養生訓 / 巻第八・灸治
一千金方に、小兒初生に病なきに、かねて鍼灸すべからず。もし灸すれば癎をなすといへり。癇は、驚風なり。小兒もし病ありて、身柱天樞など灸せば、甚いためる時は除き去りて、又灸すべし。若熱痛の甚しきを、其まゝにてこらへしむれば、五藏をうごかして驚癇をうれふ。熱痛甚しきをこらへしむべからず。小兒には、小麥の大さにして灸すべし。
新字:一千金方に、小児初生に病なきに、かねて鍼灸すべからず。もし灸すれば癎をなすといへり。癇は、驚風なり。小児もし病ありて、身柱天枢など灸せば、甚いためる時は除き去りて、又灸すべし。若熱痛の甚しきを、其まゝにてこらへしむれば、五蔵をうごかして驚癇をうれふ。熱痛甚しきをこらへしむべからず。小児には、小麦の大さにして灸すべし。
書き下し
一千金方に、小児初生に病なきに、かねて鍼灸すべからず。もし灸すれば癎をなすといへり。癇は、驚風なり。小児もし病ありて、身柱天枢など灸せば、甚いためる時は除き去りて、又灸すべし。若熱痛の甚しきを、其ままにてこらへしむれば、五蔵をうごかして驚癇をうれふ。熱痛甚しきをこらへしむべからず。小児には、小麦の大さにして灸すべし。
現代語訳
『千金方』に、「生まれたばかりの子に病がないのに、前もって鍼灸をしてはならない。もし灸をすれば癇をおこす」とあります。癇とはひきつけのことです。子どもにもし病があって、身柱や天枢などに灸をするなら、ひどく痛がるときは取り除いて、また灸をすべきです。もし熱さや痛みのひどいのをそのまま我慢させれば、五臓を動かしてひきつけを患います。熱さや痛みのひどいのを我慢させてはいけません。子どもには、小麦ほどの大きさにして灸をすべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第八・灸治一艾炷の大小は、各其人の強弱によるべし。壮なる人は大なるがよし。壮数も、さかんなる人は多きによろし。虚弱にてやせたる人は、小にしてこらへやすくすべし。多少は、所によるべし。熱痛をこらへがたき人は多くすべからず。大にしてこらへがたきは、気血をへらし気をのほせて、甚害あり。痩せて虚怯なる人、灸のはじめ熱痛をこらへがたきには、艾炷の下に塩水を多く附け、或は塩のりを附けて五七壮灸し、其後常の如くすべし。如此すればこらへやすし。猶もこらへがたきは、初五六壮は艾を早く去るべし。如此すれば後の灸こらへやすし、気升る人は一時に多くすべからず。明堂灸経に、頭と四肢とに多く灸すべからずといへり。肌肉うすき故なり。又頭と面上と四肢に灸せば、小きなるに宜し。
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『養生訓』巻第八・灸治一灸すべき所をえらんで、要穴に灸すべし。みだりに所多く灸せば、気血をへらさん。一一切の頓死、或は厭死したるにも、足の大指の爪の甲の内、爪を去ること韮葉ほど前に、五壮か七壮灸すべし。一衰老の人は、下部に気すくなく、根本よわくして気升りやすし。多く灸すれば気上りて、下部弥空虚になり、腰脚よわし、おそるべし。多く灸すべからず。殊に上部と脚に多く灸すべからず。中部に灸すとも、小にして、一日に只一穴、或は二穴、一穴に十壮ばかり灸すべし。毎日灸して、壮数をかさねて、数十壮にいたるべし。一時に多く灸すべからず。一たび気のぼりては、老人は、下部のひかへよわくしてくせになり、気升る事やみがたし。老人にも、灸にいたまざる人あり、一槩に定めがたし。但かねて用心すべし。
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『養生訓』巻第八・灸治一灸後淡食して、血気和平に、流行しやすからしむ。厚味を食ひ過すべからず、大食すべからず、酒に大に酔ふべからず。熱麪、生冷、冷酒、動風の物、肉の化しがたき物、くらふべからず。一灸法、古書には、其大さ根下三分ならざれば火気達せずといへり。今世も、元気つよく肉厚くして、熱痛をよくこらふる人は、大にして壮数も多かるべし。もし元気虚弱肌肉浅薄の人は、艾炷を小にしてこらへよくすべし。壮数も半減ずべし。甚熱痛して堪へがたきをこらふれば、元気へり気升り、血気錯乱す。其人の気力に応じ宜に随ふべし。灸の数を幾壮と云ふは、強壮の人を以て定めていへるなり。然れば、灸経にいへる壮数も、人の強弱により病の軽重によりて、多少を斟酌すべし。古法にかかはるべからず。虚弱の人は、灸炷小にしてすくなかるべし。虚人は、一日に一穴、二日に一穴灸するもよし。一時に多くすべからず。
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『養生訓』巻第八・灸治一癰疽、及、諸瘡腫物の初発に、早く灸すれば、腫れあがらずして消散す。うむといへども、毒かろくして早く癒えやすし。項より上に発したるには、直に灸すべからず。三里気海に灸すべし。凡腫物出でて後七日を過ぎば、灸すべからず。此灸法、三因方以下諸方書に出でたり。医に問ひて灸すべし。一事林広記に、午後に灸すべしと云へり。
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『養生訓』巻第八・灸治一坐して点せば坐して灸す、臥して点せば臥して灸す。上を先に灸し下を後に灸す。少きを先にし多きを後にすべし。一灸する時、風寒にあたるべからず。大風、大雨、大雷、陰霧、大暑、大寒、雷電、虹蜺にあはば止めて灸すべからず。天気晴れて後灸すべし。急病はかかはらず。灸せんとする時、もし大に飽き大に飢ゑ、酒に酔ひ、大に怒り憂ひ悲み、すべて不祥の時灸すべからず。房事は、灸前三日、灸後七日忌むべし。冬至の前五日後十日、灸すべからず。
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『養生訓』巻第八・鍼是内経の戒なり。是皆、瀉有りて補無きを謂ふなり、と正伝にいへり。又浴して後、即時に鍼すべからず、酒に酔へる人に鍼すべからず、食に飽きて即時に鍼さすべからず。鍼医も病人も、右内経の禁を知りて守るべし。鍼を用ひて利ある事も害する事も、薬と灸より速なり。よく其利害をえらぶべし。つよく刺して、痛み甚しきはあしし。又右にいへる禁戒を犯せば、気へり、気のぼり、気うすく、はやく病を去らんとして、かへつて病くははる。是よくせんとして悪しくなるなり。つつしむべし。一衰老の人は、薬治鍼灸導引按摩を行ふにも、にはかに癒さんとてあらくすべからず。あらくするは、是即効を求むるなり。たちまち禍となる事あり。若当時快しとても、後の害となる。
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