養生訓 / 巻第八・養老
一老人は、體氣おとろへ腸胃よわし、つねに小兒を養ふごとく心を用ふべし。飮食のこのみきらひをたづね、其寒溫の宜きをこゝろみ、居室をいさぎよくし、風雨をふせぎ、冬暖かに夏涼くし、風寒暑濕の邪氣をよく防ぎて犯さしめず、常に心を安樂ならしむべし。盜賊水火の不意なる變災あらば、先兩親を驚かしめず、早く介保し出すべし。變にあひて病起らざるやうに心遣あるべし。老人は、驚けば病おこる。おそるべし。一老の身は、餘命久しからざる事を思ひ、心を用ふる事わかき時にかはるべし。心しづかに事すくなくて、人に交る事も稀ならんこそ、あひにあひて宜しかるべけれ。是も亦老人の氣を養ふ道なり。
新字:一老人は、体気おとろへ腸胃よわし、つねに小児を養ふごとく心を用ふべし。飲食のこのみきらひをたづね、其寒温の宜きをこゝろみ、居室をいさぎよくし、風雨をふせぎ、冬暖かに夏涼くし、風寒暑湿の邪気をよく防ぎて犯さしめず、常に心を安楽ならしむべし。盗賊水火の不意なる変災あらば、先両親を驚かしめず、早く介保し出すべし。変にあひて病起らざるやうに心遣あるべし。老人は、驚けば病おこる。おそるべし。一老の身は、余命久しからざる事を思ひ、心を用ふる事わかき時にかはるべし。心しづかに事すくなくて、人に交る事も稀ならんこそ、あひにあひて宜しかるべけれ。是も亦老人の気を養ふ道なり。
書き下し
一老人は、体気おとろへ腸胃よわし、つねに小児を養ふごとく心を用ふべし。飲食のこのみきらひをたづね、其寒温の宜きをこころみ、居室をいさぎよくし、風雨をふせぎ、冬暖かに夏涼くし、風寒暑湿の邪気をよく防ぎて犯さしめず、常に心を安楽ならしむべし。盗賊水火の不意なる変災あらば、先両親を驚かしめず、早く介保し出すべし。変にあひて病起らざるやうに心遣あるべし。老人は、驚けば病おこる。おそるべし。一老の身は、余命久しからざる事を思ひ、心を用ふる事わかき時にかはるべし。心しづかに事すくなくて、人に交る事も稀ならんこそ、あひにあひて宜しかるべけれ。是も亦老人の気を養ふ道なり。
現代語訳
老人は体の気が衰え胃腸が弱いので、いつも幼い子を養うように心を用いるべきです。飲食の好き嫌いを尋ね、その寒い暖かいのよい加減を試し、居間を清らかにし、風雨を防ぎ、冬は暖かく夏は涼しくし、風・寒・暑・湿の邪気をよく防いで犯させず、いつも心を安楽にさせるべきです。盗賊や水害・火事などの不意の災難があれば、まず両親を驚かせないようにして、早く介抱して連れ出すべきです。変事にあって病がおこらないように心づかいがあるべきです。老人は驚くと病がおこります。恐るべきことです。老いた身は、余命が長くないことを思って、心の用い方を若いときと変えるべきです。心静かにして用事を少なくし、人と交わることもまれにするのが、老いの身にちょうど似つかわしいでしょう。これもまた老人の気を養う道です。
解説
この章句が説くこと
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