶの非を悟らず。則ち悟ると雖も猶ほ悟らざるがごとし。豈に哀しからずや。

現代語訳

先王の道は天を敬うことを根本とする。だから君子の心は、敬わないことがない。それで経書や伝に恭敬を言うとき、敬う対象を言わない場合もある。「日々の居住まいを恭しくする」「敬に身を置いて簡素に行う」「敬をもって己を修める」などがそれである。「居」「居処」というのは「仁に居る」の居と同じで、やはり身を敬に置くことをいう。宋儒の学は理を主とし知を尊ぶ。だから六経に敬の語が多いのを見ても、その説明がつかないので心に帰着させた。持敬の説が生まれたのはこのためである。思うに理を主とし知を尊ぶ者は、鬼神を信じず、天を敬わない。天は理であり、鬼神は陰陽の霊であり、理は自分の内にあるから、理を尽くせば天は自分の内にある、と考える。これではその心がすでに傲然として恭しくない。そんな心で敬の説を求めるから、その解が得られないのである。そこでただ心を押さえつけて出入りさせないことを敬と名づけた。しかし心を押さえつけるのもまた心である。心で心を押さえれば、両者が戦い続けて終わらない。これは仏教の下等な者でさえしないことである。だからただ敬を保とうとする者で、成就した者はいない。朱子は晩年にその誤りに気づき、「畏れるものがあってそうなる」と言った。しかし理を主とし知を尊ぶことの誤りにはまだ気づかなかった。これでは悟っても悟らないのと同じである。なんと哀れなことではないか。

解説

経書に対象を言わない敬があるのは、君子の心が常に天を敬っているからだと徂徠は説く。一方の宋儒は、理が自分の内にあり理を尽くせば天も自分の中にあると考えたため、敬う対象を失い、心で心を押さえつける「持敬」に行き着いた。徂徠はこれを傲慢な心から生まれた空回りの修行だと断じる。自分の理屈で何でも説明できると思うと、畏れる対象がなくなり謙虚さが消える。自分の外に敬うべきもの、たとえば顧客や社会や先人の積み重ねを持つことが、人を自然に慎み深くするのである。

この章句が説くこと

敬持敬宋儒天朱子弁名

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