養生訓 / 巻第八・養老
一つねに靜養すべし、あらき所作をなすべからず。老人は、少しの勞動により、少しのやぶれ、疲れ、うれひによりて、たちまち大病おこり死にいたる事あり。常に心を用ふべし。一老人は、つねに盤坐して、凭几を後に置きてよりかゝり坐すべし。平臥を好むべからず。
新字:一つねに静養すべし、あらき所作をなすべからず。老人は、少しの労動により、少しのやぶれ、疲れ、うれひによりて、たちまち大病おこり死にいたる事あり。常に心を用ふべし。一老人は、つねに盤坐して、凭几を後に置きてよりかゝり坐すべし。平臥を好むべからず。
書き下し
一つねに静養すべし、あらき所作をなすべからず。老人は、少しの労動により、少しのやぶれ、疲れ、うれひによりて、たちまち大病おこり死にいたる事あり。常に心を用ふべし。一老人は、つねに盤坐して、凭几を後に置きてよりかかり坐すべし。平臥を好むべからず。
現代語訳
いつも静養すべきで、荒々しい振る舞いをしてはいけません。老人は、少しの労働や、少しの無理、疲れ、憂いによって、たちまち大病がおこり、死に至ることがあります。いつも心を用いるべきです。老人は、いつもあぐらをかいて座り、脇息を後ろに置いてよりかかって座るのがよいでしょう。横になって寝ることを好んではいけません。
解説
老人の静養と座り方の心得を述べた短い単位です。老いた体は少しの無理や心労で急に大病になることがあるので、荒い動作を避けて静かに過ごせと注意しています。そのうえで、横になってばかりいるのではなく、脇息を背に楽な姿勢で座れと勧めているのは、寝たきりにならないための知恵とも読めます。無理はさせないが、寝かせきりにもしないという釣り合いは、今の高齢者の介護でも、体力を保つために大切にされている考え方です。
この章句が説くこと
静養老人姿勢無理介護
関連する章句
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『養生訓』巻第八・養老一老人は、体気おとろへ腸胃よわし、つねに小児を養ふごとく心を用ふべし。飲食のこのみきらひをたづね、其寒温の宜きをこころみ、居室をいさぎよくし、風雨をふせぎ、冬暖かに夏涼くし、風寒暑湿の邪気をよく防ぎて犯さしめず、常に心を安楽ならしむべし。盗賊水火の不意なる変災あらば、先両親を驚かしめず、早く介保し出すべし。変にあひて病起らざるやうに心遣あるべし。老人は、驚けば病おこる。おそるべし。一老の身は、余命久しからざる事を思ひ、心を用ふる事わかき時にかはるべし。心しづかに事すくなくて、人に交る事も稀ならんこそ、あひにあひて宜しかるべけれ。是も亦老人の気を養ふ道なり。
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『養生訓』巻第八・養老一老いては気すくなし。気をへらす事を忌むべし。第一、いかるべからず。うれひ、かなしみ、泣き、なげくべからず。喪葬の事にあづからしむべからず。死を弔ふべからず。思ひを過すべからず。尤多言を忌む。口早く物云ふべからず、高く物いひ、高くわらひ、高くうたふべからず。道を遠く行くべからず、道をはやく行くべからず、重き物をあぐべからず。是皆気をへらさずして、気ををしむなり。
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『養生訓』巻第八・養老一老人の保養は、常に元気を惜みてへらすべからず。気息を静にして、あらくすべからず。言語をゆるやかにして早くせず、言すくなくし、起居行歩をもしづかにすべし。言語あららかに、口はやく声高く、颺言すべからず。怒なくうれひなく、過ぎ去りたる人の過をとかむべからず、我が過をしきりに悔ゆべからず、人の無礼なる横逆をいかりうらむべからず。是皆、老人養生の道なり。又老人の徳行のつつしみなり。
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『養生訓』巻第八・養老一老人は気よわし。万の事用心ふかくすべし。すでに其事にのぞみても、わが身をかへり見て、気力の及びがたき事はなすべからず。一とし下寿を越え七十にいたりては、一年をこゆるもいとかたき事になん。此ころにいたりては、一とせの間にも、気体のおとろへ、時々にかはりゆく事、わかき時数年を過ぐるよりも猶甚けぢめあらはなり。斯くおとろへゆく老の身なれば、よくやしなはずんば、よはひを久しくたもちがたかるべし。又此としごろにいたりては、一とせを経る事、わかき時一二月を過ぐるよりはやし。おほからぬ余命をもちて、斯く年月早くたちぬれば、此後のよはひ、いく程もなからん事を思ふべし。人の子たらん者此時心を用ひずして孝をつくさず、むなしく過ぎなん事愚なるかな。
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『養生訓』巻第八・養老一老後官職なき人は、常に只わが心と身を養ふ工夫を専にすべし。老境に無益のつとめのわざと芸術に心を労し、気力をつひやすべからず。一朝は、静室に安坐し香をたきて、聖経を少し読誦し、心をいさぎよくし俗慮をやむべし。道かわき風なくば、庭圃に出でて、従容として緩歩し、草木を愛玩し時景を感賞すべし。室に帰りても、閑人を以て閑事をなすべし。よりより几案硯中のほこりをはらひ、席上階下の塵を掃除すべし。しばしば兀坐して睡臥すべからず。又世俗に広く交るべからず。老人に宜しからず。
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『養生訓』巻第八・養老一老人は、大風雨大寒暑大陰霧の時、外に出づべからず。かかる時は、内に居て、外邪をさけて静養すべし。一老いては、脾胃の気衰へよわくなる。食すくなきに宜し、多食するは危し。老人の頓死するは、十に九は皆食傷なり。わかくして脾胃つよき時に、ならひて食過ぐれば、消化しがたく、元気ふさがり病おこりて死す。つつしみて食を過すべからず。ねばき飯こはき飯、もち、だんご、麪類、糯の飯、獣の肉、凡消化しがたき物を多くくらふべからず。
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