養生訓 / 巻第八・育幼
一小兒をそだつるは三分の飢と寒とを存すべし、と古人いへり。いふ意は、小兒は、少し飢やし、少しひやすべしとなり。小兒にかぎらず、大人も亦かくの如くすべし。小兒に、味よき食に飽かしめ、きぬ多く著せてあたゝめ過すは、大にわざはひとなる。俗人と婦人は、理にくらくして、子を養ふ道を知らず、只あくまでうまき物を食せ、きぬあつく著せてあたゝめ過すゆゑ、必ず病多く、或は命短し。貧家の子は衣食ともしき故、無病にしていのち長し。
新字:一小児をそだつるは三分の飢と寒とを存すべし、と古人いへり。いふ意は、小児は、少し飢やし、少しひやすべしとなり。小児にかぎらず、大人も亦かくの如くすべし。小児に、味よき食に飽かしめ、きぬ多く著せてあたゝめ過すは、大にわざはひとなる。俗人と婦人は、理にくらくして、子を養ふ道を知らず、只あくまでうまき物を食せ、きぬあつく著せてあたゝめ過すゆゑ、必ず病多く、或は命短し。貧家の子は衣食ともしき故、無病にしていのち長し。
書き下し
一小児をそだつるは三分の飢と寒とを存すべし、と古人いへり。いふ意は、小児は、少し飢やし、少しひやすべしとなり。小児にかぎらず、大人も亦かくの如くすべし。小児に、味よき食に飽かしめ、きぬ多く著せてあたため過すは、大にわざはひとなる。俗人と婦人は、理にくらくして、子を養ふ道を知らず、只あくまでうまき物を食せ、きぬあつく著せてあたため過すゆゑ、必ず病多く、或は命短し。貧家の子は衣食ともしき故、無病にしていのち長し。
現代語訳
子どもを育てるには、三分の飢えと寒さを残しておくべきだと古人は言いました。その意味は、子どもは少し空腹にし、少し冷やすのがよいということです。子どもに限らず、大人もまたこのようにすべきです。子どもに味のよい食べ物を飽きるまで食べさせ、着物を多く着せて温めすぎるのは、大きな災いとなります。世俗の人や女性は道理に暗くて、子どもを養う道を知らず、ただ飽きるまでおいしい物を食べさせ、着物を厚く着せて温めすぎるので、必ず病が多く、あるいは命が短くなります。貧しい家の子は着る物も食べる物も乏しいので、病がなく命が長いのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之一・総論上一凡小児を育つるに、初生より愛を過すべからず。愛過ぐれば、かへりて子をそこなふ。衣服をあつくし、乳食にあかしむれば、必病多し。衣を薄くし。食を少くすれば、病少なし。富貴の家の子は、病多くして身よわく、貧賤の家の子は、病少なくして身強きを以て、其故を知るべし。小児の初生には、父母の古き衣を改めぬひて、著せしむべし。衣のあたらしくして温なるは、熱を生じて病となる。古語に、凡小児を安からしむるには、三分の飢と寒とをおぶべしと云へり。三分とは、十の内三分を云ふ。此意は、少しは飢し、少しは冷すがよしとなり。是古人小児を保つの良法なり。世俗是を知らず。小児に乳食を多く与へてあかしめ、甘き物果物を多く食はしむる故に、気ふさがりて。
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『養生訓』巻第八・育幼一小児は、脾胃もろくしてせばし。故に食にやぶられやすし。つねに、病人をたもつがごとくにすべし。小児は、陽さかんにして熱多し。つねに熱をおそれて、熱をもらすべし。あたため過せば筋骨よわし。天気よき時は、外に出して風日にあたらしむべし。如此すれば、身堅固にして病なし。肌に著する服は、ふるき布を用ふ。新しき衣新しき綿は、あたため過してあしし、用ふべからず。一小児を保養する法は、香月牛山医士のあらはせる育草に詳に記せり。考へ見るべし。故に、今ここに略せり。
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『和俗童子訓』巻之一・総論上必脾胃を破り、病を生ず。小児の不慮に死する者は、多くは是によれり。また衣をあつくして温め過せば、熱を生じ、元気をもらすゆゑ、筋骨ゆるまりて、身弱し。皆是病を生ずるの本なり。唐も大和も、古より童子の衣の脇をあくるは、童子は気さかんにして、熱多きゆゑ、熱をもらさんが為なり。是を以て、小児は温め過すが悪しき事を知るべし。天気よき時は、をりをり外に出して、風日にあたらしむべし。斯の如くすれば、はだへ堅く、血気強くなりて、風寒に感ぜず。風日にあたらざれば、膚もろくして、風寒に感じ易く、わづらひ多し。小児の養ひの法を、かしづき育つる者に、能くいひ聞かせ教へて、心得しむべし
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『養生訓』巻第三・飲食上一俗のことばに、食をひかへ過せば、養たらずして痩せ衰ふと云ふ。是養生不知人の言なり。欲多きは人のうまれつきなれば、ひかへ過すと思ふが、よき程なるべし。一すける物にあひ、飢ゑたる時にあたり、味すぐれて珍美なる食にあひ、其品おほく前につらなるとも、よきほどのかぎりの外はかたく慎みて、其節にすぐすべからず。一飲み食ふものにむかへば、むさぼりの心すすみて、多きにすぐる事をおぼえざるは、つねの人のならひなり。酒食茶湯ともに、よきほどと思ふよりも、ひかへて七八分にて、猶も不足と思ふ時、早く止むべし。飲食して後には、必ず十分に満つるものなり。食する時十分と思へば、必ずあき満ちて、分に過ぎて病となる。
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『養生訓』巻第八・養老一老人は、体気おとろへ腸胃よわし、つねに小児を養ふごとく心を用ふべし。飲食のこのみきらひをたづね、其寒温の宜きをこころみ、居室をいさぎよくし、風雨をふせぎ、冬暖かに夏涼くし、風寒暑湿の邪気をよく防ぎて犯さしめず、常に心を安楽ならしむべし。盗賊水火の不意なる変災あらば、先両親を驚かしめず、早く介保し出すべし。変にあひて病起らざるやうに心遣あるべし。老人は、驚けば病おこる。おそるべし。一老の身は、余命久しからざる事を思ひ、心を用ふる事わかき時にかはるべし。心しづかに事すくなくて、人に交る事も稀ならんこそ、あひにあひて宜しかるべけれ。是も亦老人の気を養ふ道なり。
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『和俗童子訓』巻之一・総論上一小児の時より、早く父母兄長に事へ、賓客に対して、礼を勤め、読書、手習、芸能を勤めまなびて、悪しき方に移るべきいとまなく苦労さすべし。はかなき遊にひまを費さしめて、ならはし悪しくすべからず。衣服、飲食、器物、居処、僕従に至るまで、其家の位よりまどしくばうそくにして、もてなしうすく、心のままならざるがよし。幼き時艱難に習へば、年たけて難苦に堪へやすく、忠孝の勤を苦まず、病少なく驕なくして、放逸ならず。能く家を保ちて、一生の間、幸となり、後の楽多し。もし不意の変にあひ、貧窮に至り、或は戦場に出でても、身の苦なし。斯の如く子を育つるは、誠によく子を愛するなり。又幼少より養豊かにして、もてなしあつく、心のままにして安楽なれば、おごりにならひ、私慾多くして、病多く、艱難に堪へず、父母に事へ君に仕ふるに、勤を苦みて、忠孝も行ひ難く、学問芸能の勤成り難し。
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