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晏子春秋 / 諫上・景公愛嬖妾隨其所欲晏子諫

翟王子羨臣于景公,以重駕,公觀之而不說也。嬖人嬰子欲觀之,公曰:「及晏子寢病也。」居囿中臺上以觀之,嬰子說之,因為之請曰:「厚祿之。」公許諾。晏子起病而見公,公曰:「翟王子羨之駕,寡人甚說之,請使之示乎?」晏子曰:「駕御之事,臣無職焉。」公曰:「寡人一樂之,是欲祿之以萬鐘,其足乎?」對曰:「昔衛士東野之駕也,公說之,嬰子不說,公因不說,遂不觀。今翟王子羨之駕也,公不說,嬰子說,公因說之;為請,公許之,則是婦人為制也。且不樂治人,而樂治馬;不厚祿賢人,而厚祿禦夫。昔者先君桓公之地狹於今,修法治,廣政教,以霸諸侯。今君,一諸侯無能親也,歲凶年饑,道途死者相望也。君不此憂恥,而惟圖耳目之樂;不修先君之功烈,而惟飾駕御之伎,則公不顧民而忘國甚矣。

新字:翟王子羨臣于景公,以重駕,公観之而不説也。嬖人嬰子欲観之,公曰:「及晏子寝病也。」居囿中台上以観之,嬰子説之,因為之請曰:「厚禄之。」公許諾。晏子起病而見公,公曰:「翟王子羨之駕,寡人甚説之,請使之示乎?」晏子曰:「駕御之事,臣無職焉。」公曰:「寡人一楽之,是欲禄之以万鐘,其足乎?」対曰:「昔衛士東野之駕也,公説之,嬰子不説,公因不説,遂不観。今翟王子羨之駕也,公不説,嬰子説,公因説之;為請,公許之,則是婦人為制也。且不楽治人,而楽治馬;不厚禄賢人,而厚禄禦夫。昔者先君桓公之地狭於今,修法治,広政教,以覇諸侯。今君,一諸侯無能親也,歳凶年饑,道途死者相望也。君不此憂恥,而惟図耳目之楽;不修先君之功烈,而惟飾駕御之伎,則公不顧民而忘国甚矣。

書き下し

翟王子羨景公に臣たり、重駕を以てす。公之を観て説ばず。嬖人嬰子之を観んと欲す。公曰く、「晏子の寝病するに及ばん」と。囿中の台上に居りて以て之を観る。嬰子之を説び、因りて之が為に請いて曰く、「厚く之に禄せよ」と。公許諾す。晏子病を起こして公に見ゆ。公曰く、「翟王子羨の駕、寡人甚だ之を説ぶ。請う之をして示さしめんか」と。晏子曰く、「駕御の事、臣は職として焉に無し」と。公曰く、「寡人一たび之を楽しみ、是れ之に禄するに万鐘を以てせんと欲す、其れ足るか」と。対えて曰く、「昔、衛士東野の駕するや、公之を説び、嬰子説ばず、公因りて説ばず、遂に観ず。今、翟王子羨の駕するや、公説ばず、嬰子説び、公因りて之を説ぶ。請を為し、公之を許す、則ち是れ婦人の制を為すなり。且つ人を治むるを楽しまず、馬を治むるを楽しみ、賢人に厚く禄せず、禦夫に厚く禄す。昔者、先君桓公の地は今より狭きに、法治を修め、政教を広め、以て諸侯に霸たり。今君は、一諸侯も能く親しむ無く、歳凶にして年饑え、道途の死者相い望む。君は此れを憂恥せず、惟だ耳目の楽しみを図り、先君の功烈を修めず、惟だ駕御の伎を飾る、則ち公の民を顧みずして国を忘るること甚だしきなり。

現代語訳

翟の王子羨が景公に臣従し、重ねた馬車の駕御の技を献じました。公はこれを見ても喜びませんでした。寵愛する嬖人の嬰子がこれを見たがりました。公は言いました。「晏子が病で寝ているうちに。」そこで庭園の台の上に座ってこれを見ました。嬰子は気に入り、そのために請うて言いました。「手厚く禄を与えてください。」公は承知しました。晏子は病をおして公に会いました。公は言いました。「翟の王子羨の駕御を、私はたいそう気に入った。彼に披露させたいがどうか。」晏子は言いました。「馬を御する事は、私の職にはありません。」公は言いました。「私は一度これを楽しんだだけで、万鐘の禄を与えたいと思うが、それで足りるか。」晏子は答えました。「以前、衛の士の東野が馬車を御したとき、公はそれを喜ばれ、嬰子は喜ばず、公もそのため喜ばなくなり、見なくなりました。今、翟の王子羨が御すると、公は喜ばず、嬰子が喜ぶと、公もそのため喜ばれました。願いを請い、公がそれを許されたのは、女性が政を決めているということです。人を治めることを楽しまず、馬を扱うことを楽しみ、賢人に手厚く禄を与えず、御者に手厚く禄を与えています。昔、先君の桓公は今より領地が狭かったのに、法による治を整え、政の教えを広め、諸侯の覇者となりました。今、君は諸侯の一人も親しむ者がおらず、凶作で飢える年が続き、道に死者が連なっているのに、これを憂えも恥じもせず、ただ耳目の楽しみを図り、先君の功績を修めず、ただ馬車の技を飾る。これは公が民を顧みずに国を忘れることのはなはだしいものです。

解説

翟の王子が馬車の技を披露し、景公は初めは興味を示さなかったのに、寵愛する嬰子が気に入ると態度を変えて高禄を与えようとする場面です。晏子は病をおして公に会い、御者の技は自分の職ではないと断りつつ、かつて東野の技を公が退けたときの経緯と比べて、公の好悪が妾の好悪に左右されていると突きます。さらに、賢人に禄を与えず御者を厚遇するのは、桓公の時代と逆だと対比します。この段は次の章句に続きます。上司の判断が身近な誰かの好みで揺れると、評価の筋が失われます。その場の機嫌でなく、組織の目的に照らして報酬を決めているかを、自分に問う視点です。

この章句が説くこと

人事報酬公私寵愛桓公晏子春秋

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