万民徳用 / 農人日用・問
農人問ふて云はく、後生一大事疎ならすといへども、農業時を遂て隙なし、あさましき渡世の業をなし、今生むなしくして、未來の苦を受くべき事、無念の至なり。何として佛果に至るへきや。
新字:農人問ふて云はく、後生一大事疎ならすといへども、農業時を遂て隙なし、あさましき渡世の業をなし、今生むなしくして、未来の苦を受くべき事、無念の至なり。何として仏果に至るへきや。
書き下し
農人問ふて云はく、後生一大事疎ならすといへども、農業時を遂て隙なし、あさましき渡世の業をなし、今生むなしくして、未来の苦を受くべき事、無念の至なり。何として仏果に至るへきや。
現代語訳
農人が問うて言った。後生という一大事を疎かにしてはならないとは存じますが、農業は時節に追われて暇がなく、あさましい生計の仕事をして、今生をむなしく過ごし、来世の苦しみを受けることになるのは、無念の極みです。どうすれば成仏できるのでしょうか。
解説
『農人日用』の冒頭の問いです。農作業は季節に追われ、休む暇がないので、来世のための修行などできず、苦しみを受けるだけだと農人は嘆きます。身分制のもと、働く者の大半が抱いたであろう切実な思いです。仕事に追われて自分を高める時間がないという悩みは、現代の勤め人にも重なります。正三はこの嘆きを退けず、その仕事の場こそを修行の道場に置き換えるという、本書の核心的な答えへ進んでいきます。
この章句が説くこと
農人後生一大事渡世無念成仏
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万民徳用・商人日用・問商人問ふて云はく、たま〱人界に生を受るといへども、つたなき売買の業をなし、得利を思ふ念休む時なく、菩提にすゝむ事叶はす、無念の至なり。方便を垂れ給へ。
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万民徳用・農人日用・答前半答て云はく、農業則ち仏行なり。意得悪しき時は、賤しき業也。信心堅固なる時は、菩薩の行なり。隙を得て後生願はんと思ふは誤なり。かならず成仏をとげんと思ふ人は、身心を責めて、楽欲する心ありて後生願ふ人は、万劫を経るとも成仏すべからず。極寒極熱の辛苦の業をなし、鋤鍬鎌を用ゐ得て、煩悩の叢茂き此の身心を敵となし、すきかへしかり取り、心を着けてひた責めに責めて耕作すべし。身に隙を得る時は、煩悩の叢增長す。辛苦の業をなして、身心を責むる時は、此の心に煩なし。如此四時ともに仏行をなす、農人何とて別の仏行を好むべきや。縦ひ道塲に入て、恭敬礼拝専する人なりとも、我執の念すたらずは、何たる殊勝をなすとも、皆以て輪廻の業なり。去れは成仏堕獄は、心に有りて業になし。簡要は、唯正直の旨を守て、因果の理をしるへし。農業を勤むる者には、覚えす功徳ろなはれり。三宝を供養し、神明を祭て、国土万民世を持つ事、唯是れ耕夫の徳なり。畜類等に至る迄、此の徳受けざるはなし。是れ則ち我徳にむくはざらんや。かほど大功徳をなす農人、一心のむけやうあしくして、還て三悪道の業となす事、口をしきにあらすや。偏に道理を知て、一心を定むへし。夫れ農人と生を受くる事は、天より授け給へる世界養育の役人なり。
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万民徳用・農人日用・答後半去れは此の身を一筋に天道に任せ奉り、かりにも身のためをおもはずして、正しく天道の奉公に農業をなし、五穀を作出して、仏陀神明を祭り、万民の命をたすけ、虫類等に至る迄施すべしと大誓願をなして、一鍬一鍬に南無阿弥陀仏なむあみた仏と唱へ、一鎌一鎌に住して、他念なく農業をなさんには、田畑も清浄の地となり、五穀も清浄食と成りて、食する人、煩悩を消滅するの薬なるへし。天道此の人を守護したまはざらんや。若し貪欲の心に住して、一大事を忘れて農業をなさしめは、田畑も不浄地となり、作出す五穀も不浄食たるへし。善悪共にかならず本にむくふの理を能くしるべし。三毒の心を恣にする人には、天道の加護なくして、念仏信心有りて、念々怠らす、勇猛堅固の心に住せざる則は、福消えて災難来る、万人にいやしめられ、現世の苦患隙なくして、未来永劫、悪道に堕在せん事、何ぞ恐れざらんや。夫れ人間の一生涯は、夢の中の夢なり。楽身にあまるとも、楽はつべきにあらず。偏に一大事の理を知て、後世菩提に思ひ入り、勇猛の念仏間断なく、一念の中に農業をなさは、覚ゑす誠の心極つて、離相離名の徳そなはり、大解脱大自在の人と成りて、尽未来際、極楽浄土の快楽を受くべき事、是れをよろこばざらんや。信得せよ信得せよ。
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