養生訓 / 巻第八・灸治
一項のあたり、上部に灸すべからず、氣のぼる。老人氣のぼりては、くせになりてやまず。一脾胃氣弱にして、食滯りやすく泄瀉しやすき人は、是陽氣不足なり。殊に灸治に宜し。火氣を以て土氣を補へば、脾胃の陽氣發生し、よくめぐりてさかんになり、食滯らず、食進み元氣ます。每年二八月に、天樞水分脾兪腰眼三里を灸すべし。京門章門も、かはるがはる灸すべし。脾の兪胃の俞も、かはるがはる灸すべし。天樞は尤しるしあり。脾胃虛し食滯りやすき人は、每年二八月灸すべし。臍中より兩旁各二寸又一寸五分もよし。かはるがはる灸すべし。灸炷の多少と大小は、其氣力に隨ふべし。虛弱の人老衰の人は、灸炷小にして、壯數もすくなかるべし。天樞などに灸するに、氣虛弱の人は、一日に一穴、二日に一穴、四日に兩穴灸すべし。一時に多くして熱痛を忍ぶべからず。日數をへて灸してもよし。
新字:一項のあたり、上部に灸すべからず、気のぼる。老人気のぼりては、くせになりてやまず。一脾胃気弱にして、食滞りやすく泄瀉しやすき人は、是陽気不足なり。殊に灸治に宜し。火気を以て土気を補へば、脾胃の陽気発生し、よくめぐりてさかんになり、食滞らず、食進み元気ます。毎年二八月に、天枢水分脾兪腰眼三里を灸すべし。京門章門も、かはるがはる灸すべし。脾の兪胃の兪も、かはるがはる灸すべし。天枢は尤しるしあり。脾胃虚し食滞りやすき人は、毎年二八月灸すべし。臍中より両旁各二寸又一寸五分もよし。かはるがはる灸すべし。灸炷の多少と大小は、其気力に随ふべし。虚弱の人老衰の人は、灸炷小にして、壮数もすくなかるべし。天枢などに灸するに、気虚弱の人は、一日に一穴、二日に一穴、四日に両穴灸すべし。一時に多くして熱痛を忍ぶべからず。日数をへて灸してもよし。
書き下し
一項のあたり、上部に灸すべからず、気のぼる。老人気のぼりては、くせになりてやまず。一脾胃気弱にして、食滞りやすく泄瀉しやすき人は、是陽気不足なり。殊に灸治に宜し。火気を以て土気を補へば、脾胃の陽気発生し、よくめぐりてさかんになり、食滞らず、食進み元気ます。毎年二八月に、天枢水分脾兪腰眼三里を灸すべし。京門章門も、かはるがはる灸すべし。脾の兪胃の兪も、かはるがはる灸すべし。天枢は尤しるしあり。脾胃虚し食滞りやすき人は、毎年二八月灸すべし。臍中より両旁各二寸又一寸五分もよし。かはるがはる灸すべし。灸炷の多少と大小は、其気力に随ふべし。虚弱の人老衰の人は、灸炷小にして、壮数もすくなかるべし。天枢などに灸するに、気虚弱の人は、一日に一穴、二日に一穴、四日に両穴灸すべし。一時に多くして熱痛を忍ぶべからず。日数をへて灸してもよし。
現代語訳
うなじのあたりや上部に灸をしてはいけません。気がのぼります。老人は気がのぼると、癖になってやみません。脾胃の気が弱くて、食べ物がとどこおりやすく下痢しやすい人は、陽気が不足しているのです。とくに灸治療がよいのです。火の気で土の気を補えば、脾胃の陽気が生き生きと生じ、よくめぐって盛んになり、食べ物がとどこおらず、食欲が進み、元気が増します。毎年二月と八月に、天枢・水分・脾兪・腰眼・三里に灸をすべきです。京門と章門も代わる代わる灸をすべきです。脾兪と胃兪も代わる代わる灸をすべきです。天枢はもっとも効き目があります。脾胃が虚して食べ物がとどこおりやすい人は、毎年二月と八月に灸をすべきです。臍の中心から両わきにそれぞれ二寸、または一寸五分でもよいでしょう。代わる代わる灸をすべきです。艾炷の数と大きさは、その人の気力に従うべきです。虚弱な人や老いて衰えた人は、艾炷を小さくして、壮数も少なくすべきです。天枢などに灸をするとき、気の虚弱な人は、一日に一穴、二日に一穴、四日に両穴灸をすべきです。一度に多くして熱さや痛みを忍んではいけません。日数をかけて灸をするのもよいのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第八・灸治一今の世に、天枢脾兪など、一時に多く灸すれば、気升りて痛忍へがたきとて、一日に一二壮毎日灸して、百壮にいたる人あり。又三里を毎日一壮づつ百日つづけて灸する人あり。是亦時気をふせぎ、風を退け、上気を下し、衂をとめ、眼を明らかにし、胃気をひらき食をすすむ。尤益ありと云ふ。医書においていまだ此説を見ず。されど試みて其効を得たる人多しと云ふ。
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『養生訓』巻第八・灸治一灸すべき所をえらんで、要穴に灸すべし。みだりに所多く灸せば、気血をへらさん。一一切の頓死、或は厭死したるにも、足の大指の爪の甲の内、爪を去ること韮葉ほど前に、五壮か七壮灸すべし。一衰老の人は、下部に気すくなく、根本よわくして気升りやすし。多く灸すれば気上りて、下部弥空虚になり、腰脚よわし、おそるべし。多く灸すべからず。殊に上部と脚に多く灸すべからず。中部に灸すとも、小にして、一日に只一穴、或は二穴、一穴に十壮ばかり灸すべし。毎日灸して、壮数をかさねて、数十壮にいたるべし。一時に多く灸すべからず。一たび気のぼりては、老人は、下部のひかへよわくしてくせになり、気升る事やみがたし。老人にも、灸にいたまざる人あり、一槩に定めがたし。但かねて用心すべし。
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『養生訓』巻第八・灸治一灸後淡食して、血気和平に、流行しやすからしむ。厚味を食ひ過すべからず、大食すべからず、酒に大に酔ふべからず。熱麪、生冷、冷酒、動風の物、肉の化しがたき物、くらふべからず。一灸法、古書には、其大さ根下三分ならざれば火気達せずといへり。今世も、元気つよく肉厚くして、熱痛をよくこらふる人は、大にして壮数も多かるべし。もし元気虚弱肌肉浅薄の人は、艾炷を小にしてこらへよくすべし。壮数も半減ずべし。甚熱痛して堪へがたきをこらふれば、元気へり気升り、血気錯乱す。其人の気力に応じ宜に随ふべし。灸の数を幾壮と云ふは、強壮の人を以て定めていへるなり。然れば、灸経にいへる壮数も、人の強弱により病の軽重によりて、多少を斟酌すべし。古法にかかはるべからず。虚弱の人は、灸炷小にしてすくなかるべし。虚人は、一日に一穴、二日に一穴灸するもよし。一時に多くすべからず。
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『養生訓』巻第八・灸治一坐して点せば坐して灸す、臥して点せば臥して灸す。上を先に灸し下を後に灸す。少きを先にし多きを後にすべし。一灸する時、風寒にあたるべからず。大風、大雨、大雷、陰霧、大暑、大寒、雷電、虹蜺にあはば止めて灸すべからず。天気晴れて後灸すべし。急病はかかはらず。灸せんとする時、もし大に飽き大に飢ゑ、酒に酔ひ、大に怒り憂ひ悲み、すべて不祥の時灸すべからず。房事は、灸前三日、灸後七日忌むべし。冬至の前五日後十日、灸すべからず。
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『養生訓』巻第八・灸治一人の身に灸をするは、いかなる故ぞや。曰、人の身の生けるは、天地の元気をうけて本とす。元気は陽気なり。陽気は、あたたかにして火に属す。陽気は、よく万物を生ず、陰血も亦元気より生ず。元気不足し、欝滞してめぐらざれば、気減りて病生ず。血も亦へる。然る故、火気をかりて陽をたすけ元気を補へば、陽気発生してつよくなり、脾胃調ひ食すすみ、気血めぐり飲食滞塞せずして、陰邪の気去る。是灸のちからにて、陽をたすけ気血をさかんにして、病をいやすの理なるべし。
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『養生訓』巻第八・養老一衰老の人は脾胃よわし。夏月は尤慎みて保養すべし。暑熱によりて、生冷の物をくらへば泄瀉しやすし。瘧痢もおそるべし。一たび病すれば大にやぶれて、元気へる。残暑の時、殊におそるべし。又寒月は、老人は陽気すくなくして、寒邪にやぶられやすし。心を用ひてふせぐべし。
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